2017年12月31日日曜日
雪深い奥日光を歩く
昨日(12/30)朝の奥日光・湯元は良く晴れて風も弱い。赤沼から小田代ヶ原に向かう。8時45分。すでに先行者がいて、20センチほどに掘れた、人ひとりが歩く幅のトレイルがついている。ミズナラやシラカバの林は静かに雪に身を浸している。
湯川を越える太鼓橋を渡ってすすむと、ミズナラに代わってカラマツの林になる。木の枝に実の残りをつけている。そこに飛び交う小鳥たち。立ち止まって双眼鏡を出す。四、五十羽のマヒワの群れ。「エナガもいる」とカミサン。シジュウカラ、コガラ、ヒガラ、ゴジュウカラ、コゲラと、群れの中の一つひとつ見極める。その声の方向の鳥を双眼鏡に納めようとする私の目に、薄緑の身体の頭頂部に赤い斑をつけたアオゲラが木の幹にとりついて木肌をこつこつと叩いている姿が入る。それを口にするとカミサンが、「えっ、どこ?」という。私は双眼鏡から目を離さずに「今、見ている方向の最上部が枯れたカラマツの先端から2メートルほどのところ」と告げる。朝陽を受けて、アオゲラの緑色が鮮やかだ。別の群れの中にアトリも見た。少し進んだところでは八羽ほどのイカルをみる。カミサンが通りかかったカメラをもった三人連れにそれを告げて指をさすが「???」という様子。ことばがわからなかったのだ。彼らは、街歩きの靴でトレイルを追ってきていたのだ。
高い台地を降って戦場ヶ原展望台のあたりで、一組のペアが道を譲ってくれる。スノーシューを履いて、一脚で一眼レフを支えて何かを写している。「風景?」と聞くと、「いいですね、この雪深い景色は」と返ってきた。その先は急に足跡が凸凹として踏み均らされていない。ストックを使わない二人ほどの壺足が先行しているだけだ。そう思っていると、小田代ヶ原の方から、この土地の何か様子を見に来たのであろうか、公園職員風情の姿をした男が二人、速足でやってくる。軽く会釈をして、道を避けてくれる。後からスノーシューを履いた若い三人連れがどかどかとやってくる。道をあける間もなく、脇の深い雪を踏んで、急ぎ足で先へすすむ。
小田代ヶ原のシカ柵に入ったところで、私たちは小田代ヶ原の裏側へまわる。あのシラカバの貴婦人の姿を、いつもは背景の屏風をなしているカラマツの林越しに見る。こちらは誰も通っていないのか、足跡がない。しかも雪が深い。昨日の、三つ岳の小峠林道ほどではないが、30センチほど沈む。キョキョキョという声に立ち止まる。「アカゲラがいるよ」とカミサン。声の方を見ると飛び立ってすぐ先の幹にとまる。アカゲラだ。先ほどのアオゲラに比べて小さいが、頭の先が赤いのは同じだ。その先で、向こうからやってくるカメラマンに出逢った。「マヒワやアオゲラ、アカゲラもいたよ」と告げると、先刻承知のような顔をして、「紅い奴がいませんかね」という。「???」「ベニマシコとかオオマシコがみたいですね」と応じる。鳥については手練れだって言いたいようだ。その人のやって来たのが、私たちの向かう方向であったようで、踏み歩いた後がトレイルになって続いている。むろんスノーシューを履いていた。
小田代ヶ原の駐車場から来る道と合流するところまで2時間かかっている。一息ついて、再び歩き出す。凹凸のある台地の上を戦場ヶ原に向けて下る。静かなミズナラの林がつづく。鳥影は見えない。30分ほどで泉門池に着く。何脚ものテーブルとベンチに上に高く雪が積もって、休んだ人がいないとわかる。一組のペアが先の木道の上の踏み跡を先行している。ふと見ると、雪から頭を出したササの間に、ピンクのリボンをつけた緑のポールが立っている。先の方につづいているのが見える。そうだここは、夏はブッシュで通れないが雪をかぶると、小滝から湯滝へ行く森の道と合流している。15年程前はブッシュをかき分けて歩けたのだが、いつのまにか、ロープを張って通行禁止にしているから、通れなくなってしまった。でもそれは、いまは雪の下。こちらへ行こうというと、カミサンはすぐに応じる。まだこういう元気が残っているところが頼もしい。
だがそのルートの雪は、さらに深かった。膝辺りまで沈む。ピンクのリボンはしっかりとつけられているから、何の心配もいらない。気がつくと、12時を過ぎている。森の中でビニールシートを敷いてお昼にする。いつのまにか陽ざしは消えている。風がないから、穏やかな森の散策という感じがする。20分ほどで、再度歩きはじめる。小滝からの木道に入ったようで、ササの見当たらない雪の降り積もった道という気配が、踏み跡ではなく、筋を引いたように見える。ところどころ階段があり橋を渡って川を越える。やはりピンクのリボンは案内標識になる。湯滝の展望台がみえ、大きく降って川縁に降り立ち、展望台へと上がる。
湯滝展望台には外国人らしい家族連れやペアの観光客らしい人がやってくる。湯滝の最上部が見える。60mほどあろうか。あそこまで上る私たちのルートの先を、登りはじめたペアがいる。追いつくのもなんだから、しばらくそこで休んで、彼らと十分距離が空くようにする。では行こうかと声をかけて、登りはじめる。先行ペアは壺足のようだ。雪が深いから、滑り止めもついているスノーシューの方が楽。ゆっくりだが休まず上る。最後の20mほどのところで、先行ペアに追いついた。彼らが難儀していたのは、上を走る車道の除雪した雪がかぶさってせり出しているところ。それを避けて通るには、雪が斜めに降り積もっている雪面を踏み固めて進まねばならない。斜めに降り積もる左側は、半ば凍りついた湯滝が滔々と流れ落ちているから、いかにもそこへ吸い込まれそうな恐怖感がある。だが壺足の彼らは、踏み込むと(たぶん)腰まで埋まってしまう。そこを通過するのに、四苦八苦していたようだ。私たちは慎重に傾斜になった雪面を踏み込んで平らにし、通過する。
湯滝の上は強い風が吹いていた。一昨日やって来た時にはまだ凍っていなかった湯の湖が、半分ほど凍りつき、その上の雪が積もっている。湯の湖をぐるりと回る散歩道に入る。壺足の人がこちらにやって来た踏み跡はあるが、それだけ。スノーシューで押さえると柔らかく平になる。脇の車道は、師走の30日とあってやってくる車が多い。湯の湖の水鳥は強い風を避けているのか、姿を見せない。キンクロハジロやオオバンがぽつりぽつりと浮かんでいる。ホシハジロの一団が木陰の水上に屯している。
こうして、雪深い赤沼から小田代ヶ原を抜けて湯元までの散策が終わった。行動時間は5時間。心地よい疲れが、温泉の湯に溶けていくように感じる。ビールとワインが待っていてくれた。
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