2017年3月2日木曜日
感触の違う雪山歩き
友人のKさんは、昨年11月の山で頸椎を損傷した。滑って首を後ろにひねるようになったことは事実だが、それは単なるきっかけ。それまでの彼自身のアスリートとしての活動の中で、頸椎をずいぶん傷めていたのだと自身を振り返っている。診断した医師からは、「もし、もう1㎜ずれていたら、一生動けない身体になっていたよ」と言われたと笑っていた。
そのKさんが、山歩きに復帰したのは一週間前、奥日光の積もったばかりの雪の斜面をかけるように下ったり、雪の上に身体を投げ出して大の字になったりしているのを見ると、元に戻ったような気がして私もうれしかった。そして一週間後の昨日、Kさんがアスリートの友人を山歩きに案内するのをサポートした。昨年スノーシューを買って愉しみを一つ増やしたSさんも私同様にサポートに入ってくれることになり、同道した。
東武日光駅でKさんのアスリート仲間Nさんを拾って、私の車で湯の湖脇の登山口に向かう。浦和を出るときはどんよりと曇っていた空も、日光宇都宮道路に入るころには青空が広がり、女峰山、大真名子・小真名子山、男体山が雪をかぶってすっくと立っているのが美しく見えた。先週は凍りついた上に積もった雪を踏んで上ったいろは坂の路面は、すっかり雪が解けて乾いていた。中禅寺湖は陽ざしを受けて輝き、しかし先週降り積もった雪がまだ残って、いかにも春の訪れを待っている気配が感じられた。
湯の湖畔の金精道路入口で皆さんを降ろし、スノーシューで先行してもらう。私は車を湯元駐車場に置き、スノーシューなどをかついで後を追うことにした。先週以降、さほど降らなかったとみえて雪面はざらつき、スノーシューが踏んだ後は固く締まっている。私も壺足で荷をもって歩く。さかさかと踏み出せる。この林道は何人かが通ったとみえて、スノーシューと壺足の踏み跡が生き返りの方向について残っている。やはり先週の、積雪直後の晴のコースが、歩く醍醐味は優れている。硬い雪面は壺足にはいいが、スノーシューを履いていては、主さばかりが気になる。むろん誰も踏んだ後のない雪面を歩けば、じょりじょりと沈むから、ちょっぴりラッセルの感触が味わえて、壺足よりもスノーシューを使っているありがたみがわかるが、特段のメリットを感じるほどではない。だが、先行した三人は話がはずんでいるらしく、好調に歩いていた。先頭はSさん。彼女はアスリートの皆さんに負けては迷惑をかけると、頑張っていたようだ。「ずいぶん速いんだよ、Sさんは」とKさんは笑っている。なるほど林道から外れるあたりまで30分、先週は1時間かけている。もちろんSさんが早いというのもないわけではないが、雪面が硬くラッセル不要というので、歩くのが早くなっているのだ。どなたも呼吸はみだれていない。
旧道に踏み込む。先週私たちが歩いた後が、ほぼそのまま残っている。壺足で下ってきている跡も見えるから、人が入ってはいるのだ。私も面倒だと、壺足のまま最後尾について歩く。それがさして不都合に感じられない。急斜面ではずぼっと埋まるが、せいぜいが膝下まで。Sさんは先週の踏み跡を辿る。Kさんが声をかけ、先週と違うルートへ行こうと誘う。踏み跡のないところへざっざっと入り込む。この感触も気分がいい。壺足の私はしばしば深く埋まるが、歩くのに触るほどではない。そうっと乗ると何ほどもなく受け止めてくれる雪面と、ずぶずぶと埋まって滑る雪面とが見分けがたく続いている。ふたたび先週の踏路と出逢い、そのまま高度を上げるが、先週歩いたところの雪が半分以上溶けて、萱芝が顔を出しているところもある。かと思うと、急斜面は上から滑り落ちた雪が先週の踏み跡を覆い隠して、誰も踏んでいないようにみえる。この急斜面のたらバースも、壺足ですすむことができた。
こうして先週お昼をとった(2時間掛けて登った)ところに、1時間10分で着いた。出発時間が先週より1時間半も遅かったから、11時45分、お昼にする。Kさんがストーブを用意し、チーズフォンジュをつくり、ひと口大に切ってきているフランスパン、カボチャ、ジャガイモ、アスパラガス、ウィンナーなどをつけて食べる。それらを刺す長い竹串をKさんはじぶんで削って用意してくれている。至れり尽くせりだ。チーズフォンジュの他に白ワインを温めてホットワインだとごちそうする。私は運転があるからワインは遠慮したが、いかにもKさんらしい心遣い。Nさんは鉄人レースに出たりキリマンジャロやマッターホルンなど、海外の山にも登ってきているアスリートだが、医師でもある。まだ還暦になっていない。Sさんがいろいろと持ち掛けて話がはずんでいる。こういう山のお昼も、久しぶりだ。なんと45分も長居した。
ワインの入ったSさんは少し下りが遅くなり、NさんとKさんが話しながら先行する。先週は下の積雪が凍りつきその上に30センチほど降った新雪がさらさらとすべりスノーシューを一歩踏みだすと1メートル以上も下ってしまう面白さがあった。それが日差しで融け夜に凍りつき、ザラメ状になっている。崩れ落ちない。だが逆に、かなりの急斜面でも制動が利く。ざくざくざくと体重をかけて下るのも、気持ちがいい。
森を抜け学習院の寮がみえてきたところで、先週よりも高いところを移動して光徳へと入った。他の人たちにアストリアホテルのロビーでコーヒーでも飲んでいてもらい、私は車をとりに湯元までバスで戻る。バスには11人の客がいた。平日の午後2時前、1時間に日本の運航をしているこれだけの観光客がいるのは、たいしたものだと思う。バスが湯の湖畔に差し掛かると、湖の半面が凍りついているのを見て、乗客が嘆声をあげる。ひょっとしたら台湾辺りから来た客かもしれないと思った。
光徳に戻って彼らを乗せ、Nさんを東武日光駅まで送って見送り、他の2人と一緒に浦和に戻った。車の中の会話も山から子どもの数のことから、故郷という感覚が浦和に残っているかと、さまざまに展開して、聴いていても面白かった。同じルートでも、雪の状態、誰と登るか、どれほどの余裕を見て歩くか、条件でいろいろと味わいが違うのだと思った。
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