2017年11月9日木曜日

里山の極楽


 晴れ続きの合間に一日だけ「曇り」の予報が出た昨日(11/8)、檜原村の浅間嶺を歩いた。山の会の「日和見山歩」の月例会。チーフリーダーはmsさん。彼女も始めて歩くコースだとか。ただ下山地の近くに「日帰り温泉がありビールもたのしみ」とお誘い文句があった。


 家を出るときには、パラパラと雨が落ちてくる。一本早い電車に乗る。歳をとると用心深くなる。通勤ラッシュの乗り換えや混雑に自分が追いついていけない(かもしれない)と思うからだ。武蔵五日市駅についてみると、すでに皆さん顔をそろえている。バス停には大勢のリュックを背負った人たちが列をなしている。だがこれは、15分ほど先に発車する「都民の森」行。「これを使えば三頭山にも行けるね」と誰かが言う。時刻表を見ると8時台と11時台の2本だけ。ということは、帰りも2本だけかもしれない。

 藤倉行のバスは私たち以外は3人だけ。小岩から登るより、その手前の「払沢の滝(ほっさわのたき)」から登ると30分くらい余計に歩くことになるが、浅間嶺の縦走コースが面白そう、それでもいいかとmsさんの提案。3時間50分のコースタイムが4時間20分、ちょうど良い。20分ほどでバスを降りる。標高280m。「手作り 檜原とうふ」と大きな看板を掲げたお店が正面にある。「そうそう、ここで豆腐を買うために行列を作ってる写真があった」とmsさん。インターネットのサイトでみたそうだ。払沢の滝も見ていこうと、そちらへの道をとる。

 橋を渡ると色づいた木々が出迎える。チップを敷き詰めた滝への歩道は(たぶん)紅葉見物客でにぎわうような風情。郵便局がある。なんでわざわざ、通りを離れて奥へ入った、こんなところにと思う。払沢に沿った道を800m、15分ほど辿ると、高さ60mの滝がある。ここはまだ紅葉には早いが、滝前には沢を渡る木道が上と下に2本掛けられ、なるほど観光客が押し寄せてきて一方通行にしている気配が感じられる。

 滝入口に戻り、浅間尾根の縦走路をたどる。9時33分。見渡すと紅葉が植栽しているように美しい。「写真撮らなくちゃあ」とmrさんが、いつもはリュックにしまい込んでいるカメラをズボンのポケットから取り出す。彼女も進化しているのだ。「時坂峠・浅間嶺」の標識に導かれて山道を登りはじめる。おやこんなところにも民家がと思うことが何回かあった。まだ耕作している畑もあれば、すでに不耕地となって雑草に覆われた、石垣のしっかりした土地もある。すぐ近くには舗装林道が通っているから、人の住まいはそれなりに営まれているようだ。「十月桜だ」という声に振り返ってみると、下に民家の屋根が見える。いいところだねえと思い、でも住むにはムツカシイとも思う。スギを伐採しあとに植林した斜面が広がる。銀杏の黄色がことのほか際立つ。

 10時15分、尾根道に出る。「浅間尾根道」の説明看板がある。北の風張峠からここまでの尾根が「南北両秋川の人々が本宿・五日市に通う生活道路でした」と由来が記されている。また「甲州と江戸を結ぶ要路でもあり、檜原の木炭など生活用品を積んで牛馬が通っていた」ともあった。その時代の人たちの思いと重ねながら歩く。視界が開け、向こうの山のスギかヒノキを皆伐したあとに植林した地がずいぶんきれいに見える。「ああこれ、観光客の皆さんに景観を楽しんでもらおうと整備しているそうよ」とどなたかが話す。(何も観光客向けに手を入れることはないんじゃないの)と私は思うが、kwrさんは「東京都は金があるからな」と、財政面から切って捨てた。木々の色づきは、相変わらず美しい。登りになっても、テンポは速い。mrさんも黙ってついて行っている。

