2020年2月6日木曜日
春立ちぬ三浦アルプス山歩き
晴れて暖かい昨日(2/5)、逗子駅東口前は、明るい陽ざしに包まれて通勤客でにぎわっている。着ていた羽毛服をザックに収めてバスを待つ。山歩講・日和見山歩の参加者が顔をそろえる。今日のCL・Stさんが地図を配り、今日の行程を説明する。
ここから三浦半島をさらに南下するバスは混んでいない。わずか7分ほどで下車して、木の下登山口へ向かう。海から立ち上がって風雨に削られて残された半島だから、いきなりの急斜面。舗装されている。
「車が上るんだ」
「雨で濡れていたら大変だわね」
とおしゃべりしながら上る。9時23分。
「あの建物のあるところが仙元山よ」
と、Stさんが指さす。今日のルートの最初のピークが登山口からも見える。斜面の突き当りにある教会の左脇から登山道に入る。常緑照葉樹と大きなシダ、ヤツデ、シュロなどの、いかにも温暖地の植生が、朝日に照らされて「春」を感じさせる。15分ほどで仙元山に着く。
「富士山よ!」
と誰かが声を上げる。振り返ると、相模湾が広がり、その向こうに雪をかぶった富士山がすっきりと姿を見せている。手前の江の島が、まるで海に浮かぶひょっこりひょうたん島のようにみえる。相模湾を仕切るように、対岸に長く南へ山並みが延びる。伊豆半島だ。
手前には、海辺まで街並みがびっしり埋めている。この町の人は毎日この風景を見て暮らしていると思うと、住宅が密集するわけが分かるように感じる。
カンノン塚へ向かう。冬枯れの木立を背の低い笹薮が取り囲む明るい道、やがて樹林帯に入り、木の根が剥き出しになって山肌を這い、その脇を避けるように山道がつづく。朽ち始めたような大木が、幾本も立ち並ぶ。なかにはねじれにねじれて強い風に耐えて成長し、何本かが支え合っているうちに一本になってしまったような大木もある。この木が言葉をもてば、何百年かのこの地の気象の定点観測を告げてくれるかもしれない。
「これって、危ないよね。台風でも来たら、倒れちゃうんじゃない」
と先を歩く人の声が聞こえる。いかにも、いまにも、という風情の木が何本もある。
標高200メートルほどの稜線を少しばかり上り下りしてくねくねと歩く。木立の間から、下の住宅の屋根が見える。と、斜面に根こそぎ倒れ落ちて、土をつけた根をこちらに向けている大木が、そちらこちらにみえる。いかにも昨年の台風というのもあれば、根に着いた土が年数を経て古びてみえるのもある。そう言えばここは、日本列島の南岸を通過したり、南の海から吹く風当たりの強い土地だ。近年、それがひどくなってきているから、ここに暮らすのも、いつも風光明媚というわけにはいかないかもしれない。
「←カンノン塚」の分岐に来る。周りの木に、「木に直接ペンキを塗らないでください。葉山町産業振興課」と書いた張り紙をつけている。この地点で大きく左折するのがわかりにくくて、以前ペンキで方向指示をしていたから、業を煮やしてこんな張り紙をしたんですねと、CLのStさんが言葉を添える。そう言えば90度左折する「←カンノン塚」の標識は新しそうだが、「←仙元山・実教寺→」の標識は古びている。
「はぜの木」と標識がつけられた木の幹に、左右に長く削り込まれた傷が、何本もついている。Stさんが「これって、リスがかじった跡です」という。「ハゼってかぶれるんじゃなかった?」とmsさんがつぶやく。やがて、かじり跡のついた木がいくつもあるのに気づく。古い傷跡もあれば、今日かじったんじゃない? というような生々しいのもある。ハゼの木ばかりじゃなく、サクラも、それ以外の大木もかじられている。リスが前を走ったとokdさんが声を上げる。リスが飛び込んだと思われる茂みをのぞき込んでいるが、とどまっているわけがない。
カンノン塚に着く。歩き始めて1時間20分ほど。ここにも大きな木が撓み、寄り集まり、枝をいっぱいに広げている。この木にもリスのかじった跡がついていた。その根方に小さな石塔がある。これが「カンノン」の謂れだろうか。
「←乳頭山3.4km」と標識にある。常緑照葉樹の尾根道はつづく。道を塞ぐように大木の枝がぽっきり折れている。自重の重さに耐えきれなかったか、台風のせいか、その両方のせいか。すごいねえといいながら通る。幹の途中が奇妙に360度ねじれたきもあった。どうしてこんなふうになったんだろう。
椿の花が咲いている。上り口の方では花のまゝ落ちていたが、ここでは今満開という風情だ。
あっ、これは侘助ですよとmsさんが指さす。ワビスケという名に、なかなか風情が漂う。お茶につかう花ではなかったか。
小さな上り下りを繰り返し、「乳頭山2.3km」と標識がある。なのに、駅でもらったマップはこの周辺一帯を「道迷いエリア」と記している。
道には「葉12」とか「D17」という地点表示の記号が記されている。「葉」というのは葉山町が設置したもの、「D」というのはダイワハウスが設置したもの、とある。ほかに逗子市設置の「ず23」とか逗子消防が用いる「ふ」(ふたごやま)とか、「ぬ」(ぬまま)というのがあった。「ぬまま」というのが逗子消防とかかわっているとはあったが何であるかは、とうとうわからなかった。消防署設置の地点標識は、もし遭難でもして助けが必要なときは、この番号を知らせろというのだろう。
