2017年8月17日木曜日

成長も衰退も目に見える


 三日間の霧ヶ峰を過ごして帰ってきた。帰って来てみると、さいたまも涼しいではないか。「16日間連続の雨」と、記録二番目を喧伝している。なんだ、こちらも雨だったのかと、連日雨模様の霧ヶ峰の天気を赦す気になった。

 14日の霧ヶ峰は雲がかかる。それでも八島湿原から車山のレーダードームが見える。エゾノカワラナデシコ、ヨツバヒヨドリ、コオニユリなど湿原の花々はお湿りに生き生きとしている。塩尻駅で出逢ったいとこ同士の孫たちは、もうすっかりご機嫌のおしゃべりに興じて、湿原へ繰り出す。9歳から13歳までの孫4人の脚は速い。爺婆は、置いて行かれる。孫たちの父母が付き添うから心配はしないが、去年の秋にはこうではなかったと、成長の速さと衰退の着実さを、対比的に思い浮かべる。ま、それでいいのだ、が……。


 ハクサンフウロばかりか、タチフウロやアサマフウロが群居する。点在するマツムシソウの落ち着いた薄青色、オミナエシの黄色、ノリウツギの白、ヤナギランの赤紫、ツリガネニンジンの青い花が草の匂いに満ち満ちた緑の海の中に彩を添える。ホオアカが小さな木立に止まって鳴いている。爺婆は八島湿原の気配に身を浸すようにゆっくりと歩く。男孫たちが爺婆を気遣って待っている。女孫たちはトイレへ行くと言って先へ行ってしまった、と。

 ヨツバヒヨドリに大きな蝶が羽を休めている。通りかかった中高年が「大きな蝶がいるよ」と、連れ合いに話しかけている。孫が「アサギマダラだよ」と声をあげる。「へえ、名前を知ってるんだ」と中高年。「そうだよ、渡りをする蝶だよ」と、ここへ来るたびに聞かされた話を披露している。

 御射山をめぐって、出発点に戻った。先行していた孫たちは、出発点への登り口を見損なって、もうひと廻りするかのように八島湿原の木道を行ってしまった。どこかで、二回り目だと気づいたのであろう。ひきかえしてきた。身体もしっかりしてきた。13歳孫は170センチを軽く超えている。9歳孫娘も歩くことにかけては遜色がない。孫の親たちは40歳代だから、いまもっとも体力がある時期だ。爺婆だけが、「ついていけない」と思いはじめた。ま、自然の摂理ってものだろう。

 二日目の午前中、昨日よりも濃い霧に包まれる。最初から雨着の上下を着用し、鷲ヶ峰を往復してくることにした。孫たちが先行する。ところどころで待っては、また先行する。孫たちは暑いからと半袖になる。そうかなあと、年寄りは雨着を着たまんま。がれ場を上り、草木がかぶさるような道の露払いをして、待っているが、見晴らしはまったくない。鷲ヶ峰の山頂まで、1時間で着いた。去年までは1時間半以上かかっていたと思う。はじめて上ろうとした数年前は、山頂まで行けなかったように思う。目につくコトゴトを口にしながら、孫たちは疲れ知らずになった。婆ちゃんが用意したお菓子を取り出して、登頂祝いをしている。山頂の「眺望表示石」をみて、13歳孫が「槍ヶ岳はどこ?」「富士山どこ?」と探す。あった。「オレ、どっちも登ったんやで」と得意そうだ。「11歳孫が、ボクも行ける?」と父親の顔を見る。13歳孫が「オレも一緒に行ってあげる」と先輩風を吹かしている。

 往復2時間半くらいであった。午後から本降りになった。車山へ行くのをやめて、乗馬を楽しんですませた。孫たちは宿に入ってからも、いろいろなゲームを出して遊んでいる。「じいちゃんもやろう」と、ブロックスという新しいゲームを教えてくれる。最大四人が隅からブロックを並べて、全部並び終えるかどうかを競う。なかなか智恵を働かせる仕掛け。ブロックを繋ぐ「かど」の数と、その出方を考えさせる。孫たちはどうやってでも、遊びつくす方法を知っていると言わんばかりだ。

 最終日も雨。朝食後チェックアウトするまでの合間に、1時間半ほど静かな湿原を歩いた。半数の孫は部屋でゲームに夢中だ。雨着はいるかどうかという軽い雨。カミサンに教わりながら、花を見て歩く。雨に濡れて花に着いた花はひときわ鮮烈になる。ハバヤマボクチの緑色の、棘のように見える花びら先の露がうつくしい。蜘蛛の糸に露がついて鮮やかな工作のかたちをくっきりと見せる。バックの緑や霧がかかった八島湿原もよかった。シラヤマギクもフシグロセンノウもチダケサシも、なるほど名前の由来がわかるようで、面白い。同行した9歳孫の母親への甘え方も、10歳孫娘と違って母子関係の違いを見せていた。

 歩くばかりでなく、食事の仕方にも家族」の違いが現れる。子どもは子どもとの関係で育つが、親との関係で育まれる。それぞれに成長を感じさせ、内面への糸口を見せてくれたようだった。年寄りは内面が成熟していくと思えばいいが、熟しきって、後は爛熟するか腐朽するか、要するに、腐りはじめる。涸れるには、生身が邪魔。腐るのは生きている証。いずれにせよ衰退の兆候がうちにも外にも満ち満ちて、バトンを渡し終わったような気がしていた

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