2020年2月1日土曜日

わが裡なる宇宙の基部


 昨日(1/31)、大腸検査を終えた。身近な体験者が「たいへんだった」という身体的な負担はなく、ただ、病院に行ってから終わるまでの時間が長かったことが、たいへんだった。行くとすぐに「下剤」をかける。便の様子を見て、前日と当日午前の「措置」がうまく運んでいるかどうかを看護師がチェックする。そのあと、点滴をする。部屋の片隅をカーテンで仕切ってあるだけのベッドに横になり、たぶん1時間ほどかける。
 そのとき看護師に「何時ころ終わります?」と訊ねる。じつは、4時半から歯医者の予約をしている。間に合わないなら、予約をキャンセルしなければならない。「まだ2件、胃の内視鏡がありますから、3時ころになりますね」と看護師の回答。なんだ、それなら余裕だと思う。

 
 うとうとしていると、患者や身体検査を予約に来た人との看護師たちとの応対が聞こえる。空いている日時、それ以前にやってもらうこと、いま通院している病気はあるか、飲んでいる薬などなど。
 去年夏に脳出血で倒れて以来、手先がマヒするので薬を飲んでいる、と。
 薬の名は?
 わかりません。あっ、ちょっと待って。入ってるかも。ああ、あった、あった。これ。
 ××××ですか。ちょっと調べてみますね。(せんせ~い、これって、****。ハイわかりました)。当日朝は飲まないで、もってきてくださいネ。
 ……こちらのはネ、お隣の薬屋さんで処方してもらってくださいネ。出て右の、そう、角にある薬屋さんネ。
 ……そちらの廊下に出た先の部屋がレントゲン室です。前の長椅子でお待ちください。
 というやりとりが、重なって耳に飛び込んでくる。午後1時半を過ぎているのに、診察室の裏隣にあるちょっと広い検査室では、まだ看護師たちと患者たちとのやりとりがつづいている。
 病院て、午前中の診療が終わって午后4時ころの診療開始までは「お休み」と思っていたが、そうじゃないんだ。私のような「検査」も午後に行われている。それが3時に終わるとすると、医師の休憩時間は、1時間あるかないか。結構たいへんなんだなあと思う。
 
 気づくと、点滴がもう終わりになる。そろそろ2時半かな、と思うが手元に時計はない。
 看護師は「もうしばらく休んでいてください」といって、また「仕事」に戻る。
 どのくらい時間がたったか、看護師が呼びに来た。トイレを済ませ、廊下の向こうの検査室に入る。機器の準備をしている。ベッドに横になり、指先に脈拍と血流をみるパラメーターを装着して、態勢を取る。
 医師がやってきて、ハイでは、はじめますよ、といって開始する。空気を吹き込みながら挿入していくのが、「痛み」になるのかもしれない。医師は「力を抜いて」「呼吸をしてください」といいながら、「ハイいま横行結腸への角になります」などといいながら作業をしているが、モニターの画面は、ちらりとしかみえない。
 
 「うまくいきました。ここから抜いて行きますので、痛くはありません」
 といって、体の向きを変え、モニターがよく見えるように知てくれる。
 「虫垂の入口です、これが。小腸もちょっと覗いてみておきましょう。上行結腸です、この壁の向こうの色が変わって見えるのが、肝臓ですよ。……」
 と、その都度観察しながらカメラが動いていく。あとで「所見」をみると「大腸+一部小腸」とあったから、大腸は全部内視したのだ。医師は通過地点のポリープがないこと、憩室が浅いこと、ここの紫色が痔であることなどを説明しながら、コトをすすめた。
 「問題はありません。2年に1回くらい検査するといいでしょう」というのが、医師の診たてであった。
 
 腸の襞の凸凹が大きいので、カメラの頭部をぐるりと回しているのだろう、同じところを矯めつ眇めつ眺めて通る。先日観た「プラネットアース・火星」の画像のように、遠くから見ている分には赤茶っぽい滑らかな丸い球だが、近づくと岩だらけの大小の凸凹の地形が、重なる山と谷の起伏のように続く。あるいは、氷河のクレパスに連なる洞窟のように、折り重なった青氷の隙間が向こうへと、あるいは細く、あるいは広く延々とつらなっている。これぞ、わが裡なる宇宙なんだ。いや、ここで栄養源と水分を吸収して体をつくるのだから、宇宙の基部といえる。ちょっと感動ものだ。
 
 医師は「空気を抜きながら行きますので」といって、操作をする。ははあ、これをやるかどうかが、「たいへん」にかかわるのだなと思う。「検査後に腹が痛くなって、医者へ行った」と友人のkさんが話していたことを思い出す。とすると、この医師は、上手なんだろうか。そんなことを思いながら、検査を終えた。
 
 待合室に戻って時計を見ると、なんと4時45分。「精算」を待つ間に、遅ればせながら歯医者にキャンセルの電話をいれる。
 カミサンからは「いまどこにいるのか」とメールが入っているのに気づく。「今検査が終わった」と返信する。するとすぐに、「タクシーで帰って来なさい」とメールが来る。彼女は、やはり大腸検査をした友人が痛かったとか麻酔をしたとかいう話を聞いて、神経質になっていたのだ。
 
 こうして無事、9年に一回の検査を終えた。
 医師が2年に1回といったのは、この先9年も私の寿命がもつかどうかも勘案しているに違いない。ま、そこはそれ。私の「小宇宙」をチェックしてくれている(明らかに私より若い)医師がいるのは、ありがたいことだ。5000円足らずの検査料は、安心料としても安いものだ。
 なにより、この二日間で私の体重は、2.5kg軽くなった。ときどきのダイエットとしても、いいのかもしれないと思っている。

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