2017年10月24日火曜日

登山道の修復にまで手が回らない


 今朝早くから、いそいそと七ガ岳(ななつがたけ)に行ってきた。福島県会津市と栃木県日光市が境を接するところから、会津側にちょっと入り込んだところにある。尾瀬の入口、桧枝岐の北である。日光、那須、尾瀬というよく知られた山に接していて、あまり知られていない。だが、1500mを越える標高をもち、荒海山は太平洋側と日本海側の分水嶺になったりもしている。文字通り奥ゆかしい山々である。


 空には雲がかかっているが、遠方の男体山や女峰山など、奥日光の山々は、高速道路上からしっかり見える。11月上旬の気温というから、山歩きにはうってつけ。那須塩原ICで降りて塩原を抜け日光・会津街道に入る。雨でも降ったのだろうか、路面が濡れているところがある。乾いているところもあるから、どこか山から水が沁みだしてきているのであろう。と、道路の上を薄く滔々と水が流れて、側溝に流れ落ちている。

 会津西街道と別れて七ガ岳の羽塩登山口への林道に踏み込む「七森橋」を渡ろうとして、ビニールで覆った掲示が目にとまった。
「大雨のため土砂崩れ。七ガ岳登山禁止」
 新しい掲示ではない。文字も色あせ、ビニールも剥がれかけている。誰が、いつ、という表示もない。むろん林道は通行止めではない。落石がないか注意しながら、山へと走らせる。廃屋のような人家もある。田圃か畑にしていたであろう雑草の生えた休耕田もある。路面には落ち葉が濡れていくつもの塊をつくり、小さい木の枝が緑の葉をつけたままそちこちに落ちている。石だけは車のパンクにつながる。すすむと、道路に水があふれだし、浅い川のように流れている。落ち葉の塊が水を堰き止め、流れを変え、太い木の枝が流れを大きくはねあげて奔流のように見せているところもあった。道は悪くない。

 3kmほど入った「廃屋 喜三郎小屋」のところに「工事中」「土砂崩れのため通行禁止」と書いた立て看板が何本か立てられ、道路に張り綱をして「全面通行止め」と書いた掲示をつるしている。ここに車を置く。予定していた駐車場のある「章吾橋」の2kmほど手前か。9時に歩きはじめる。蛇行する林道が曲がる処に、別に直登してショートカットする登山道が地理院地図には掲載されている。その入口のところにも「通行禁止」の看板があり、何よりその所から、水が奔流となって林道へ噴き出している。土砂崩れというのは、登山道のことかもしれない。でも、いけるところまで行って、土砂崩れの現場を見てくるくらいのことはしなくちゃと、歩を進める。もうこの段階で、私の山の会の下見という見方は、ほぼ捨てている。こんな「登山禁止」と表示しているところに連れて行ってもし事故でもあったら、目も当てられない。だが私は折角来たのだから、なるほどここが行き止まりの現場か、ということくらいは現認して来ようと、考えはじめている。

 細い川のように水が流れ下る登山道(らしきところ)は、中くらいの大きさの石がごろごろとして、それを伝いながら歩けば、水に浸かることはない。落ち葉が積もって堰のようになっているところを踏むと、ずぶずぶと水の中に脚をつけたようになる。それに注意して、ストックでバランスを取りながら登ると、案外悪くないルートだと思う。笹が大きくなりすぎて藪を漕ぐようになっているところもある。いつから「登山禁止」か知らないが、人が入っていないのか。沢の奔流が傍らにあるのか、左の方に流れの音が響く。そちらの方の水流は、こちらとは比べ物にならないくらい大量のようだ。

 章吾橋の手前で舗装林道と合流する。章吾橋から林道をわかれ登山道に入る。「土砂崩れのため、登山禁止」とあり、「南会津町」と掲示責任を記している。その脇の木に掛けられた「←七ガ岳」の指導票の方が、新しく、はっきりと主張しているように見える。眼をあげると、起ちあがる山体を覆う木々の紅葉が、折からの朝日に映えて黄色に輝く。ブナもある。シラカバが林をつくっている。トチノキやカツラの木もある。赤いカエデやナナカマドが少ないが、これらは一点豪華的に、黄色い黄葉の中に紅い色づきを見せて、美しい。

 林の中を蛇行するように、石と土を敷き詰めた登山道(らしきもの)がある。水がたまり、あるいは流れているが、これは台風のせいで流れをつくっているだけであろう。章吾橋が渡る本流は程窪沢というらしいが、ここの水量は、一昨日までの台風の影響であろうか、すこぶる多い。登山道はササに踏み込み、あるいは踏み跡が薄くなる。倒木が道を塞ぐ。程窪沢が河原を広げ、あるいは深く、狭くなって水流が激しく多くなる沢に臨む石を伝う。倒木に行く手を塞がれ行き止まりで斜面を登る。崩れる斜面で気がつくのだが、土砂崩れというのは、この辺りのことを言うのか。何本もの巨木が根こそぎ倒れ、大雨に流されて沢を塞ぐように横たわる。

 向こう岸に渡らなければならないが、水量が多く(たぶん)ふだん踏む飛び石が水没している。川幅が狭く、大きな踏み石が適当に位置しているところを探すが、見つからない。何度か行き来して探したのちに、肚を決めて渡る。ストックを使わないと、渡れなかった。さらにそこから、倒木を回り込み、低いところを越え、また沢に降りて、向こう岸にわたり、上部へと詰める。やっと、平滑沢の取り付きに出る。両側から大きく山体が寄せてくる平滑沢の末端には、大量の長さ10mほどの灌木が行く手を阻む。灌木は流れ下る水をもそこで堰き止めるように壺をつくっている。こんなはずではなかった。来る前に読んだガイドブックでは、こう記されている。

《平滑沢は幅こそ数メートルだが、美しいな目が数百メートルにわたってつづいている。水深も浅く、フリクションも利くので、防水性のある靴なら、水流のなかを快適に歩ける》

 七ガ岳を(面白そう)と思ったのはこの記述だ。だが、その数メートルの沢に入り込むのに、迫る斜面をトラバースするわけにはいかない。そんなに緩い斜面ではない。結局壺に溜まる水の中に脚を入れて、「渡渉」するしかない。だが靴に水を入れて歩く用意はない。その上の平滑沢の水量も、「水深も浅く」という状況ではない。そう考えて、ここで今日のアプローチを終わりにした。ここが「土砂崩れ、登山禁止」地点だと判断したわけだ。

 下山のとき、陽ざしの向きによるのであろう、黄葉がいっそう鮮やかにみえる。章吾橋からは林道を降る。この林道は、車が来ても不都合はない。だが(たぶん)「道路工事中」の邪魔になると判断したのであろう。でも、いつから?

 じつはその辺を聴いてみたくて、帰りに「会津高原尾瀬口駅」まで足を伸ばした。駅舎の案内をしていたのは20歳代後半の若い女性。「登山禁止」は、2年前、9月の大雨の時に登山道も崩れた土砂で危険になって、採られた処置だという。そのまんま? と迂闊なことを聞いてしまった。彼女は、「道路の修復もありますし、福島はそれどころじゃないものですから」と申し訳なさそうに応えて、私は私で、そうか福島だったんだここは、と尋ねたことを反省していたのでした。

 荒海山も「登山禁止」。当分手を付けられないから、登山禁止解除は、出ないでしょうという。いや悪かった。福島県を私の趣味に付き合わせようなんて、お前何様だと思ってんだと、自戒しながら帰宅したのではありました。

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