2017年5月11日木曜日

結構なアカヤシオの前日光三山


 朝3時ころ、自転車置き場の屋根を叩く雨音に目が覚めた。まいったなあ今日に限って……。6時前、傘をさして家を出た。東武日光駅に着くころ、雨はほぼ止んでいた。予定の全員がrent-a-carに乗車して細尾峠を目指す。細尾峠は、奥日光と前日光の山並みを結ぶ稜線を越える峠。旧日光市と旧足尾町を結ぶ街道の峠にある。いまは、日足トンネルが峠道の下を抜けているから、旧道にはほとんど人が入っていないようだ。落石が転がり、パンクしないかとはらはらしながらの運転。「いつになく慎重ですね」とmrさんがからかう。


 降り立った峠は、雲の中。「←薬師岳、夕日岳、地蔵岳」「茶の木平→」の標識がある。寒い。雨具を着こんで、歩きはじめた。9時15分。「痩せ尾根10分があるんですって」とodさんが話していた通り、のっけから細い道。左側が切れ落ちて深い渓をなすが、霧に閉ざされて見えない。白い花が霧に浮かぶ。オオカメノキよと後ろから声が上がる。アカヤシオの花びらが地面に落ちている。慎重に進む。すぐに汗ばみ、体温調節をする。若い男の単独行者がやってくる。古峰ヶ原から来たという。茶の木平へ抜けるのだろうが、それにしても早い。向こうを6時ころに立ったのだろうか。やがて背の低い笹が生える上りになり、標高差200mほどを、途中で一息つきながら、ゆっくり上る。薬師岳山頂1420mに着く。ここへのルートは、しかし、国土地理院の地図には表示されていない。アカヤシオが明るい色の花をつけている。北側に大きく見えるはずの男体山も、雲の中にある。

 ここから地蔵岳まで、標高1400m前後の稜線を降ったり上ったりしながら前日光の山並みを歩く。西側の切れ落ちた谷を流れているのは渡良瀬川とその源流の沢。その向こうに足尾の集落があるはずだが、みえるのは手近のツツジの灌木ばかり。まだ花をつけていない。kwmさんを先達にして、女性陣が先行する。道はよく踏まれている。ツツジが花盛りのころにはにぎわうのだろうか。ヒガラだろうか、コガラだろうか、霧に浮かぶ枝の間をぴょんぴょんと飛び交っている。カケスのなく声が響く。歩くのが早いの何のと口にしていたmrさんたちも、何かをしゃべりながらついて行ってしまい、いまは声も聞こえない。「ひと月ぶりの山だね」と話していたotさんはゆっくりと慎重。歩きはじめると結構早いkwrさんも「急ぐことないよ」と、そのあとにつづく。

 ほぼコースタイムで三ツ目に着く。「もうこの辺でいいよ、今日は」とotさんが言う。「夕日岳に行ってからお昼にしましょう」と、あと15分の頑張りを持ち掛ける。標高で言うと30m下って、70m上る今日の最高峰・夕日岳1526mに11時45分。霧が薄く明るくなり、遠くの空が青く見えるところも出てきた。「天気が良くなってきましたね」とお昼にする。夕日岳へのルートも地理院地図には表示されてない。だが、山頂の方向表示看板は「〇×※→」と崩れた文字がどこやらへ通じていると言いたそうにしている。少し離れたところの表示板には、「蕗平大沢→」と消えそうな文字で書いてあった。たぶん鹿沼の方の地名なのであろう。霧が晴れてくると、アカヤシオが姿を見せる。花びらが雨粒をまとって曇り空を新鮮に彩る。ゆっくりお昼をとり、いったん三つ目に引き返し、そこから地蔵岳に向かう。三つ目から往路を引き返すと言っていたotさんに、「行きましょうよ、15分だって。すぐだしさあ、折角来たのでしょ」とmrさんが声をかける。しようがないなあというように、otさんも前へすすむ。

 地蔵岳1493mには山名表示板があるだけ。「地蔵はないよ」といっていたが、少し離れたところに石の地蔵さんがあるにはあった。だが、山名と地蔵との関係は、わからない。otさんは、脚がつりそうなのか、太ももに布プレーをかけている。ここから引き返す。12時56分。今度はotさんを先頭に戻る。結構順調に歩いている。「ええ? こんな道来たっけ」と前の方で言葉を交わしている。「往きと帰りじゃ、みる景色が違うよね」と、誰かが応えている。霧が取れて、意外にたくさんアカヤシオが花をつけていることがわかる。谷を挟んだ対岸の足尾地域の山が姿を見せる。カラマツが見事な新緑をつけて、渓へと降りているのがみえる。東側をみると、崩れた崖が深い渓へとみる者を誘い込むように落ち込んで、下の方が明るい。下界には陽ざしが入っているようだ。

 前方に、今朝通った山が見える。ところが結構何度かアップダウンを繰り返した。それを忘れて、目前の山が薬師岳だと思うから、あれっ? こんなトラバース道はあったっけ? とルートの印象がわからなくなってしまう。小ピークをいくつか越える。だんだんアカヤシオが多くなる。新緑も多くなる。そのあいだにヤマザクラだろうか、花をつけて枝を大きく広げている。いや、朝方は見えなかったのだが、天気が良くなりよく見えるようになったのだろう。気温も、朝方の10℃ほどに比べて暖かくなった。otさんを先頭に、薬師岳の直下の肩、トラバースする下山道への分岐に着く。ここから先頭は変わり、otさん、mrさんが後に続く。腰くらいの笹原を降る。足元がよく見えない。「段差、あります」「倒木、あります」と声をかけつつ後ろがつづく。やがて、山腹を巻くように、脚の幅くらいしかない細いトラバース道が出てくる。ところどころ道はなくなり、瓦礫の涸れ沢になる。今日一番の緊張を要する。「ええっ、どっちなの?」「だいじょうぶ?」と何度も声が上がる。まるで子どもに返って楽しんでいるみたい。「いや、これだけ緊張すれば、認知症にはならないよ」とkwrさんが誰かに話しかけている。案外、彼女たちのおしゃべりが、この山の会の要なのかもしれない。標高1280m辺りで、朝上った薬師岳への踏路に合流する。そこからまた、otさんを先頭にして下山する。細い、崩れかけた尾根筋の登山道に最後の緊張を保ちながら、細尾峠の車のところまで下った。15時30分。行動時間は6時間15分。分岐や山頂、お昼に時間をとったとはいえ、要所で緊張を保ちながらこれだけ行動できるのは、後期高齢者としてはたいしたものだとotさんを讃えつつ、じつは自画自賛しているのではありました。

 晴れて陽ざしの指す東武日光駅で「特急・リバティけごん」に乗ってビールを飲みながら、帰宅したのは6時半。日光から2時間ほど。結構な日光であった。

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