2019年6月19日水曜日

広範な取材力に感心


 ドン・ウィンズロウ『仏陀の鏡への道』(創元推理文庫、1997年)を読む。『犬の力』を読んで、どこまで「のびしろ」があるのか気になったから。読んでよかった。ただのハードボイルド好みの作家ではなかったと思ったから。しかし人の動きを前にすすめる推進力に関するこの作家の「動機」は単純明快。表題の仏陀の鏡への道というほどの、深い洞察はない。こけおどしといえばこけおどし、めくらましといえばめくらまし。だが、中国事情について、これだけアメリカの作家が知悉しているというのは、驚きであった。「犬の力」のCIAとメキシコや中南米諸国への介入というかかわりが、あれほど迫真力をもって書き込まれていたのも、なるほどと思わせる。作家というのは、たとえ推理作家であれ、世界の情勢について十分すぎるほどの取材をしていなくちゃならないんだと、感嘆してしまった。でも、それだけのことではありました。

0 件のコメント:

コメントを投稿