2020年12月10日木曜日

霧氷の絶景、笠取山

 青梅街道の一ノ瀬高橋トンネルを抜けて500mほど行ったところにヘアピンカーブがある。そのカーブを曲がらずまっすぐ行く道が一ノ瀬林道。この林道を9キロほど入ったところに登山口がある。笠取山1953m。この山をプランに組み込んだのは山の会のkwrさん。歩行時間は4時間20分。車でないとアプローチが難しい。登山口と下山口が2キロほど離れているから、車が2台あると好都合だ。山行計画を皆さんにお知らせした。だが、同行できる人がいない。加えてkw夫妻も、毛無山の疲れが取れないというよりも、同行者に迷惑をかけると思ってか、しばらくマイペースの山歩きをするといってきた。つまり、先々週に引き続き私の単独行になった。

 昨日(12/9)朝6時ころに家を出発して青梅街道を走る。一ノ瀬林道の入口の所に「林道が崩落して通行止め」と表示している。やれやれ、先月半ばころの氷室山同様、去年秋の台風19号で林道が崩れていると記し、崩落現場の写真二枚をつけている。いや、これはすごい。道路下の土砂がすっかり崩れ落ちていたり、道そのものがなくなっている。また、足止めかと思った。ならばせめて、一ノ瀬高原キャンプ場だけでも見ておこうと、青梅街道をさらに甲府の方へ進む。落合橋から一ノ瀬高原へ向かうと、「作場平3.5km→」と手書きの表示がある。

 おお、それは笠取山の登山口のあるところ。では、一ノ瀬林道はこの一ノ瀬高原をぐるりと経めぐるように設計されているのか。ならば行けるではないか。車を先へ進める。舗装された林道は荒れてもいない。作場平にはすでに2台の車が止まっていた。大宮ナンバーのジムニーと川崎ナンバーの三菱デリカ。どちらもアウトドア好みの車だ。

 8時45分、歩き始める。下山口からここまでは1・8km40分と表示看板があり、合計5時間歩行のコースになる。カラマツとヒノキの混淆林を落ち葉を踏みしめて上る。道標も踏み跡もしっかりしている。下の方に結構な水量の一ノ瀬川が流れ下っている。20分足らずで一休坂分岐に着く。コースタイムでは40分とあるのに、どうしたことだ? 急ぎ過ぎているとはおもえないのに。分岐の表示板には「一休坂(急登)」とある。だがどこに急登が? と思うような、緩やかな上り。広いルートの斜面側には丸太の土留めが設えられていて、まるで森林公園の散歩道という感じだ。ただ、案内表示には「水干(みずひ)3・6km→」とはあるが、笠取山とは書いていない。変なの。何だこの一ノ瀬高原は、笠取山よりも水干がウリなのか。登山路の落ち葉はしっとりと湿っている。昨日か今朝にも雨が落ちたのか。上へ上がるにつれて落ち葉に残り雪が混じる。ミズナラやブナ、リョウブ、ナツツバキ、コシアブラの林になる。「クマがいます」と書いてあったのを思い出して、ザックから鈴をとりだしてぶらさげる。

 笠取小屋1780mの前の庭は、うっすらと雪が覆っていた。コロナのため年末の営業は29日までと掲示してある。遭難に備え、縦走者は登山届を出せとも書いてある。登山口からほぼ1時間10分。コースタイムだと2時間10分なのに、何だか狐につままれたみたい。ここにきてやっと、笠取山の名が出てきた。小屋裏のキャンプ場で一組のアラフィフペアがザックを降ろしている。私に先行した一組だ。ジムニーだろうか。訊ねると中島川口へ縦走するのではなく、笠取山から水干を回って作場平へ下るという。私が先行する。

 10分ほどで雁坂峠分岐1832mに着く。先行していたアラカンの男性と若い女性二人の3人組。たぶんこの人たちが三菱デリカと思う。「小さな分水嶺」と記した看板がある。ここに降った雨は、北側は荒川へ流れ、南側は多摩川へ下り、西側は甲府を経て富士川となると記す。「水干って何?」とアラカンに聞く。水干というのは多摩川の源流なのだそうだ。笠取山よりも、水干をみるために上ってくる人が多いという。なるほど「水干」というのは、水が干上がるところ、逆に多摩川からみると水がしたたり落ちるところ、という意味か。

