2018年4月27日金曜日

トカラ列島訪問記(1)離島に暮らすということ


 20日から昨日まで、吐噶喇列島の平島へ行ってきました。目的は探鳥なのですが、そもそも「トカラってどこなの?」と訊ねられ、「さあ奄美と沖縄の間かなあ」という程度の見当しか持っていませんでした。お恥ずかしい。私に訊ねた人のなかには、外国だと思っていた人もいましたから、まあ、あまり変わり映えはしないのかもしれません。因みに余談だが、このタイトルの原稿を保存しようとしたらパソコンの保存機能が作動しない。後で分かったのだが、吐噶喇の文字をトカラにしたら受け付けてくれて、保存できた。つまり漢字のそれは、機能に障害をもたらす質の文字なのだとわかった。


 屋久島の南に点々と島が連なり奄美大島に至るまでの十の島々のことを指していると、今回初めて知りました。その名も、十島村。そのうち三つは水が取れないので人が住まない。人の住む七つの島を経めぐる船に乗り鹿児島の港から200kmの口之島を入口にして、20km、30kmと離れた島々をめぐり奄美大島名瀬港に至る430kmの船便が、週に二便運航されている。私たちが乗った「としま丸Ⅱ」号は4月2日就航という新造船フェリー。三日かけて、この航路を二往復している。訪ねた平島は吐噶喇列島のちょうど真ん中の小さな島。往きの船で早朝に降り立ち、一泊して次の朝の帰りの便に乗って鹿児島へ帰るという高校生らしい探鳥家の姿も見かけた。

 この平島は鳥が渡る季節に立ち寄る地点としてバーダーの間では知られているらしく、うちのカミサンは二度目の訪問。面白かったというので、今回私も同行させてもらった。コーディネートしてくれたのは、埼玉野鳥の会のUさん。「まるで鳥かごのなかにいるようにそちらにもこちらにも珍鳥だらけだった」という言葉を聞いて、楽しみでもあった。12人のグループ。吐噶喇列島が初めてというのは、私をふくめて4人。みなさんは鳥の達者たち。私がカミサンにくっ付いてコスタリカとかアラスカとかオーストラリアやモンゴルに行ったときの顔見知りが9人。国内旅行でご一緒した方が2人。一人だけ「初めまして」という方であった。

  6時間ほどかけて最初の口之島に着く。島の山が噴煙を上げている。諏訪之瀬島でも御岳が噴煙を上げており、口永良部島の噴火や霧島の新燃岳や硫黄山が噴火しているのに連なる火山列島の南端になるのだろうか。平島についたのは8時半ころ。平島は周囲7.2km、標高の一番高いところが242mほどの、手羽先の手に持つところを南側においたような形。たいていのところは50mくらいの崖になっている。3000トンほどの船のデッキから港の様子が一目で見渡せる。人が降りるだけでなく積み荷を降ろす。それらの受け取りに来る人たち、見送りに来る人たちの乗ってきた軽自動車が岸壁の広まったところに留めてある。コンテナを降ろし、それをフォークリフトが隅の方へ運ぶ。荷を受け取る人たちがそれぞれに積み込んでは自動車を走らせて山の向こうにある集落へ向かう。私たちの泊まる民宿の方が手際よく荷物を軽トラに積み込み、やはり軽のバンに6人乗せて走り去る。残された6人は戻ってくる車を待ちながら、港の鳥を双眼鏡で追う。カモメが一羽もいない。季節のせいもあろうが、漁港の賑わいがない。遠方にイソヒヨドリが一羽見えただけだ。

 迎えの車が戻ってきて、私たちを乗せて民宿へ向かう。10分もかからない。途中に十島村の平島支所があり、コミュニティセンターと名づけられている。後で分かったのだが、人口は60人。それでも三年前に来たときよりも10人ほど増えているという。じっさい小さな子どもを抱いたお母さんが港へ迎えに来ていた。人口増えてんだというと、宿の若主人が、いろいろやってみてるけど、なかなか定着しないと話す。北海道から来た人は……と話し始めたのは、村の家賃がゼロとか、補助金支給を目当ての四人家族。父親が定職を持たないので、牛を飼う仕事を村が世話したが、結局続かない。子どもを叱り、家から閉め出したりして、結局見かねたご近所が子どもにご飯を食べさせたりしたという。2年もいつかないで出て行ったそうだ。いまは魚の加工場を村がしつらえ、横浜だかからひと家族が来て頑張っているという。また小中学生の山海留学を募集し、今年6名の応募があり、すでに学校に通っているという。支所の近くに「山海留学・寄宿寮」という看板を掲げた住宅があった。また、日曜日の昼間、ヘリポートの離着広場で四人の子どもと若い大人二人がキャッチボールをしたり、ボールを打って捕る遊びをしているのを見かけた。それにしても、どんな事情からそうしたのかは分からないが、小中学校を親元から離れて過ごすのはどういうものだろうと、思った。

 荷物を宿に置きすぐに探鳥に入る。まだ9時ちょっと過ぎだ。ここにサンショウクイがいたとか、アカショウビンの声が聞こえていたのに姿を見つけられなかったと、何度か来た人たちが言葉を交わしている。アカヒゲの声が藪の中から聞こえてくる。あおーあおーとアオバトも鳴いている。と思うと尺八を吹くようなボーっという頼りない声がして、あれはカラスバトだと説明してくれる。声がすると皆さん立ち止まって、そちらの方へ双眼鏡を向ける。小中学校のグランドがある。周りはササ竹の薮とガジュマルの木。松もある。クスノキなどの照葉樹のようにも見える。葉の落ちた枯れ木(のようなもの)もある(が、いまどき葉が落ちているものか)。スギもあるようにみえる。校舎は一段低いところにあるのか、グランドからは見えない。

 コンクリ舗装した林道が山の中腹を経めぐっている。その中間点に、大きな「千年ガジュマル」と呼ばれている木が何本も幹を重ね、枝が張り出し、その枝から気根がぶら下がり、一部のそれはすでに地面について太い根になっている。そのような大木がそちらにもこちらにもあり、その周辺はうっそうとしてる。誰かが小さく呼気だけで、「来た!」と声を上げる。薄暗い茂みの途切れたところの小岩をお立ち台にするようにアカヒゲが乗っている。私は半年前に沖縄本島の国頭で出逢っている。首と胸が黒いから雄だ。やがてそれが立ち去り、待っていると今度は雌がやってくる。こうして私たちの吐噶喇列島の探鳥がはじまった。(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