2017年5月4日木曜日
にぎわう山
連休の真ん中三日間、列島は高気圧に覆われて天気が良い。足ならしに山へ出かけた。バスで奥多摩湖から御前山に登り鋸山を経て大岳山をめぐって鳩ノ巣駅へ下るルートを考えていた。コースタイムは8時間ほど。ちょっとしんどいかな。それなら御前山を省略して、奥多摩駅から鋸山、大岳山と歩くと、7時間程度。
そう思いながら立川駅で「ホリデイ快速おくたま号」に乗り換えて驚いた。リュックを背負った人たちでいっぱい。満員電車と同じだ。小さい子ども連れもいるが、それ以上に若い人たちが、休日にはしゃいでいる。もちろんおしゃれな山ガールもたくさんいる。彼女たちの話し声が耳にきつく響く。これに1時間以上乗っているのは敵わない。
「ホリデイ快速」だから、青梅を過ぎると終点までの間、御岳にしか止まらないと分かる。さっそく行程を変更することにして、御岳で降りる。御岳から大岳山、鋸山を経て奥多摩駅へ降りると、6時間半ほどの行程になる。いや混雑する山を歩くくらいなら、いっそうケーブルカーで上がって、1時間短縮しようと考えた。ところが、ここで降りた人たちが、駅前のバス停にあふれている。50人以上詰め込んだバス2台がケーブルカー下までのピストン運転をしている。6分間隔。私は列の中ほどにいたが、4台目に乗車できた。ケーブルカーにも列を作る。
ケーブル上は混雑している。空いている登山道の方へ向かうが、向こうから観光客風情の人たちがぶらりぶらりとやってくる人たちもいる。前を歩く人を右によけ左に躱し、ずいずいと歩く私より少し若い高齢者について行く。参道を外れたのか少し人気が少なくなる。
「どちらへ?」
「鋸を超えて奥多摩駅まで」
「そりゃ、きつい。私は大岳山往復です。古希を過ぎると力が落ちますね」
と話す。御岳山、大岳山を自分の山として何度も歩いているそうだ。しばらく歩くと、彼の人は「一休みしていきますから」と、ベンチに座る。私は先行するが、もちろん前を歩く人たちは絶えることがない。ひとつの稜線に上がったとき、おや、ルートを間違えているのだろうかと思ったので、「奥の院はどちらへ行くんでしょう」と休んでいた人たちに聞いたが、「さあ、はて」という顔をしている。「大岳山→」の表示に従っていくと、「鍋割山・奥の院→」と標識が出ている分岐がある。「なんだ、ここか」と思うが、「←大岳山」という表示と逆なのが気になる。大岳山へのルートは三つほどあった。こちらを回るルートもあるのかと思いつつ、鍋割山へすすむ。向こうからやってくる三人組がいる。「大岳山へ抜ける道はありますか」と訊くと、「逆ですよ、そっち」と私の来た方を指さす。「鍋割山を経て……」と重ねて尋ねると、「ああ、鍋割山はすぐそこ。その向こうは御岳だよ。私たち御岳から来たんですよ」というので、私が間違えていることに気づいた。混雑を避けて登山道へ向かったとき、すでに、奥の院や鍋割山を通るルートから外れていたのだ。とりあえず、鍋割山まで行ってから引き返す。
「ここから岩場」などと書かれたルートを「えっ? 岩場ってこれ?」とあまりの簡単さに驚く声をあげる若い山ガールの声を聴きながら、大岳山に着いた。鍋割山に迷い込んだのは25分ほどのロスだったが、到着はコースタイム。ま、いいペースだ。11時。富士山が見える。初夏のこの季節には珍しく、くっきりと見える。気温が低いせいだろう。山頂はどこもかしこも人が座り込んで、お昼にしている。私も石に腰掛けてお昼をとる。次々と登頂者がやってくる。外国人もいる。山頂の標識柱のところで富士山を背に写真を撮る。「ここよ、これ」と三角点に触って、ご満悦な人もいる。いや、こんなに山がにぎわっているとは思いもよらなかった。
早々にお昼をたたんで、鋸山へ向かう。急に人気がなくなる。ほとんどの方々は、大岳山頂から引き返すか、馬頭刈尾根を通って下るのであろう。この山は姿がすっきりと三角のかたちをしていて、日本二百名山にもなっている。1266mという高さも手ごろで、周辺から何本も登山路がある。だがこの先の鋸山は標高も少し低く、乗り越した先に岩場があり、その先の奥多摩までの傾斜が急だ。鋸山から御前山へまわると、さらに1時間行程が増える。
先行する若い二人がいいペースだ。高校生かと思ったが、話しぶりからすると大学の一年生だろうか、女性の方が段差の大きい下りでちょっと手古摺っている。だが、平地になると歩く速さは先頭を行く社会人らしい男性にきちんとついている。私もついていくのが楽に思え、せっつかないように少し距離を置いてついていく。40分ほど歩いたところで鋸山への登りになる。この二人が休んでいるので私が先行した。上から人がやってくる。聞くと、奥多摩駅から登ってきたという。私が今朝考えていたコースだ。この人たちは標高300mから登りはじめたから、標高差800mを上っている。私は830mでケーブルを降りているから、標高差400mくらいのもの、どっちがラクチンか考えなくても分かる。すれ違うのに、待たねばならない。待っているうちに、先ほど追いこした若い二人が追いついてくる。少し広いところで彼らに道を譲る。考えてみると、最近一人で歩いていて道を譲ったのは、いわゆるトレイルランナーを別にすると、思い出せないくらい前のように思う。
鋸山に着く。樹林の中の少し広い平地。たくさんの人数が倒木に腰掛けて休んでいる。先行した若い二人もお弁当を広げている。12時10分。大岳山から55分。そのまま私は先へすすむ。と、ピヨピヨと何かが音を立てる。私のスマホのGPSが音を立て始めた。そうか、御前山からのルートを読みこんだ地図に入れて置いたのに反応しているようだ。1分ごとになるのが煩わしい。と、「時刻と標高と下り/上り何百メートル(歩いた)」と10分ごとに私のペースを読み上げてくれる。独りで歩いていると、こんなことも面白く思える。「標高が1000mです」と私の胸のあたりで教える。ちょうど座って休んでいた(上り途中の二人組の)女性が「そうよ、千メートルですよ、ここは」と声をあげ「それ、スマホですか、何のアプリ?」と尋ねる。地図とGPSを組み合わせたアプリを教えると、嬉しそうにメモをしている。すれ違いが多くなった。またしばらく下ると、すれ違う時に「いや、この登りはきついですね」と30代の女性2人連れが笑う。笑うしかないという風情。
ところがこのくだりは、さほどきつく感じない。下りにはストックをつかわねばと用意してきたが、とうとう最後まで使わないままであった。降っている人たちも何組か追いこした。女性が多い。単独行は男性だけだが、高齢者があまりいない。中年より若い人たち。展望台のようなところで座り込んで、下界を眺めている人もいた。こんな時間から登ってどこまで行くのだろうと思う人もいたが、途中で引き返すのかもしれない。これほどににぎわっている山を見るのも、日曜日とか祭日ならではかもしれない。
奥多摩駅に着いたのは13時50分。すぐに青梅行があったが、これが座り切れないほどの乗客。青梅から東京行きの快速に接続して、乗り換えのわずらわしさが半減した。休日に出歩くことをほとんど自粛してきたが、アクセスなどを考えると悪くないと思えた。たまにはたくさんの知らな人たちの様子を見ておいた方がよい、と
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