 追い越そうかと思ったが、私はマスクをザックに入れたままだ。この3人組もマスクをしていない。しばらく距離を置いて後をついて歩いたが、どうぞ先へと道を譲ってくれる。分水嶺の小高い丘を越えると少し下り、林が途切れたところの正面に笠取山が見える。思わず、おおっ、と声を上げた。標高差にするとわずか110m余だが、グググッとそそり立つ急勾配。その山体の真ん中を貫くように人の踏み跡が直登する。その両脇に、真っ白に枝を飾る霧氷をつけた樹木が山体を覆う。カメラを構えていると、先ほどのアラカンが後ろで「ここが笠取山の撮影スポット」と連れに声をかけている。いや、絶景ですよと後ろへ言葉を返す。右へ「水干→」の表示柱がある。正面の笠取山へ踏み出す。

 急勾配を上りながら振り返ると、いま歩いてきた分水嶺からのルートが一望できる。そちらも霧氷に覆われているかのように、霞んでみえる。3人組のあとに、小屋で出逢った2人組も登ろうとしている。

 15分ほどで山頂に着く。広くない。岩が重なる中央に山名表示の木柱が立つ。周りの木々は霧氷で真っ白だ。10時35分。1時間50分で到着した。コースタイムは3時間15分。山頂でお昼かなと考えていたが、そんな時刻ではない。それに強い風が吹いて寒い。ザックから羽毛服を出して羽織る。山頂の先は細い岩の稜線。雪がついている。10分ほどゆくと、また「笠取山」と記した環境庁の木柱がある。さらに三角点が置かれているのも、ここだ。何だろう先ほどの山頂はと思う。

 岩を越えて雪のついた下りになる。「←水干・笠取山→」のプラスティックの標識が壊れて木の幹に挟まれている。大岩の傍らに「秩父山地緑の回廊」と林野庁の看板が掛けられ動物保護を呼び掛けている。そうか、ここは山梨県とは言え、秩父山地の一角なのだと思い直す。15分ほど下ると、「←水干・笠取小屋」への案内がある。下山路はそれとは別の方向になる。水干までは6分ほど。行ってこよう。

 さほどの上り下りすることなく水干に着く。「多摩川の源頭・東京まで138km」と記してある木柱は、東京都水道局の制作したもの。60mほど下に湧き水があり、それが一ノ瀬川→丹波川→奥多摩湖を経て多摩川になるというわけだ。ここは山梨県甲州市なのに、まるで東京都の山のように「多摩の水」と呼んでさえしている。水源涵養林として東京都が植林などをしているのであろう。笠取山の南側の標高百メートルほど下にある。それなのに「山梨百名山」も、「日本三百名山」も東京都水道局・「水干・源流の道」に乗っ取られてしまったようだ。

 分岐に戻り、中島川口へシラビソの尾根を降る。振り返ると木々の間から笠取山が霧氷にけぶるように立つのが見える。この先になると、もうこの姿は観られない。山頂から標高で200mほど下って笠取小屋への分岐に来た。11時31分。ここでお昼にした。標高が下がったのと少し陽ざしが出て南向き、着こんでいた羽毛服を脱ぐ。思えば、青梅街道を挟んで南側には黒川鶏冠山とか大菩薩峠がある。西には三つほどの雁ヶ腹摺山などが連なる。奥深い、文字通り秩父山地。一ノ瀬高原自体が、ひっそりと影を潜めているようにみえる。

 15分ほどで再び下山にかかる。シラビソ尾根につづく黒槐(くろえんじゅ)の尾根。どちらも、大きくジグザグを切っていて、下山路としてはまことに歩きやすい。ついつい駆け足になるほど傾斜と言い、広さと言い、危なっかしさがない。角を曲がるところだけ用心してスピードを殺す。両側に生い茂るクマザサに陽ざしが当たってキラキラと輝く。トレイルランナーの気分もこうなのかなと思うほどであった。昼食場所から1時間40分のコースタイムを1時間で下ってしまった。中島川口からは舗装の一ノ瀬林道。1・8kmを時速6kmで歩いて、駐車場に着いた。13時6分。行動時間は4時間20分。なんでこんなに調子がいいんだろう。二週間ぶりの山に身体が喜んでいるみたいだった。

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