 11時40分、浅間嶺の展望台に着く。風が強い。枯葉が空を飛ぶ。体を冷やさないように上に雨着を着て、お昼にする。北側の山並みはくっきりと見える。右側の大岳山とその向こうに小さな突起をなす鋸山は今月後半に歩く予定位の山だ。左側の御前山が、いかにもその名にふさわしく、どっしろと座り、西の三頭山へと山並みをなす。南側は、残念ながら雲が厚く垂れこめ、見えるという富士山も、雲の向こうに隠れている。食べていると西の方から一組6人ほどがやってくる。またそのあとから来た4人組にきくと「へんぼり峠から」と応える。それで思い出した。地図を見ていたら、「人里峠」とある。その南に「人里」と記されたバス道路沿いの地名があり、「へんぼり」という仮名が振られている。「へんぼ里」だろうかと話をする。

 お昼を済ませ歩きはじめる。12時10分。30分の昼食タイム。少し下って、急傾斜を直上する。その先に地図上の浅間嶺の最高点がある。「小岩浅間903m」と木の幹に小さな表示が掛けられている。でも、どうして「小岩」がつくんだろう。当初登り口に予定されていた「小岩」と関係があるのだろうか。道はしっかりしている。30分ほどで「人里」との分岐にかかる。これを「へんぼり」って読むんだなと、また思う。スギやヒノキと広葉樹がともに広がる稜線沿いの道は、快適そのもの。アップダウンもそれほどない。50分歩いて、「浅間石宮」と木柱のあるところで一服。「サル石」で、「よく探せばわかる」とあるサルの手形を岩の中に見つける。山肌の紅葉が、曇り空に霞んで、おしいなあと思わせる。
 
 13時40分頃、「風張峠→」との分岐を通過、「←浅間尾根登山口バス停」をたどる。ここから急な下りと覚悟していたのに、それほどの急斜面はなく、あっけなくバス停手前の「浅間坂 木庵」と表札のかかる「浅間の湯」「テラスの宿」に到着。ここまでの行動時間は4時何50分。払沢の滝を見るために往復した時間とお昼に浸かった時間がふくめまれるから、コースタイムより30分早く歩いたことになる。いや、たいしたものだ。

 「浅間坂 木庵」は、ちょっとおしゃれな「隠れ里」といったところか。風呂はまだ新しさの感じられる檜風呂、2、3人が入ればいっぱいというこじんまりした湯船だが、全面ガラスの外は緑と黄葉いっぱいの木々と、秋川の対岸にある、やはり緑と色づいた紅葉に覆われた大羽根山の山体が借景。風呂に浸かっているときは、まさに里山の極楽という気分。ビールは格別であった。

 風呂の建物の奥には二部屋の宿。1万円で泊まれると謳っている。広い中庭には、3年前に焼け落ちたあとの宿をつくるために建築資材が運び込まれ、重機が入っている。あとで帰るときに分かったのだが、私たちがビールを飲んだ食事処も、じつは3、4メートルの高さの足場を組み、テラスのように設えられている。この基礎は電信柱だと聞いた。面白い宿だ。だが、これから登ろうとする人は目もくれないだろうというと、msさんが「だから今日は、払沢から登って、ここへ降りたんですよ。ここでビールと風呂って思ったから」と解説してくれた。インターネットではけっこう評判らしい。でも、バス停から歩いて20分もかかる。車ででも、主要路を離れて急坂を登る。たしかに新緑とか紅葉の時期は来る人もいようが、こんなところで商売が成り立つのかなと思う。

 そうそう、「へんぼり」を「人里」と書くことを、ここに生まれ育ったという「木庵」の方に聞いた。「知らない」という。この「数馬」の地の東側にある地域を「へんぼり」と呼ぶといって、家から今日届いたばかりという、大きなポスターを持ってきた。それには「へんぼり紅葉まつり 11月18日(土)」と大書されている。ビールを飲みながらkwmさんがネットで調べてくれたのによると、「へん(=人)、ほり(=里)」という朝鮮語が語源、(確かではない)とあったそうだ。面白い。いかにもありそうな話だ。

 それより驚いたのは、浅間尾根登山口から五日市までのバスが55分もかかったことと、バスの乗客がいっぱいであったこと。こんなに奥深く、平日にやってくる人が多い。東京からアクセスしやすい自然豊かな土地ということか。観光客相手に宿を新設しようというのも、わかるような、わからないような、気分がした。

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