2017年4月15日土曜日
ロングライフ・ロングツアー
昨日夜、北海道の旅から帰ってきた。6日間だったが、すべてお任せの気ままな旅。13名の鳥見の達人たちと行を共にした。むろん私は、門前の小僧。まだ門内には入っていない。ただ、カミサンの「くっつきのを」として、それなりに「仲間扱い」を受けている。
今回の旅で、カミサンの腕が格段に上がっていることを確認した。ほぼ旅の途中の「鳥の同定」の中軸になっている。ドコがドウなっているからナニではないと添えて、ナニナニであると応えている。野鳥の会のリーダーになったころの応対とはまったく別人のようだ。むかしからそうであるが、まず軽々に即答しない。わからないものは「わからない」と応じる。たぶんそれも、信頼を置かれる理由なのであろう。
13人のうちスコープをもっている人は8人、他の人はスコープ達人の連れ合いか、かつてはスコープを持ち歩いたが、もはや高齢には勝てず双眼鏡だけにしている方々。でも、なかなかの者。即座にナニナニがいると口にし、他の人が現認することを促す。どこどこ? と言いながら、双眼鏡やスコープのみている方向を探り当ててスコープを構える。ええっ? わからない~、と声をあげて、見つけた人のスコープを覗きこむ。あるいは、自分の見たものがナニであるか、ダレソレさん、ちょっと、みてみて! と声をあげて、スコープを覗き見るように席を空ける。
むろん同定しようとしても食い違うこともあるから、首から胸にかけての色合いがグラデーションになっているかいないかとか、くちばしが長いか短いか、その付け根が白いかどうかを、ひとつひとつ「論題」にしている。中にはそれで鳥の種や属や名が区別できるわけではなく、雛だったり、一年物や二年物、三年物の若だったりして、それを識別する。あるいは、冬羽から夏羽に変わる違いも出現している。なにしろ、本州から北へ帰る途次に立ち寄った経由地の北海道という季節柄も加わって、本州で観たものとまた、一味も二味も違ってみえる(ようなのだ)。あるいは北海道の留鳥が巣作りを始めているのかもしれないが、ハシブトガラが口に一杯巣材を加えて枝を飛び交う。ハシブトガラスが餌の貝を上空に咥えあがって、舗装路に落として割ろうとしている。それがコロコロと転がって、同じことをしているほかのカラスの脇に行ってしまって横取りされたりするのを見ていると、なんともおかしい。擬人化するわけじゃなくて、カラスも人も同じなんだなあという思いが湧き起る。
毎日、朝の4時半に起きて5時から「朝探」にでる。宿の近所をうろついて鳥を見る。札幌では中島公園や護国神社、多賀神社などを2時間半ほどかけて歩く。月形の宮島沼ではガン・カモ・ハクチョウが飛び立つのを目にする。釧路では港へそそぐ釧路川沿いを、別海町では漁港とその周辺を歩いて、ニューバードを何種類も視認する。移動はマイクロバス。観光地はそっちのけで、畑や田んぼ、公園や湿地に棲息する鳥や通過中の渡り鳥を見つける。大きな湖や汽水域の河口部、あるいは日本海、太平洋、オホーツクなどの外洋をにらんで、ぷかぷかと波間に浮かぶ小さな水鳥の群れやペアを確認してまわる。宿に到着するのは夕方の6時ころ。つまり、途中に移動と食事の時間を挟み、13時間を探鳥して過ごす。移動中もバスの窓から外をにらみ、見つけると声をあげて双眼鏡を構える。
平均年齢が71歳と聞いたが、80歳を超えている人が4人もいる上、60歳代の前半の人がいちばん若い。平均するともっと上ではないかと私はみた。男性6人、女性8人。夫婦が3組。この人たちが食事の間にしているおしゃべりは、とりとめもないことなのだが、要はご自分の体験世界の披歴であるり、自慢話も入る。みようによっては偏見にも満ちている。だがそれが、鼻につかない。面白い。おしゃべりをするのは、「ご自分の世界」と「他者の世界」をすり合わせて、世界のかたち(の輪郭)を描きとろうとしているようである。頷いたり、いやそうじゃないでしょうと異論を申し立てたり、柔らかな口調が異議をズレに変え、冗談を交えてのやりとりが差異の急角度の傾斜をなだらかな斜面かと思わせて緩やかな運びにする。経てきた年輪を感じさせて、微笑ましい。鳥を見るのも、こうした人の経てきた航跡を見て取るように観ているのかもしれない。だから、写真に収めることよりも、今観ている鳥の、この瞬間を味わうことに集中している。ここにいる人たち全員が、それを介在させているから、「世界の輪郭」にじかに触れはしない。それぞれの「ご自分の世界」は、その合間にはさまれたスポット・コマーシャルのようなもの。儚い印象を残して、すぐに蒸発してしまう。
わずか6日間の旅だが、それぞれの通ってきた長い旅が漂流してきた終焉のかたちを漂わせている。その感じが好ましい。ロング・ライフ、ロング・ツアーであった。
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