2019年5月9日木曜日

初夏、好天の堂平山・笠山


 五月に入って、何とも安定しない天気が続くなか、「滅多にない好天の洗濯日和」とTVが報じる昨日(5/8)、洗濯物を放っておいて山へ向かった。奥武蔵の堂平山と笠山。kwrさんをチーフ・リーダーとする、月例の「日和見山歩」。


 バスの発車時刻より25分もはやい電車を書き込んでいる。「バス停に並んで待つ」と書き添えている。用心深いkwrさんのこと、CLとあって早めに待つという意味と思った。歳をとった私も、たいてい一本早い電車に乗る。乗り換えでアタフタするのが嫌なこと。乗り換え時にトイレを使う場合も計算に入れる。ところが、着いて驚いた。バス乗り場には列ができている。出発10分前の電車がつく時刻には、すでにバスは満員。「入り口の方はもう少し中へ」と運転手が呼び掛けている。水曜日。途中から乗る地元の方は、途方に暮れている。降りる方は、前から乗車した方が降りて待ったり、後ろの出口から出たりしている。あとで聞いたが、kwrさんが下見に来たときも、ウィークデイだったのに、同じような込み具合。誰かが話していたが、(増発する)車両はあるが運転手がいないのだそうだ。

 山間に入ってから、リュックを背負った人たちが降りる。一時に25人ほども降りて、これが二本木峠への登山口だと思い出す。終点の白石車庫までは15人が乗っていた。kwrさんは「今日は静かなルートにしました」という。降りた人たちは別のルートへ行ったようだ。槻川沿いに舗装路を15分ほど歩き、笠山峠への山道に踏み込む。花びらの大きな薄朱色の花をつけた5メートルほどの高さの木がある。オオヤマレンゲかなと思ったが、花が下向きで白くない。むしろモクレンの花に似た形をしているが、その花びらよりもさらに大きな葉がたくさんついている。陽ざしを受け青空に映えて、いかにも夏の到来を告げているようだ。空気は涼しい。2か月ぶりに顔を出したmrさんは、山の会の白山や表銀座プランに行きたいという気持ちと無理でしょうという身体模様がせめぎ合っている。何とか白山に行けるように歩きますと、リハビリ山行の心構え。表銀座も、槍ヶ岳への東鎌尾根はとても無理だから、その日程に合わせて、槍沢を上り槍ヶ岳山荘で逢うプランを考えていて、msさんに「一緒に行きましょう」と声をかけている。

 ヒトリシズカがある。「ホトトギスがあるよ」と花をつけてはいないが斑のついた葉っぱを指さして、先を歩くmrさんが声を上げる。ヤマブキソウが見事な黄色い花を咲かせている。ニリンソウの群落もある。これチゴユリよとmsさんが傍らの花を示す。タチツボスミレもぽつぽつと姿を見せる。「こうやって歩くと、花の山になるね」とkwrさんが感心している。

 笠山峠へのルートは明るい杉の林。新緑を湛えた灌木が陽ざしを受けて気持ちをほぐしてくれる。最後のところが急斜面だが、mrさんはペースを落とさずずいずいとすすむ。篭山のタルに出る。笠山と堂平山を結ぶ稜線の大きく撓(たわ)んだところだ。「タルって弛(たる)みか」とkwrさんは感じ入っている。ここで休んでいる単独行の女性に出逢った。北東の方、東松山から熊谷にかけての関東平野が広がる。遠方は霞がかかるようだ。

 ここから堂平山を往復してくる。その踏路が広葉樹に覆われた気持ちのいいルートになっている。ウツギにしては密生していない、ヒョウタンボクかウグイスカグラのような、花が緑の葉の間から顔を出している。チゴユリがひっそりと花をつける。スミレがあった、と前方から声が聞こえる。タチツボスミレだ。イチゴかな? というのを覗くと、白い花をつけている。ニガイチゴというらしい。前方にヤマザクラが満開の様子。2組の登山者とすれ違う。車で来て堂平から笠山を往復しているご夫婦。「クマに食われないように」と忠告して、ご機嫌である。ご自分の山のように謂う。

 樹林を抜けると広い芝地が広がり、その山頂部にドームが立つ。堂平山の天文台だ。何組ものハイキング客が立ち去り、やってくる。ズミが赤い蕾をいっぱいつけ、今にも咲きそうに枝を広げている。奥日光では6月初めだというのに、ずいぶんと早い。そう言うと、「あらっ、うちの庭のはもう咲いたわよ」とmsさん。

