2018年11月9日金曜日

前線の通過する雲の中の丹沢を歩く


 一昨日(11/6)丹沢を歩いた。バスを降りると、すでに雨が降りはじめていた。大きなトイレの外側の庇の下で雨着をつけて出発。ヤビツ峠から菩提峠を経て二ノ塔へ上って三ノ塔へ向かう、静かなルート。じっさい、出会った人は、三ノ塔の避難小屋で昼食をとっていた2パーティ4人と下山中に上って来た単独行の外国人だけ。バスは座席がおおむね埋まっていたから、他の方々は、寺山を通過する主稜線コースをとったか、大山へ向かったか。


 登山口からいきなり上る。雨粒が落ちるほどではないが、すっかり湿っぽい雲の中をすすむ。足場は悪くない。やがて両側から丈の高い笹がかぶさる。15分ほどで東屋に着く。7メートルほど離れたところから、こちらをじっとシカがみている。好奇心が強いのだろう。3頭いたが、1頭は早々と笹の中に隠れ、他の2頭もしばらくしてそっぽを向き、白い尻を笹の合間からみせている。イロハモミジの紅葉がはじまったばかりという風情。リンドウやフジアザミがたくさん花をつけている。40分ほどで岳の台通過。春に来たときにはこの上から富士山が見えたが雲の中では仕方がない。止まりもせず、先を急ぐ。下りになる。菩提風神祠はひっそりとした盆地のようなところにある。ルートから10メートルほど離れているだけなのに、「oktさんがいないから、ま、いいですね」と、信心深い歳より会員の名をあげただけで、先頭は脚も止めず菩提峠への上りにかかる。雲にまかれて気もそぞろなのだろう。

 草もいくらか紅葉し、緑と相まってなかなかの風情を醸している。シカ柵を右にみながらぐるりと回り込んで、パラグライダーの滑走台地点を過ぎる。そこから少し下って菩提峠だ。広い駐車場があり、何台か、止まっている。回り込む林道が通じている。ここに車を置いて塔の岳を往復する方もいるそうだ。萱が大きくなって、ここから二ノ塔への登り道が分かりにくい。この先の二ノ塔に登るルートは、昭文社地図には記載がない。春に来たとき入口に「日本武尊の足跡」という表示看板とその脇に「インチキ」と記た落書きがあった。それを「ルートがインチキ」と読み誤って、入口をうろうろと探したことが甦った。その落書きも見当たらない。萱の向こうには、しかし、しっかりとした踏み跡が上へ向かっている。檜の木立の向こうに街が見える。渋沢の街だろうか、秦野の街だろうか。倒木が多く道を塞いでいる。根こそぎどお~と倒れ、根に土をつけて、その根の浅さを見せつけている。あの風台風24号のせいのようだ。

 いくぶん空が明るくなった。南の風が吹き込んでいるのだろう。雨が温かい。「日本武尊の足跡→」という表示がある地点に来る。皆さんは見て来ようと、足を運ぶ。私は、分岐で一休みする。戻ってきた皆さんは、何か珍しいものを観たという顔をしていない。大きな岩に注連縄を張ってあっただけと。そこから上り10分ほどで二ノ塔の稜線に出る。さらに10分で二ノ塔に着き、ヤビツ峠から寺山を経る主稜線と合流する。雨は強くはないが、降り止まない。「三ノ塔まで15分です。向こうでお昼にしましょう」とチーフリーダーのstさんが気合を入れて、三ノ塔へ向かう。折も折、雲の一部が薄れて三ノ塔の山頂がぼんやりと雲間に浮かぶように現れる。階段を降り、また階段を上がる。見晴らしが利かないから、くたびれもしない。だが三ノ塔の山頂から振り返ると、二ノ塔がずいぶん向こうの方にみえる。人の脚力って、すごいなあとあらためて思う。

