2022年5月12日木曜日

ぶらり遍路の旅(2)お大師さんとの同行二人

 お遍路の宿は遅くとも当日の昼までには予約しましょうと、何時、誰から教わったか忘れてしまったが、そういうものだと17年前の初回のお遍路の旅で覚えた。

 今回は用心して、歩き始める前日の夕方に予約の電話を入れた。ところがお目当ての宿は「ご主人が入院して営業していない」という。そうか、そういうこともあるんだとはじめて宿の移り変わりを勘定にいれることになった。

 このときは紹介して貰った3軒の別の宿に当たる。一つは満室、一つは応答なし。ちょっと慌てた。最後の一つ「かくふうてい」が「どうぞ」と受け入れてくれた。これが営業していない宿の近くということもあって、ちょっと安堵したのであった。

 そのせいもあって、二日目の宿にも早々と電話を掛けた。お目当ての宿は満室。そこで紹介された「ぱんだや」に予約したら、ご主人が「前日の宿は何処だ」と聞く。「かくふうてい」だと応えると、「ああ、尺八の名人だよ。よろしく言っといて」と気安くいう。そうか、そういう付き合いもあるんだと、またひとつ遍路宿の「情報紐帯」のようなものを感じた。こういった感触が味わえるのがぶらり遍路の醍醐味になるか。

 宿の予約の話しに戻ろう。「3月から4月は季節が良くてお遍路さんが増えるからね」と最初の泊まった鶴風亭のご亭主が言う。「ぱんだや」に泊まるのが土曜日ということもあったかもしれない。ならば日曜日のも早く予約しなきゃあと電話を入れたのは、23番札所薬王院。「宿坊は止めました」という。地図にある近場の民宿などに電話をすると「満室」。その先は17キロも離れている。手前2キロほどのホテル白い灯台に電話をする。「お遍路ですが」と前置きしなさいと誰にだったか教わっていたからそう言ったら、シングルの値段は9千なにがしかするが良いかと念を押す。いやも応もない。鶴風亭やパンダ屋は7千円ベースだったからちょっと高いとは思ったが、ホッとしたのであった。ところが私が白い灯台に泊まると知ったお遍路の人たちは、「いいねえ、温泉ですよ。それも海がみえる絶景」とか「私も泊まりたかった」と絶賛する。何度も歩いている人がひとり「かつては8千円台だった」と話した。細かい数字は忘れたが、支払いの時1割の消費税と入湯税を加えて9千なにがし。つまり8300円だと計算して、「お遍路です」といったのが利いていると思った。だが更に後で、他の民宿や旅館は税込みで6000円~7000円でやってるんだと気づいたが、消費税をどうしているんだろうとまでは考えもしなかった。

 そういうことがあったから、宿に着き、草臥れ具合を推しはかり、早め早めに宿の予約を取るようにした。7日目の宿を予約したとき、電話に出た女将が「前日は何処?」と聞く。「民宿***です」と応じると、何でそこを予約したのと言ったろうか、何か含むような物言いを感じた。泊まってみて分かった。明らかに他の遍路宿とは違う。何がどう違うかは、またひとつ、暮らしにおける文化の違いにかかわるように思うから後に取り上げて述べるが、こうした遍路宿の「情報紐帯」は、お遍路さんと遍路宿のご亭主とがとり交わす遣り取りや出来事を通じて、つくられていっているんだと思った。

 宿の予約でもう一つ難題があることに気づいた。大型連休である。連休に(休暇の取れた)お遍路さんが押し寄せるということもあろうが、家族連れが観光にやってくる。殊に今年は、コロナ禍自粛が続いたのが解除されたから、よほどの混雑になるだろう。更に早めに予約を取った。それが正解であったかどうかは、終わってみても分からない。だが、その距離を歩ききったこととか、疲れ具合を考えると、まあ、そこそこ良い線行ったのではないかと振り返っている。他のお遍路さんは前泊したところで、次の宿の情報を聞いて予約を取るようにしたという方と、そもそも出発前に(休暇の取れた何日間かの)宿情報をネットでチェックし予約を取ってからやってきたという。なるほど、デジタル世代の強みがよく現れている。差し詰め前者はアナログ世代だなと思った。

 大型連休といえば、ホテルなどには特別料金があることも分かった。高知市の中心部に近いホテルはシングルが19000円、また別の土佐市のホテルは素泊まり13200円であった。こういうときにお遍路さんは動くなということなのかも知れない。それでも値段が変わらない遍路宿はあったから、事前によく調べて繰り出せということかも知れない。もっとも私は、山小屋の宿泊料金と比較していたから、じつは、それほど高いとは思っていない。山小屋は2食付きだが1万円前後する。むしろ6000円とか7000円でやっている遍路宿の方を、大丈夫かなと気遣ったほどだ。

 そうだ、も一つ触れておかねばならない大事なことがあった。

 学生風の若いお遍路が大きいザックを背負って、前になり後になりしばらく一緒になり、休憩所で話すこともあった。第8日目の朝私が歩いていると、高いところから「おはようございます」と声がかかる。見上げると、3㍍ほどの高い櫓の上にある遍路休憩所の東屋から昨日一緒になった学生風が笑っている。室戸世界ジオパークの入口。23番札所から24番札所までの75キロ、左に海を見ながら歩き続けるところだ。彼はここで泊まったという。「遍路休憩所」を辿って泊まりながらお遍路を続ける。トイレがあり、水が出て、雨が凌げるところ。ツエルトをもっている。そうだ、若い頃はこうやって山を歩いていたと身の裡の何かが共振する。これこそが、お大師さんとの同行二人だと感じ入った。お遍路の原点だ。大型連休であたふた、スマホで宿を予約をしてホッとしているなんて何やってんだお前、と天から叱る声が聞こえたようであった。

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