2017年8月24日木曜日
孫との五日間(上) 子どもの好み、子どもの思案
いやはや、全力投入であった。息子夫婦が仕事で三日間出張になるので、前後をあわせて五日間、小学生の孫二人を預かった。19日、新幹線でやってくる東京駅へ迎えに出たのはカミサン。兄妹二人が真っ先に飛び出してきたそうだ。たぶん、「次は東京、終点です」とアナウンスがあってすぐに、荷物をもって出口に並んだのであろう。妹がキャリーバッグを曳いていたという。この孫兄妹は食事が面倒だ。食べなかったり、好みが会うたびに変わっていたりする。ご飯にふりかけばかりを食べたり、唐揚げばかりに執着したり、兄妹の好みが違ったりするから、カミサンはピリピリしている。夕食にと、とりあえず蕎麦を打つ。これは二人とも好んで食べる。大人以上に食べたこともあるので、大人二人前分を余計に打つ。カミサンは天麩羅を揚げる。ところが、思ったほど食べない。大人半人前が余る。珍しいことだ。
二日目から三日間は奥日光へ連れ出す。でも、出かける朝はつくらなければならない。前の週に霧ヶ峰で遊んだ折に、なめこの味噌汁が好きと聞いた。ご飯をお替りしてもいる。むろん余計に炊いた。ところが食べない。カミサンはうちの米がまずいのだろうかと、ふだん考えたこともない愚痴をこぼす。それでも兄孫はなめこ汁の椀を空にしたが、妹孫は手も付けない。ま、朝の食事だから、食べようと食べまいといいじゃないかと私は大様に構えてみせるが、料理長としてはそうもいかないのであろう。
奥日光では宿の料理だから、全部お任せ。お子様ディナーは、牛ステーキやハンバーグは喰いつくように食べたが、妹孫はシチューにも野菜サラダにも手も付けず、兄がそれをもらって食べていた。妹は兄のコーンスープをもらって食べるというふうに、まあ、兄妹でバランスが取れているというのだろうか。仲がいいのが何よりだと思った。ところがこの兄妹、この宿の朝の食事が大好きという。バイキング。要するに好きなものだけ食べられるのが、いいのだろう。みていると、兄孫はご飯に唐揚げ二つ、あとは牛乳を三杯お代わり。妹孫はおかゆに梅干しを四つ。なんとも質素というか、食べないというか。放っておけばいいものを、わが家の料理長は気をもむのだ。
奥日光では三日間とも、処を選んで歩きに歩いた。そのときのお昼はコンビニで買っていったりした。むろんカミサンが連れて買い求める。パン二つとヨーグルト、あとは菓子ひと種類。欲もない。そのパンも、ひとつは食べ残す。ただ、(コンビニでの?)買い物が珍しいのか、ぶらりぶらりと店内を見て回って、品物を手に取ってみている。好みの判断ははっきりしている。選ぶのは得意ってところか。
最終日、東京駅で電車に乗せる前にスカイツリーに連れて行った。350mとか450m上空から東京の町を見下ろすというのは、しかし、子どもにはあまり受けない。地誌的な感懐がないから、ごみごみした人工都市を上からみているというだけのようだ。大人は、あれが国技館と江戸東京博物館、向こうが東京ドーム、こちらが上野の山と、来し方を重ねて振り返るような気分でみているが、東京に暮らしたことのない子どもにそれを求めるわけにはいかない。むしろタワーの低いところにあるキャラクターグッズやお土産などに気持ちが向かう。こちらに来る前に親からお小遣いをもらっている。だれと誰に買うというのを算段して、小出しにあれやこれと物色する。見かねて付き添う婆が、お小遣いを全部使って足りないところは出してあげる、と渋い提案をして子どもらを気遣う(甘い婆ちゃんと思われてはかなわないと思っていたのであろう)。だからスカイツリーを出るときに子どもたちの財布はすっからかんになっている(と婆は思っていた)。
東京駅で父ちゃんと母ちゃんへの手土産を婆が買ってもたせて、新幹線が出るまで見送った。「無事定刻に発ちました」と名古屋で出迎える母親にメールを送る。2時間足らずののちに、「無事着きました。土産話をするのに夢中で、両方が話しかけて大騒ぎです」と返信が来た。カミサンは本当にほっとしている。全力で孫たちをお接待したのだなあと、私は感心している。と、夜になって息子からメールが送られてきたとカミサンが見せる。感謝の言葉のあとに「新幹線のなかでも、アイスを買い食いして楽しんだようです」とあった。(えっ、あの子たちまだ、お金を持っていたんだ)と婆ちゃんは絶句している。スカイツリーの商品売り場で妹孫が財布を開けて持ち金を計算し、少し思案した後で、買うのをやめたことを、私は知っている。じつはそのとき財布をのぞきこんだら、600円あまり残っていた。きっと妹孫が、「お兄ちゃんにもおごってあげる」などと言ってアイスを買ったのではないか。なかなかしたたかな、味なことをやると、これまた感心している。
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