 「あれは両神山だね。あっ、こっちのは浅間山かな」とkwrさんがぐるりと見まわす。ギザギザ平頭の両神山はすぐわかる。その後ろの黒っぽい山並みの向こうに白い峰を覗かせているのは八ヶ岳のようだ。さらにその左の方を指さして、あれって富士山かなと誰かが言う。山頂の平らなところがほんのちょっと見えている。浅間山の右へ目を移すと、白い峰を谷川岳が連ね、その前に、榛名山や子持山が黒っぽいシルエットをみせている。山頂の表示板が少し方角がくるっているらしく、「見えているのは赤城の黒檜山でしょ、その脇の左が武尊山右が燧山ですよ」とご夫婦連れの山達者らしき方が解説してくれる。表示板の男体山や女峰山は天文台の陰に隠れている。あれって、筑波山だよねとkwrさん。東の方に霞んでいる。遠方の眺望もさることながら、山肌の緑が色とりどりで初夏の気分を盛大に盛り込んで美しい。ずいぶん早く着いたよというので、しばらくベンチに座って眺望を楽しむ。kwrさんはいつも、ルートの予想通過時刻を書き込んだメモをもって歩き、歩くペースを推し量っている。予想より30分以上も早く歩いているそうだ。

 篭山のタルへ旧道を通って引き返す。そこから堂平山へは急な上りになる。「クマに……」と言っていた登山者ペアが引き返してきている。木々の間から笠山が姿の良い山頂をみせる。ひとたび舗装林道に出て、「クマ出没注意」の看板から山道の急斜面に入る。msさんが先頭に立ちkwrさんが後に続く。ヤマツツジが満開になるとトンネルをつくるようだねと言いながら、山頂へ向かう。山頂にはミツバツツジが山頂標識と並んで向かえてくれる。11時40分。ここでお昼にする。

 山頂からは小川町の中心部が一望できる。小高い丘に囲まれてモダンなビルも立ち並ぶ。ここも「小江戸」と呼ぶ人がいるようだが、大きな関東平野からすると、隠里のような風情に思われる。何組かが通過し、後から来た女性ばかりの何組かが近くに陣取って、にぎやかにお昼にする。ゆっくり30分の時間をとって出発する。mrさんは、おしゃべりに忙しくコーヒーを飲みそこねている。

 kwrさんの選んだルートは、やはり人気(ひとけ)がない。以後、バス乗り場まで人と出会うことなく、2時間ほどを歩いた。「小江戸大江戸トレニックワールド」と冠したトレイルランがあるらしい。「5/11」と手書きの表示が書き込まれている。今週の終末だ。「奥武蔵七峰縦走路」をへめぐるものようだが、トレニックってなんだ? トレイルピクニックの略か? たしかに踏み跡はしっかりしている。先月歩いた丹沢や大山のルートは今にも崩れてしまいそうなトラバース道がそちこちにあった。新しく設えられた鎖も、荒れた踏み跡に似合わないほど光って見えた。こちら奥武蔵は、張ってあるロープは古びてとてもつかまる気がしないが、踏み跡はずいぶんと安定している。入山者が違うのだろう。奥武蔵は年寄り向きのハイキングルートというのかもしれない。

 登山路の右は広葉樹林で明るく、左はヒノキ林。よく手入れされてはいるが暗くなっている。どうしてここで分かれてるんだろうとmrさんがつぶやく。斜面が南北とわかれているわけでもない。下から植林してきて、もうこの辺でよかんべ、となったんじゃないかと誰か。少し下で舗装林道と出逢ったところに看板があった。「林道萩平笠山線」と題し、「良材を育てるためスギ・ヒノキの植林をし、下草刈りや枝打ち、間伐など手入れをしている。樹齢40年以上 寄居林業事務所」と誇らしげに記している。たしかにあるいていても快適なヒノキ林であった。

 当初ルートの皆谷(かいや)バス停へ30分の地点に来た。このまま皆谷へ下ると1時間以上バス待ちをすることになる。ならば、和紙の里まで歩こうということになり、余計に歩く1時間の行程をとった。魚影も見える沢沿いの舗装林道だが、だれにも会わない。ところどころに民家はある。のんびりとした山のなかだ。麓の方にはセメントの鉱業所があって、大型のダンプが行き来し、石を砕いて混ぜ合わせるコンベアが稼働している。

 こうして和紙の里に50分で着いた。2時5分前。行程は全13km、4時間45分。お昼も山頂休憩も含めてこれだから、まずまずのハイキング。小川町駅行きのバスは17分待ち。駅に着くと10分待ちで急行が出た。こうしてさかさかとご機嫌なハイキングを終えて帰途についたのでした。

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