2017年7月2日日曜日
フォルモサ――先住民の制圧戦
昨日(7/1)の東洋経済オンラインを見ていて、「フォルモサです」ということばに戸惑った。えっ、なんだっけ、聞き覚えはあるが……。手元の百科事典を引いた。こう書いてあった。
《アルゼンチン北部、フォルモサ州の州都。ブエノスアイレス北方950km、パラグアイ川沿岸に位置する。人口20万人余(2001年)。周辺地域のたばこ、サトウキビ、綿花、ゲブクチェ、タンニンなど農牧林業品の集散地で、先住民人口が多い。19世紀後半まで先住民制圧戦が展開され、その後積極的な入植政策が実施されたが、開発は遅れている。》
オンラインの記事はベトナムに関することである。「先住民制圧戦」ということか。そう、勝手に納得して読みすすめて驚いた。記事は、「まるで爆撃を受けたようだった」と書きだされている。ベトナム中北部ハティン省、ドンイェン村。崩れかけた家を向こうに配し瓦礫が堆積した地面に立ち尽くす人が一人いる写真。「戦争よりひどい。まだ人が住んでいるのに警官たちが家を壊しました。共産党の野郎がここを強奪して中国に売っ払ったのです。」とあって、冒頭の「フォルモサです。」へとつづく。でも、ベトナム共産党の施策を「先住民制圧戦」と呼ぶのはヘンだなとは思った。フォルモサ社、製鉄企業の名前だった。
1年少し前までちょっと沖合に出ればたくさんの魚が獲れたという。ところが昨年4月以降、魚が大量死して浜辺に打ち上げられるようになった。魚を食べて中毒を起こしたり、海に入って炎症を起こす人もいる。エビの養殖やニョクマム(魚醤)や塩の製造にも被害が及ぶ。それが、ハティン省から南へ200km以上の広範囲に広がっている、と。水俣の有明海をうんと広げたような海洋汚染である。
読みながら私は、もう一つ読み違えをしていた。「中国に売っ払った」。うんうん、中国ならそういうこともありうるなあ。なにしろ、目下、香港を制圧しようとしている、あれも、先住民制圧戦だよな、と。でもおかしいぞ、ベトナムと中国がそういう関係にあるのか? とも。違った。台湾の企業であった。考えてみれば、中国だろうと台湾だろうと企業というものがすることにさしたる違いはない。経済はそれほどにグローバル化し、企業の振る舞いも、国外においてはまるで振る舞い方が違う。国内では生産が禁止されているものも、国外では主力商品として売っていたりするのだ。
この記事もじつは、日本とロシアが連携してベトナムに売り込んでいた「原子力発電」が中止になったと、ベトナム政権内部の政変が関係しているのではと推察し、「変動するベトナム」を浮かび上がらせようとするものだ。だが私の内部で浮かび上がったのは、フクシマをものともせず、海外に売り込みを図る日本の原発産業の、面の皮の厚さ。これは、フォルモサと変わらない。記事の「原発中止=ベトナムの心変わり」を残念がる響きが漂うから、私の感懐とは逆を向いているが、そうだよな、企業ってそういうものだよな、と思わないではいられない。
「フォルモサだよ」といった現地の人が百科事典にあった「先住民制圧戦」を知っていたかどうかはわからないが、もしそれを知ったら、固有企業名名詞としてではなく、世界的に蔓延る企業の一般名詞としてフォルモサをつかうようになっただろう。それほどに、痛いニュースである。
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