2020年3月19日木曜日

花の山散歩・三毳山


 昨日の強い風からうってかわって今日(3/18)は、穏やかな好天。気温も上がると予報はいう。車をつかって三毳山に足を運んだ。カタクリを観に行こうというのである。カミサンも同道してくれるから、門前の小僧ができる。
 家を出て1時間で三毳山の南駐車場に車を止めた。ガラッと空いている。駐車場の西側に木の鳥居が設えられていて、みかも不動尊がある。神仏習合の典型的なかたちか。お大師さんの石像もあるから、民間信仰のごった煮というところか。登山口の方へ歩いていくと、こちらにも駐車場があり、ここは、けっこうたくさんの車が止まっている。なんだ、下の方は不便だから、皆さん上へもっていっているのだ。

 
 栃木県で一番大きな都市公園と標榜する公園内は、舗装林道がしっかり設えられ、乗り降り自在の連絡バスが園内を走り回るようになっているが、新型コロナのせいで、3月は24日まで休止しているそうだ。登山道はその林道をショートカットするように古い石段が山の上部にある三毳神社へ向かって直登するように上っている。舗装林道の中断に桜が満開になっている。カンヒザクラだとカミサンが教えてくれる。それを横目で見ながら、直登の石段を上る。30分ほどで三毳神社に着いた。正面の扉は朱く塗られた鉄製で、鎖で鍵が掛けてある。そのカギの下に二つ穴があけられ「賽銭箱入口」と記している。なんとも無粋な「ジンジャ」だ。
 その脇から中岳への踏み跡がつづいている。岩が剥き出しになったりしているが、木々が生い茂っていて明るい。木のあいだから下界が見える。住宅や工場がびっしりと軒を連ね、南東側は栃木市、西北側は佐野市と、この山が結界になっているようだ。標高200mほどだが、この麓まで関東平野は真っ平の広大な平地だから、ちょっとしたランドマークになっている。
 
 何株ものシュンランが、楚々としたたたずまいを湛えて花開いている。枝にひれをつけたフユザンショウが棘を幹にも葉にも付けて孤軍奮闘している。ウグイスカグラが小さく薄赤い花をつけて控えめに咲いている。モミジイチゴが白い花を下向きにつけている。黄色い実をつけるそうだ。師匠からそういう話を聞きながら、下山するまで覚えていられるかなあと心配している。幾種ものスミレが咲いている。葉の形が違うので見分けるそうだが、覚えていられない。オオシマザクラだろうか、サトザクラだろうか、咲いている。
 中岳からみると、ずいぶん向こうにあるとみえた青竜が岳229mに11時10分頃に着く。地理院地図によると、ここが三毳山となっている。主峰なのだ。北の方に男体山が女峰山や大真名子・小真名子を従えてすっきりと姿を見せている。その左に、日光白根山がひときわ白い雪の頭を突き上げている。目を左へ移すと、赤城山も榛名山もさらに左には雪をかぶった浅間山も、まるで富士山のように姿を見せた。ぽっかりと浮かんだ雲が、まるで佐野の街を桃源郷のように彩っているようだ。
 
 ここからカタクリの里へ下る。と、若い人が一人、じっと木の枝を見つめている。カミサンが「レンジャクがいる!」と静かに声を上げる。向こうの枯れ枝にヒレンジャクが5羽、いや8羽、いやいや10羽を超えるくらいいる。「休んでるんですね」と若い人が話しかける。全体では、20羽はいたろうか。つい先日、秋ヶ瀬の森で3羽を見かけたが、こんなに群れているのは、今冬初めてだ。しばらく見惚れていた。
 
 青竜が岳の中腹まで下ると、金網の柵囲いがある。カタクリの里の保護地だ。下る一群が、その扉を開けたままにすると、上がってきていた人がもう一度下って扉を閉め、「閉めてくださいよ」と声をかける。一群の一番後ろの人は振り向いて、何を言ってんだろうと不思議そうな顔をして下ってしまう。「ごくろうさん」と声をかけて、私たちも扉をくぐる。保護地の斜面は枯葉と緑の葉を湛えてその中に花をつけるカタクリやアズマイチゲの白い花が広がる。その中央を階段状に散策路があり、ところどころ斜面の奥へ踏み込む見学路が入り込んでいる。たくさんの人が上り下りしている。
 そろそろ12時近いので、中央路から踏み込むところにしつらえられた板場にシートを敷いてお昼にする。上って来た人が、隣に座ろうかどうしようかと、場所を探す。もっと奥のハイキングコースへ入り込む人もいる。ちょうど一番下ったところの北口から登ってくる人が多いのだ。
 カタクリはちょっと小ぶり。でも、斜面全体を見晴らすと、なかなかの壮観だ。しゃがみ込んで写真を撮っている姿があちらにもこちらにも見える。下を向いたカタクリの花の花芯を画面に収めようと屈みこんでいるのだ。空の陽ざしを雲が遮っている。私がカメラを構えると、傍らにいた一眼レフをもった方が、「ここ、ここ。アズマイチゲとカタクリがうまく入る。陽ざしが出るのを待つといいですよ」と声をかける。そこへしゃがむが、陽ざしは出ない。その方はすぐ後ろに立って、「あとちょっと。もう少し」と私に待つように言う。何枚かカメラに収めて、その方にお礼を言って立ち上がる。下っていると陽ざしが入ってきた。カタクリの色が、アズマイチゲの白と葉の緑に映えて一段と際立つ。
 
 割りと急斜面のルートをたどりながら一番下まで降り、北口へのシカ柵を出たところに消毒薬が置いてある。入る人はみな、手にそれを取ってこすり合わせている。そこからもう一度中に入り、今度は斜面の東側を回り込む道を歩いて、上へ戻る。青竜が岳に向かう人が、三々五々、にぎやかに歩いていく。先ほどのレンジャクをみたところには、もう何もいなかった。一度山頂に戻り、それを超えて少し下ると、「東駐車場→」の表示があり、その広い道をたどる。樹林のあいだから遠方下の方に東駐車場の温室の建物などが陽ざしを受けて輝くように見える。標高差は100mほどあろうか。すれ違う人もいない、静かなルートだ。ヤマツツジが明るいオレンジ色を広げている。

 東駐車場近くの湿原にザゼンソウが咲いているのを見つけた。日陰の湿っぽく黒い地面に濃い茶色の花はほとんど姿を隠そうとしているように思える。何輪もある。池の向こうのサクラが明るく咲いている。「野草の園」にはユキワリソウやニリンソウが花をつけている。こちらにも何カ所かカタクリの群落があり、北口のカタクリよりも花が大きいように感じる。サンシュユの黄色い花が枯木の間ににぎやかだ。斜面の木立が差し込む陽ざしを受けて、薄赤い緑に輝き、まるで色づき始めた秋のはじまりのようにみえる。
 東駐車場からのんびりと「アジサイの道」を歩いて南駐車場へ戻る。ミツバツツジだろうか、赤紫の花が精一杯花びらを広げている。上るときにみたヒカンザクラに「シュゼンジヒカンザクラ」と名前が記してあった。車に帰着したのは14時半。ふだんの山歩きなら3時間ほどで歩くところを、ほぼ5時間の花見の散策であった。

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