何しろこの一帯を「三浦アルプス」と称している。単なる地元の名称と思っていたら、YAMAPというアプリの地図でも「三浦アルプス」でこの一帯の地図が表示された。全国区で用いられている名称のようだ。
「沼津アルプス」「皆野アルプス」「都留アルプス」「宇都宮アルプス」と、歩いたアルプスもずいぶんな数になる。日本語のアルプスというのは、「山並み」という程度の意味のようだ。
背丈が高く密生した竹藪がある。道は刈り込まれているから難なく歩けるが、これが自然のままだと、行き止まりになる。途中の11時ころ、若い女性のトレイルランナーとすれ違う。もし彼女が田浦駅から来たのだとすると、この辺りが中間点か。向こうさんの方が足が速そうだから、4割地点か。その先の木に「乳頭山→」と手書きの表示が2枚縛り付けてある。そのうちの1枚はだらりと垂れ落ちている。それがいかにも、「迷い道」の核心部という風情で面白い。11時40分。「大桜」に着く。「←観音塚1.7km・1.7km乳頭山→」、ちょうど中央地点とわかる。ここでお昼にする。
お昼タイムに、4月から12月までの山行計画を話す。日和見山歩の担当者も、帰るまでに決めてくれればと投げかける。八ヶ岳の縦走とか、日本の2位、3位の標高3000メートルの大縦走の話や大台ヶ原や八経ヶ岳の話もする。
いつしか「蒜山て、すごいのよ、お花といい、周りの高原といいすばらしいの」という話が出る。TVでやっていたらしい。私が育った岡山県の北部の山だ。「行ったこと、あります?」と問われ、あるよ、いい山だね、(皆さんで)計画して行けば……、とそっけなく言う。蒜山だけ取り出していこうと言ったって、それより手前にまだっていない、いくつもの面白い山はある。中国山地の山にしたって、氷ノ山や那岐山も、六甲山もなかなか面白い。適度にピックアップして、その方面に旅する機会を見つけて歩かなければ、いけないものだ。
35分の昼食タイムを取って、再び歩き始める。身体が重いと、食べた自分に愚痴りながら歩いているのが、可笑しい。また若い女性のトレイルランナーがやってきた。
ツバキはいよいよ爛漫となる。また風で倒れて道を塞ぐ大木があった。その向こうには折れているのも見える。手入れはされているが、取り除くほどの力はいれていないということか。ね
やっとここに来て、木々の間から乳頭山がみえた。なるほどこんもりと盛り上がっている。回り込まないと近づけないらしい。
大桜から50分ほどで乳頭山に着いた。視界は開けない。わずかに木の間から横須賀港が見える。二子山からのルートとの合流点に来る。小さな表示が「田浦→」と見える。
その先に5メートルほどの岩場があった。ロープを張ってある。Stさんはロープを使わずに右側を下る。okdさんはロープにつかまって左側を下る。mrさんは「どっちがいいの?」と聞きながら、左のロープをつかみ、msさんはさかさかと右の岩に足を置いて、身を降ろしていく。
おっかなびっくりで下ってきたmrさんに「これがなくちゃあ、アルプスっていえないから」というと、ワハハと笑って、「これで終わり?」とSt さんに訊ねている。
「田浦の梅林」につく。白梅が見事に花開いて、香りが漂う。下方に大きな横須賀港と海が広がる。遠方の山体には紅梅もみえて、春の三浦半島が暖かさにう~んと背伸びをしている感触が伝わってくる。
梅林の中央に展望塔が立っている。そのらせん階段を上る。東京湾の中央部が一望できる。去年大楠山に上った時は、房総半島の尖端がみえたが、今回それは、前方南の高台に阻まれて陰に隠れる。遠方に左側を丸く切り落とした高層ビルがみえる。横浜港のランドマークだ。
上陸禁止で停泊している「豪華客船はみえる?」とmsさんが身を乗り出す。だが、そんなには近くない。
「あれ、東京湾アクアライン?」と誰かが指さしていう。
ええっ、だったらその右の方に目につくビル群はどこなんだと思って、木更津と君津や富津の位置関係を私はすっかり間違えていることに気づいた。木更津の方が北にあるのだ。となると、そうだ、アクアラインの海に接するところは、海ほたるだ。しばらく、東京湾の賑わいを眺めていた。
田浦駅近くの住宅地を歩く。標高差50メートルほどの崖に防壁を施して、上にも下にも住宅がある。「こわいわねえ」といいながら、St さんがokdさんと見ている。
梅林から20分ほどで田浦駅に着いた。14時18分の電車が出たところであった。今日の行動時間は、ほぼ5時間。お昼を除くと、4時間半足らずだ。
スマホの「機内モード」を直すと、びびー、びびーと何件かニュースが入る。ふとみると「逗子で崖崩れ」とある。下を歩いていた女性が巻き込まれた、とも。
どこだろう。いま歩いて来たルートの際立つ急斜面と、つい先ほど歩きながらみた住宅地の「こわいわねえ」という声を思い出していた。
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