2018年8月16日木曜日

山上の緑陰散歩


 昨日(8/15)は「雷雨予報」のない晴れ。師匠のお誘いに乗って御嶽山へ足を運んだ。レンゲショウマを見に行こうというわけ。お盆だからなのだろうか、青梅線の御嶽駅で降りた人の数は尋常ではなかった。ホームから改札へ向かう階段のところで大渋滞、駅前の交差点の信号が変わる寸前に渡ったせいで、臨時便のバスに乗れた。ちょうど「レンゲショウマ祭り」が開かれている。なんと、9月上旬ひと月半もの間だが、この花はそんなに長持ちするのだろうか。


 順調にケーブルカーに運び上げてもらって山上駅から歩き始めたのは8時45分。尾根の北西側に回り込んでレンゲショウマの群生地・富士峰園地に踏み込む。高低差五十メートルほどの北側斜面一帯が群生地。高木もあって日陰になっているのが幸いしているのであろう。縦横に踏路が刻まれていて、カメラの三脚を据える人、しゃがみ込んでスマホをかざす人、一眼レフを構える人など、人であふれている。子どもの姿は見かけない。中高年と若い女性が多い。花が蓮に似ているのでレンゲの名がついたと言われるが、白と薄紫の花が下を向くように咲いている。斜面だから、下から覗き込むようにして、姿がみえる。同じ茎の下の方に蕾であろう、丸い玉が咲く順番を待っているみたいに並んでいる。花期が長いというのは、つぎつぎと花開いていくのだろう。今年は花が早いと言われるが、まだ咲き始めて間もない感じ。自生していたのを育てたのだろうかと口にすると、師匠は、これがなくなるとケーブルカーも宿所も経営が成り立たなくなるんじゃないと「お宝」だという。そんなことはあるまい。そもそもは御岳神社という山岳信仰の聖地。レンゲショウマは近年の目玉に過ぎないと思うが、何しろ、私の植物の師匠なので逆らわない。

 師匠はしかし、レンゲショウマよりも、斜面に生えている植物の一つひとつが何であるかを見極めるのに時間を費やしている。ヤブレガサかなオクモミジハグマかと葉っぱをみて首をかしげている。ヤマジノホトトギスとヤマホトトギスの違いとか、ゲンノショウコとかマツカゼソウとかオトギリソウとかフシグロセンノウと教わるが、もう私の頭はいっぱいになってこれ以上入らない。

 園地を登りきると、産安社と名づけた社がある。その脇に安産杉と看板を立てた杉の巨木が立っている。何本もの杉の木が寄り集まったのであろうか、あるいは年老いて大木が裂けたのであろうか、樹齢350年と記している。江戸の初期ということか。すぐ近くに夫婦杉と表示した大木もあって、ご夫婦が記念写真を撮っている。針葉樹の間から西の方に神社が見える。そちらの方への尾根道をたどる。このルートを歩く人は多くない。スマホで撮った写真をLINEで岡山に住む兄に送る。電話がかかってくる。兄はアナログ世代。

 宿所の建てこんだ神社への坂道を上がる。道は四通八達するように分かれあるいは合流して標識を立てている。空手部の合宿でもしているのだろうか、オーッ、オーッと声が上がる。御嶽神社の本殿へ向かう。人が多くなる。オオカミが狛犬の代わりをしていると説明板がある。でもこちらのは獅子のようだ。おっ、なんとこの社の狛犬はイノシシではないか。御嶽神社の一番奥にあるのは「遥拝所」。二本の柱の間に注連縄を張り巡らしただけの「遥拝所」に立つと、正面に奥宮をおいてある御嶽山の山頂が見える。脇に来た年配者が「この先を右へ行くと、あの奥宮へ行けるよ」と教えてくれる。去年の12月にであったか、あの奥宮から大岳山を経て鋸山を越して奥多摩駅へ下るルートを歩いた。でも、こんな「遥拝所」からあのように見えるとは思いもよらなかった。

  神社から降っていると、「ハイ、ここで拍手してください」とマイクを通した声が聞こえる。NHKの番組でも録画しているのか。設えられた野外演芸舞台でサルの芸を演じている。子ども連れのお客さんが木のベンチに腰かけてやんやの拍手をしている。「レンゲショウマ祭り」の出し物のようだ。この町もあの手この手で工夫しているのだ。

 鳩ノ巣駅へ下るルートへ向かう段になって、スマホをとりだす。四通八達しているどこを抜ければその下山ルートに入れるかスマホの山地図をとりだすと、GPSが作動して、今自分がどこにいるのかを表示してくれる。おっ、あと50mくらい先に分岐があるなと読む。ヘアピンカーブのように道が別れ、標識はあるが分かりづらい。茅葺屋根の建物裏にまわる細い小路を入ると鳩ノ巣駅へのルートになる。GPSのわが身現在地は、きちんとその裏道のルート上に記されている。わが師匠は「すっかり頼りっきりね」と笑う。そうだね、だがこれは便利だ。機内モードにしていてもGPS表示はつづくから、一日分は充電しておけば持ちこたえる。

 鳩の巣ルートは、長いがゆっくりと山腹を経めぐりながら下る樹林に囲まれた道。「こんな所ならいくらでも歩ける」と師匠も軽快に歩く。ときどき立ち止まり、道草を食う。木の枝をとり示しながら、あれこれと植物の話をしてくれるが、名前はもう、残らない。ただ、互生というのに、右に二本枝が分かれ、次に左に二本枝が別れるという互生もあると知る。シダの種をつけるのは先端の何枚か。根元に近い大半の葉は、栄養分をつくるのに専念しているともわかる。シダの葉も、途中で瘤をつくりながら伸びているのもある。ふ~ん、面白い。

 このルートは静かで涼しい。向こうからやってきた3人一組と追い越していった女性の単独行者がひとり。出会ったのは、その合計四人だけ。神社の賑わいに較べたら、まるで別天地。途中で座り込んでお昼にしたが、3時間ほどの下山ルートであった。午後2時に駅に着く。8分ほどで電車がやってきて、順調に裡に帰り着いた。今日の行動時間は5時間15分。けっこうな緑陰の散歩道であった。

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