2017年8月9日水曜日

山歩きのQ&A


Q:薬師岳の山行、「75歳以降の私の山歩きの目安になる」と言ってたけど、どうだった?
A:行ってよかった。2013年の飯豊山のときに較べたら、間違いなく力が落ちている。飯豊山のときは3泊4日、約20kgの荷物で、アプローチを除くと、一日目10時間半、二日目8時間半、三日目7時間半を歩いた。下山したときは、オールアウトの状態。ほぼ力を使い尽くしたって感じ。麓の元旅館の風呂場を借りて汗を流させてもらい、冷たい水をごちそうになってやっと息を吹き返したって……。思い出しましたよ。だけど今回は、一日目4時間の散策、二日目5時間、三日目5時間、四日目6時間、五日目2時間半と日にちは多かったけど、一日の行程は飯豊の時の半分くらい。力を使って歩いているって感じはまったくなかった。行程の配分がうまくいったのかな。荷物も多いときで13kgと軽かった。上るときも下るときも、足を出せばうまい具合にそこに置き場があるっていうか、ほとんど意識することなく歩一歩とすすみましたね。そうだ、これからは、こういうペースで歩けばいいんだって思いましたよ。たしかに「目安」になりましたね。


Q:飯豊のときは山小屋も、今回とは違っていたでしょ。
A:そうですね。飯豊は全部避難小屋ですから、寝袋や食料、調理用具は運び上げなければならなかった。薬師岳の縦走ルートはゴールデンルートと言われて、槍ヶ岳へ至る、表銀座、裏銀座と並ぶ北アルプスの代表的コースですよ。山小屋はしっかりとあるし、人も多い。営業小屋としては十分成り立っているんじゃないですか。私は今回、お湯を沸かして使えるように、小さいストーブとコッフェルとガスボンベをリュックに入れていったのですが、使わなかったですね。小屋でテルモスに百円でお湯がもらえるというので、それで済ませました。ありがたいことですよ。

Q:でもお昼はどうしました。
A:そうそう、小屋ではお昼はどうしますって、毎回、聞かれましたね。おにぎりなどを作ってくれていたようです。私はあんパンを一日一個、野菜ジュースをひとパック、インスタントラーメンを一日一個、ビスケットの小袋を4袋、後はお湯で溶く味噌汁とかココアなどを用意していきました。味噌汁やインスタントラーメンは塩分をとるために持ち歩いています。行動中は、あんパンと野菜ジュースとみそ汁を口にしました。インスタントラーメンは、いずれも小屋に着いてからのお昼に食べましたね。これで十分でした。ふだんから体重が(標準に比べて)2kgくらい多いのですが、これが「蓄え」になっているんですね。だから半日食べなくてもエネロスになりません。

Q:ビスケットは食べなかったんですか。
A:じつは入山の前に富山駅で焼酎をひと瓶買い入れてもっていきました。富山産の芋焼酎。「Godfather RETURNS」っていう、31度のやつ。天狗平山荘でペットボトルに詰め替えて、山小屋用の「お疲れ酒」にしたんですよ。これはおいしかったねえ。11時過ぎに着くでしょ。夕食まですることがないんですよ。お湯で割って、ちびりちびりと3時間くらいやる。口の中に甘みが広がり、それが腸に沁みこんでいくのが、じんわりと感じられる。今日の仕事をやり終えたという思いが体の隅々にまで行き渡って、至福のときです。ビスケットはそのときのつまみです。おいしかったですね。行く前は、山行中は飲酒にしようと殊勝なことを考えていたんです。でも、新幹線が富山に着くまでに変わりましてね。乗り換えの待ち合わせ時間があったものですから、ついつい、ね。結果的には、良かったですよ。

Q:ははあ。お酒を飲んで半日過ごす。そりゃあ、快適な山旅でしたね。
A:痛風に悪いってんで、ビールは極力飲まないようにしているんですがね、じつは焼酎も、お酒はあまり飲まない方がいいそうなんですよ。でもね、5,6時間、山歩いた後で、飲むお湯割りはね、今日の行程を振り返って、何がどうだったって言葉になるわけじゃありませんが、全身で振り返っているって感じがね、達成感っていうか、成就感っていうか、人生を歩いてここまできているんだって心もちになってね……。あっ、そういえば、飯豊のときはお酒を持ち込まなかったですね。それだけ緊張感があったというか、自分の力のぎりぎりのところを歩くように思っていたんでしょうね。今回は、最終日を除いて4日分と思った720mlがあったので、一日一合と思っていたのですが、三日でなくなってしまいましてね。四日目の宿泊地、太郎平小屋ではビールをひと缶買って一人乾杯しましたよ。これは、単なる儀式でしたね。それはそれで、もっと飲みたいとは思いませんでしたから、お酒って飲む「場」によるんですね。