 12時5分。三ノ塔の避難小屋に入る。12畳ほどの広さの土間、小屋の隅にベンチを設え、テーブルが二脚ある。すでにそれらに先客がいて、食事を広げている。私たちはそれぞれにベンチに腰を掛け、お弁当を広げる。ちょうどこのころ、気圧の谷が通過していったようだ。暖かかった雨が冷たい風に変わった。体が冷え込む。羽毛のベストを着こんで防寒にする。一組3人の先客の女性陣が大きなザックを背負って出かける。アラサーとでも言おうか、若いってのは元気でいいねえ。塔の岳の小屋に泊まるというから、午後の行程はすぐに終わる。そのあとどこへ向かうか聞かなかったが、まさかそのまま大倉に下ることはあるまい。丹沢山を往復するとか、その向こうに足を延ばすとか、丹沢を堪能するにちがいない。お天気が気の毒だ。

 40分も休憩をとった。出発しようと外へ出ると、雨は上がり、西と南の方面がよく見えている。春にはここから富士山も頭を見せていた。山体の東側が緑の木々の間に紅葉の彩を添えて、姿を変えようとしている。陽ざしがあるといいだろうなあ。そう呟きながら、三ノ塔稜線を大倉へ降るべく、分岐を分ける。約5.3km、標高差1000m。

 下り初めが急峻だと思っていたが、そうでもない。道はしっかり踏まれていて、段差もそれほど大きくない。上りの時、あまり聞こえなかったmrさんが、CLのstさんと話す声が聞こえてくる。お昼でエネルギー補給したのが、聞いたのかもしれない。彼女はリハビリ中。どこまで自分の力が腰痛に打ち克って恢復するかを、毎回の山行で試している。リハビリ中ではないがokdさんも、今回の山行でどこまで歩けるかによって、下旬の鬼怒沼湿原への山行に参加するかを決めようと、試験登山というわけだ。皆それぞれに、自分と向き合って山を歩ている。下山しながらそういう話になる。kwrさんが「この日和見山歩に行くと三日間、山歩講に行くと一週間、回復するのに時間がかかる」としゃべっている。彼は後期高齢者。目下で一番強い。以前のような、下山の時の疲労にも負けない歩き方をしている。

 渋沢の街が一視に収まる地点もあった。下界は晴れているようだ。その街並みの東端の里山から、雲が湧いて街の縁取りをしている。いいねえ。何だかエネルギーが湧いてくるような光景だ。檜の樹幹越しに見える広葉樹の紅葉が、赤と黄色を交えて美しい。標高が低くなると、だんだん緑が色濃くなるのも、グラデーションを楽しめる。

 1時間ほど下ると霧が出てきた。降った雨が下界の高い気温に反応して、霧が発生してるようだ。汗ばむ。牛首を過ぎているのではないかと、CLのstさんが振り返る。私もそう思うと最後尾から目で頷く。途中で一休みして、中に着込んだ羽毛のベストを脱ぐ。そのあたりから登山ルートが林道で何度も切られている。よく手入れされた立派なスギの林が伐採作業中なのだ。こうして林道をつくり、大型重機を入れ、手際よく皆伐していくと、話す声が聞こえる。そのあとにまた植林するのであろうが、こんなに何本もの林道をつくらなくてはできない作業なのだと、新しい発見をしたような気になる。

 下りの下半分の3.5kmが長かった。緩やかな傾斜を下山地・大倉へ向かって延々と歩いた。1時間15分。こうして大倉バス停に着いた。出発時間までの15分ほどの間に、靴の泥落としを済ませ、雨着を脱ぐ。ところが、kwmさんにヒルがついている。えっえっと、皆さんわが身をみている。msさんは脚の肌にもヒルがついていたが、それを取り払って「でも、痛くもかゆくもないわよ」と笑っている。シカをしかと観た人たちはヒルにも見舞われたというところか。今年の十月の温かさと湿り気がヒルを生き永らえさせているのかもしれない。

 バスは順調に渋沢駅に向かい、例によって駅近の海鮮料理屋で一杯294円の生ビールを二杯も飲んで、電車の人となった。電車は帰宅中の高校生などでいっぱい。新宿駅のホームはぞろぞろとついて歩くばかりになり、ついにはぐれ、あるいは電車の中でおや、ここにいましたか、と挨拶を交わしながら帰宅したのでした。

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