朝の中禅寺湖
岩を避け、斜面を歩く
明日から天気が崩れるというので、今日、山へ行ってきた。来週、奥日光の雪山案内があるので、その下見を兼ねてひと歩きして来ようと思ったわけ。6時半に家を出て、奥日光竜頭の滝に着いたのが8時40分。5分ほどで雪山用のウェアを来てスノーシューをもって歩きはじめた。
下見のルートは、実は今年の正月にも歩いてみている。ただこのときは雪が少なかった。その後にかなり雪が降ったと聞いてはいたが、降ったら降ったで、アイゼンがいるかどうかが気になる。何しろ中禅寺湖の北岸を1時間半ほど歩く。北側には高山の大きな山体が急な傾斜で湖へ落ちている。木の柵などをつくって落ちないように、いろいろと気配りはしてあるが、踏み固めてあるとは思えない。何しろ、冬は人がほとんど入らないルートなのだ。もうひとつ気になることがあった。北岸ということは、お天気がいいと南からの陽ざしが照り付ける。踏まれた凸凹が凍りつくと、スノーシューでは歩きにくい。むしろ軽アイゼンの方が安全に歩ける。それをもっていく必要があるかどうか。それも見て来ようというわけ。
いや、行ってよかった。ほとんど最初からスノーシューが必要であった。入口の平地の積雪は1メートルくらいか。壺足だと膝くらいまで埋まってしまう。誰も歩いていない斜面を登るのは、ちょっとしたラッセルになる。ラッセル車のラッセル。力仕事だ。除雪というよりも、雪を踏み固めて上へと体を持ちあげる。粉雪だとすぐに崩れて元の位置に戻ってしまうが、さすが中禅寺湖の雪は湿っている。それほどは元に戻らない。登路の雪は夜の冷え込みで凍っている。だがアイゼンがいるほどではない。スノーシューの裏側についている滑り止めのストッパーで十分だ。
けっこう通過の厳しいところもある。木の柵はあるのだが、そこへ向けて斜面に雪が積もっている。だから、柵のはるか上をトラバースする。スノーシューのエッジを立て雪を切りながらすすむ。これがスリリングであると同時に、雪道を歩く面白さなのだ。私が先頭では申しわけない。1時間半で熊窪に着いた。湖は静か、陽ざしもよい。むろん誰にも会わない。
ここから高山からのルートへ合流すべく上りにかかる。北へすすめばいいと、正月の踏査のときに頭に入れている。雪が湿っぽい。スノーシューの裏側にべったりと張り付く。ときどきシューを蹴飛ばして雪を落とす。ストックが1メートル近くも埋まってしまう。それでも順調に、両側から迫る山体の真ん中をすすんでいくと、二俣に別れた小さな分岐に出る。はて? どちらに行ったろうか。追う言えば正月のときにはうっすらとした雪であったから、ルートの推定がついた。ところが今日は、盛り上がるように雪が積もり、沢ですらすっかり雪の下になっている。私は左へ行った方が「峠」へ抜けるルートだと思ったが、ちゃんとチェックしようと「私のコーラン」を出してみる。「私のコーラン」というのはスマホ。地図を読み込んでおいてスタートのときにGPSを作動させると、地図上に現在地点が表示される。これに従えば「道を誤らない」というので、私はコーランと名づけて使うようにしている。ところが、なんとコーランに地図が表示されない。GPSの現在地マークは表示されているが、その下は真っ白。これじゃ何処にいるかわからない。どうしよう。
いや、考えるまでもない。迷ったら引き返せ。これが鉄則。まして雪山に一人だ。紙の地図でも持ってきていれば見当をつけることができるが、コーランがあると思うから(それと正月に歩いたのを身体が憶えているにちがいないとおもうから)もってきていない。こういうときは引き返すしかない。雪もちらついてきた。
そういうわけで熊窪へ戻った。11時半。お昼にするが、やはり中途退出の打撃が気分を暗くしている。あまりおいしくない。湖の波も騒がしくなっている。10分ほどで切り上げて、帰路をとる。栃窪では下ってくるときに大回りをしたように思ったので、ショートカットのルートを探る。たしかに近道ではあったが、最後がものすごい急斜面で、設えられた木の柵を乗り越えなければならない。こりゃムリだなと柵の末端へと足を向ける。それを先導するようにテンの足跡がついている。
コガラやエナガの混群が木の枝を飛び交う。ゴジュウカラが三羽、それぞれ違う気にとりついている。木の下から小さい鳥が飛び出して別の木の上の方へ取り付く。そして下の方へと降りてくる。キバシリかと思うが、しかとは見られない。鋭い口笛のようなピュイーという鳥の鳴き声が聞こえる。アオゲラかウソだろう。ピュイッと短く声を響かせているのはシカだ。おっ、十匹ほどのサルの群れが雪の上に降りて木から木へ渡ろうとしている。くるときの私の足跡の上をシカが歩いた形跡がある。二本の爪跡がきちんとついている。
中禅寺湖北岸を独り占めした雪山歩きであった。
帰宅してからコーランを開けると、何と行き詰ったところの地図が出てくるではないか。どうして表示されなかったのだろう。国土地理院の地図にアクセスして経路をたどってみると、右の沢を辿るのが正解であった。いやはや、記憶のおぼろなこともそうだが、決めつけて左への道を辿らなくてよかった。もしそうしていたら、今ごろ雪の中でビバークってことになっているかもしれない。くわばら、くわばら。
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