2018年7月13日金曜日
法的言語のとげとげしさかご近所のよしみの柔らかさか
山から帰ってきた一昨日の夜、「日報回覧」が副理事長からまわってきた。そのなかに私の名前を記したチラシが入っている。「バルコニー、ルーフバルコニー、テラス、専用庭での喫煙はお止めください。」と大文字で大書した表題。その下に5点「バルコニー等での喫煙により、タバコの煙・臭いが住戸へ進級したり、洗濯物に付着する臭い、灰等で被害を受けている住民がいること。」という調子の「受動喫煙被害」を受けている人がいることを記している。宛先は「団地居住者の皆さまへ」。
なんとも権柄づくな文面に驚く。「階段掲示参考文」と鉛筆書きの付箋がついている。さらに「マンション居住の愛煙家へ/マンションでの喫煙トラブルを避けるには?」と表題するブログのコピー4ページ、「ベランダでの喫煙に対し、損害賠償命令が出された事例/名古屋地方裁判所……」という判例の掲載ブログ3ページ、「使用細則でバルコニーでの喫煙禁止を定めることの可否」についての弁護士事務所のホームページの抜粋6ページが「参考」という鉛筆書きの付箋をつけて添えられている。つまり今団地の理事長を務める私に、団地管理者として「受動喫煙防止」に手を尽くしなさいと要求しているとみえる。
率直なところ、もう半世紀も前に止めたタバコであるが、吸っている人への世間の風当たりの強さに「判官びいき」気味になっている私。煙やにおいにいやな思いもするが、その私でさえ、こんな権柄づくな文言で「注意」を受けたら、意地でもやめるものかと思ってしまう。国会で「受動喫煙」に関する法律の改正が審議されている風潮に乗っかって、(やっと口にすることができるようになった)と思っているのか。それにしても、これらのことばのとげとげしさに、たじろいでしまう。まったく喫煙は犯罪といわんばかりの扱いだ。
とはいえ今、私が片言隻句にとらわれて放っておくわけにもいくまい。まず、区役所に行って「条例や法の現在」がどうなっているかを訊いてくることにした。区役所の総務課は、至極丁寧。応対してくれたのはまだ新米かと思われる若い職員。でも全体に暇なのか、相談する私のことばに聞き耳を立てて脇から先輩職員らしいのが「資料」を次々と手渡す。「2003年の健康増進法」、市の「受動喫煙と空き缶のポイ捨てに関する条例」遂には、今国会で審議されている「健康増進法の改正案(受動喫煙防止)」がプリントされてきて、「集合住宅などへの規制はない」という結論。礼を言い「資料」をもらって帰ってくる。要するに、「法的に規制する」というのではなく、近隣のよしみでベランダでの喫煙をやめてもらうという方向をとりたいのだ。だからここでは、「(目下のわが地域では)法的に規制は取れない」と分かれば、それでよい。
訴えを持ってきた住戸の方に、詳しい事情を聴けないかと電話をする。もちろんOK。副理事長にも同席してもらって、管理事務所で話を聞く。奥方が出て来られ、昨年の、窓を開けて夜を過ごすことが多くなってから、タバコに悩まされてきた。その前年に越してきた方がベランダで吸っているからと分かったのは、しばらく後のこと。ご近所の話しでそのお隣さんもベランダに置いてある灰皿の強烈なにおいに辟易してきたと分かって、どこのお家が吸っているとはっきりした。ことに今年のW杯のベルギー戦のときには深夜(というか早朝)までたばこのにおいが絶えず、眠れない夜を過ごした。奥方は昨年身体を壊して入院手術もしており、よけい嫌な臭いに苦しめられてきたと話す。これを聞いていて、ご亭主が(我がことでないだけに)怒り心頭に発してあの文面をつくったに違いないと思った。ご亭主は、直にやめるよう話に行ってもいい、と言っているそうだ。
奥方はそれを聞いて(それはやめてください角が立つから)と止めているというが、私は、むしろ直に話をするようにした方が「よしみ」がよく伝わると、ふと思う。直に話をすると(人にもよるが)、とげとげしく話すわけにはいかない。ご機嫌を伺いながら、相手をみながら言葉を繰り出すようになる。自ずから柔らかくなると(私は)おもっている。法律や条例など、外部的な規制に依存して結ばれる「かんけい」は、相手の様子を勘案しない。いつも夜になってタバコを吸うのは(職場では据えないから)、夜遅くまで働いて帰宅した若いご主人のリラックスタイムなのであろう。それくらい許してあげなさいよと(他人事だから)思わないでもない。だが他方で、その若い人は、階下の住民が身体を壊して手術し臥せっていることなど知りもしない。まして煙草の煙が重力にしたがって、風に揺られて隣や階下の家を直撃しているなどと思いもよらないのだろう。それくらい私たち団地の住民は、隣近所と切れて(それだけに清々しく)暮らしているのだ。
そういう「かんけい」を共同性と呼ぶのであろう。それを少しでも取り戻して、私たちの地域のことは私たちで取り仕切るという気風をつくりたい。そう私は思っているし、今年の理事たちや自治会役員たち(この前者と後者は重なって同一メンバー)は、そう思っているようにみえる。
そういうわけで、まず昨日理事たちに「知恵を貸してください」とメールを打った。
《……昨日(7/11)管理事務所に「バルコニーにて煙草を吸う人がいて、煙り・臭いが部屋に入ってくるなど、非常に困っている。禁じるよう掲示をしてほしい」との訴えが提出されました。/事情を聴いてみると、ご近所のどこかから煙草の煙が漂ってきて、身体の調子が狂いかねないほどダメージを受けているというお話しでした。事のはじまりは昨年、窓を開けて寝るようになってから。ちょうど床に就く時間になると煙草の煙りと臭いがただよってきて、眠れないこともあったようです。これまでは我慢してきたけれども、そろそろ限界、ということでした。/暑い夏を迎え、窓を開けて寝るご家庭も多くなります。バルコニー(ベランダ)で煙草を吸う方ご自身は、たぶんお気づきになっていないと思いますが、煙草の煙やにおいだけでなく、吸い殻の残る灰皿の臭いなども、吸わない人には強烈な刺激をともなってやってきて、「襲い掛かるように」感じられるものです。/お部屋で吸う分にあれこれ言うものではありませんが、バルコニー(ベランダ)での喫煙は、お控えくださるようお願いします。/訴えてお出での方は、名古屋地裁での受動喫煙への補償判決や今国会の「健康増進法の一部改正に関する法律」(受動喫煙の飲食店などでの禁止措置)の成立など、法的な制約を背景に「ベランダでの喫煙禁止」を当団地でも実施するようにお考えのようです。が、法的な制約によるというよりは、「ご近所(付き合い)のよしみ」で収めるようにしてもらえれば、それが一番いいのではないかと私は考えました。/来月の「理事会」を待っていては、半月以上もこの事態が放置されることになりますので、それ以前にどうすればいいか、皆さんのお知恵を拝借したく思います。来週には何らかの措置をとりたいと思います。今週末くらいまでにご意見をお寄せください。》
さてこれに対してどのような「知恵」が出してもらえるか。面白くなってきたなあと思いながら、返信メールを心待ちにしている。
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