2018年12月17日月曜日

正義の産業スパイ?


 吉田修一『ウォーターゲーム』(幻冬舎、2018年)を読む。吉田の連作ともいえる作品のひとつ。つい最近国会で成立した水道事業の民間参入を許容する法の成立と裏側の事情を、利権に絡む政界の動きを交えて描いている。だが今回の作品は、前作に比べて分かりやすい。産業スパイの動きも、右往左往しているだけで、それで何か事態が大きく変わったりするから、世相を切りとるような迫力が、蒸発してしまっている。ただ単に、利害入り組む産業スパイのまさに「ゲーム」を描いているような、つまらなさ。冒頭の出来事が引き起こす緊張感がどこかへ消えて、いつしか観衆になっている読み飛ばしている自分を感じた。


 吉田修一は、ちょっと気軽に手掛けてしまったっていう感じか。でもまあ、これが売れるんでしょうね。

 読後感とは別に、しかし、水道事業の民営化って、本当に大丈夫なのか。そちらの方が、気にかかる。吉田修一もそれを気にかけてこの作品の素材をそこに絞ったと思うのだが、切り込んでいないのは、残念。でも南米などの水道事業御影化をめぐる暴動は耳にしたことがあるし、そう言えば、雫石町でも、人口が減って水道事業者が成り立たなくなり、大幅な値上げを住民に突き付けて多いな騒ぎになっていると、最近のニュースで知った。

 水は、暮らしに不可欠のインフラ。民間に移行して後に、値上げを突き付けられると、他の水道に切り替えるってわけにいかないから、たちまち行き詰ってしまう。インフラは公共事業として行うという原則が貫けなくなっている。民間への移行がすなわち自由競争になるという構図は、机上の空論。水道事業でそれをやると、たちまち地域独占企業の誕生につながる。資本の論理が公共圏をも食い尽くそうとしていることを、政治家たちはどこまで真剣に考えてくれているのだろうか。

 まるで他人事のように「ゲーム」として読んでいるが、吉田修一にすれば、警世の一作と思っているのかもしれない。それが「正義の産業スパイ」という印象を強めたのかもしれない。そう思った。

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