Q:単独行っていうのは、危ないでしょ。
A:そうですね。歳をとると、昔の山仲間が歩けなくなったりして、けっこう単独行が多くなります。でも、一人で歩くってのは、他人への気遣いをしなくていいものですから、自分のペースを通すことができて、案外、いいものなんですよ。ただね、転んだときとか、怪我をして歩けなくなった時などに同行者がいれば助かるものを、居なかったがために取り返しのつかないことになるってことが、一番の心配ですよね。でもね、ま、そのときになったらどう思うかわかりませんが、これまで、事故にも遭わず山歩きをして来られたというのは、それだけで幸運だったわけで、この先何かがあっても、仕方がないと思う気になってはいます。一回くらいは不運に見舞われることがあってもしょうがない、ってわけですよ。でもね、一人だから、ほんとうに慎重になります。下りなどで、ここで滑ったり転落したらいけないねってところが、けっこうありますから、ゆっくりと腰を低くして、摑むところをつかんで、脚を降ろしていったりしていますよ。むろん、歳をとったなあって、自分で思いながらですけど。

A:山小屋の同室者になるってのも、面白いと思った。五色ヶ原山荘の、6畳間というのが良かったのかもしれない。4人しかいないから挨拶もする、言葉も交わすよね。いろんな山旅をしている人がいるってわかる。私より若い人ばかり。単独行の大阪の59歳は北アルプスを知り尽くしているみたいで、あまり歩かれないルートを探索するように歩いているようだった。針の木岳を越えて入山してロッジくろよんから五色ヶ原に登ってきた人だ。すでに三日目だったと思うが、このあと剣岳方面へ行って大日岳を歩いて四日後に下山すると話していた。私と同じ下山日だ。他の二人連れが下山したら富山駅に近い不二越の「極楽の湯」にいくというと、「じゃあ一緒になるかもしれませんね、極楽の湯で」と59歳も応じていた。よく知られた「日帰り温泉」らしい。結局私も、下山後にそこで汗を流すことになった。

A:あとの川崎と大阪の二人連れは、仕事か何かの先輩と後輩。若い53歳の方は、山歩きを計画してから六甲山などへ足を運んで「トレーニング」を積んできたらしい。だが、音を上げかけている様子。私の歳を知って、雪渓や岩場の通過の仕方、ストックの使い方などをあれこれと聞いてくる。ちょっと煩わしいと思ったが、まあ、そういう山談義をするのも「山」のうちとつきあったのが、その後の三日間に幸いした。この二人連れと私の行程が同じで、山小屋も一緒であった。出発してのちに彼らを追いこすようになり、彼らの歩行ペースと私のそれとが比較できるようなことになって、大いに参考になった。

Q:比較って言うと?
A:同じ行程を四日間とってみると、出発から到着まで、どういうふうに歩いているか、どのくらいのペースでどのような休みをとっているかも、おおよそ想像がつきます。いいかどうかは別にして、私はほとんど休憩をとらずに歩きます。他の方々は30分に一回くらいは休憩をとっている。単独行では水分やカロリーを補給したりするためですが、他人と一緒だとそれだけではすみませんから、当然それだけ時間がかかるわけですね。それを考えると、行動時間が長いからと言って、歩行力が劣っているわけではありません。でも、単独行の自分のことだけは見えますね。私の歩行力をチェックしてみると、おおよそ4時間超まではコースタイムの8割程度のペースで歩いている。それを越えて6時間に近づいてくると、コースタイムに近くなってくる。飯豊山のことやその他の山行のことを考えると、7、8時間を超えるとガタっとペースが落ちますね。たぶんそのあたりが私の臨界点なのだろうと思います。そういう意味では、今後の山行計画はコースタイム8時間くらいまでを一日の行動と考える必要がありますね。

Q:「山行記録」には「あなたの黄色いザックが前を行くのが見えた」と言われたことが刺激になっているってことが、ありましたね。
A:ああ、それは60歳代半ばの二人連れのことばですね。この人たちも、初日から最後まで行程が一緒でした。使っていたザックカバーが一回り大きなものだったので、目立っていたんでしょうね。ですがその話を、五色ヶ原の小屋で聞いたとき、「見られている」という意識が、私の中に生まれたのだと思います。こういうのは、すごく力になります。同室の二人連れにも、次の日には同じように言われました。あの縦走コースは、一望できるんですよ。下って上る向こうの踏路まで1時間とか1時間半かかるけど、それが一目に入るんです。だからと言ってペースを速くするわけではありません。マイペースを観ている自分の眼が見えるという感じかな。

A:他の人たちは自分たちのペースに合わせて、朝食をとらずにでるとか、翌日の出発時刻を変更します。そうして途中で追いついたり追い抜いたりすると、私自身の歩き方が(年齢を差し引いても)まあ、そこそこいいところを行っているって思うわけですよ。自信になりますね。でもそれと同時に、反省しなくちゃならないこともありました。私の主宰している「山の会」は、平均年齢70歳の人たちですが、この山歩きがおおむねコースタイムなんです。お昼をとったりするとそれだけ余計に時間がかかります。私は、参加するみなさんに、コースタイムで歩ける力を維持するようにしましょうと呼びかけていました。ですが、今回の60歳半ばの二人連れにせよ、川崎と大阪の若い二人連れにせよ、コースタイム6時間のところを1時間も2時間も余計にかかっているんですね。そうか、ふだん歩きなれていない人たちにとっては、それくらい負荷がかかることなのだと、あらためて思い返した次第です。つまり、私の山の会の人たちは古稀年齢としては驚異的だと思い直したわけです。今後は、そういうものだと思って、向き合っていこうと思っています。

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