2018年3月16日金曜日
香港(3)山間の農村を歩く
前夜買い置いた軽食をホテルで摂り、7時10分に出発。地下鉄で荃灣站(Tsuen Wan Station)へ向かう。この駅は香港全体で言うと中央部の西端に位置する地下鉄路線のターミナル。降り立って驚いた。超高層建築街の真ん中にある二階デッキ。そこから下の道路をまたいでそちらこちらのビルにつながる連絡通路が通っている。8時ころとあって、通勤客でごった返している。改札を出て、香港の探鳥ガイドたちと待ち合わせる間、トイレを探した。口頭で説明を聞いたが、わからない。香港の探鳥家の一人が案内してくれる。百メートルほど離れたビルの一階上のドアを開けて入っていくと、トイレマークがあった。その前には「讃岐うどん」の看板を掲げた丸亀製麺のチェーンストアがある。日本では丸亀製麺は「讃岐うどん」の表示をしてはならないとされているが、ま、ここまでくれば文句を言う人はあるまいとタカをくくっているのかと、思う。トイレはすこぶるきれい。TOTOの製品を使っている。
Yさん作成の「行程表」では駅を降りて、「Exit A(進行方向前方)flyoverを歩いて 51番のバスに乗車」と、たとえ迷子になってもたどり着けるように、丁寧に説明がついている。今日はここからバスに乗って、香港の最高峰・大帽山の北麓にある「雷公田」へ行く。バスで約1時間とあったが、20分ほどで標高400メートルの峠を越え、北麓へと降って、40分ほどで雷公田についた。Yさんな話だと、昔はこの峠越えの道しかなかったそうだ。今は山のなかを掘りぬいてトンネルを通しているから、極めて短時間で往来ができるようになっているという。香港在住の日本人で、香港観鳥会のガイドの資格を持っているKさんも来てくれて、今日の探鳥ガイドをしてくれた。
降り立つったところの、道路を隔てた向こう側には軍用施設があり、銃を持った歩哨が立って、私たちを見ている。皆さんスコープなどを出して用意をする。その間にも、葉の落ちた樹上に鳥を見つけ、覗き込む。頭部は黒っぽく胸から腹にかけて見事に赤い色を陽ざしにさらしている。ヒイロサンショウクイだ、とYさんがいう。別の鳥が来てとまる。コイカルが来た! と誰かが声を上げる。こういして今日の探鳥がはじまった。舗装された「私道」と表示されたところへずんずんと踏み込む。川を渡るところにアカガシラサギが水面をにらんでじっと立ちすくんでいる。オニカッコウの声が響く。コウラウンやシロガシラが飛び交う。雷公田というのは山間に開けた平地のように見える。豊かな樹林が道路沿いに連なり、ポツンポツンと民家らしきものが見える。水量のある川が流れていて、それに沿って歩道道路が先へ伸びている。わりと頻繁に車が通る。ときどき乗用車ではなく、トラックなどが通るが、車幅が広くて、道路を歩ている私たちは、道端の茂みに身を寄せてよけなければならない。これらの車は、どこから来てどこへ向かうのだろう。
背の高い木が多い。その樹冠に大きく真っ赤な花をたくさんつけているところに、何やら鳥がやってきては飛び去って行く。シキチョウだとかハウチワドリだとかクビワムクドリだとかいっているが、私はもう、一つひとつの区別はどうでもよくなった。バカの壁だろうか。鳥の名前よりも、どこがどう違うのか、いろいろな形と色合いと飛び交い方をしながら、より集い、ときには(たぶん)競い合いながら生きている鳥たちがいるというだけで、気持ちがほぐされていくような感触に浸る。そういう探鳥家たちと自分がここにいることを、不思議な気分で感じているようであった。
途中から道路に沿った川の上に大きな板を張り敷いて、暗渠にしている。道路を隔てるガードはあるから、拡幅工事ではない。でも何にするのだろうか。その脇の大木の花に、尾の長い黒っぽい鳥がいる。ハイイロオウチュウだと教えてくれる。明るい空を背景にしてシルエットばかりが際立つが、ときどき、陽を受けて地色が見える。と、それとは違う尾羽をした似た鳥がいる。聞くと、カンムリオウチュウだという。しかし頭はハイイロオウチュウと同じように見え、冠はみえない。と、Yさんが「よく見てください。あたまにサザエさんのお父さん、そう波平さんのような髪の毛があるでしょう?」という。みてみるがわからない。スコープに入っているから見てごらんと言われて観ると、たしかに頭に何本かの飾り毛がスーッと伸びている。私のカメラに収めてそれを拡大してみると、かすかに見える。英名をHair-crested DRONGOという。それをカンムリと日本名をつけた人が表現したらしい。でもcrestedを羽根飾りからカンムリに飛躍させたのは、ちょっとやり過ぎではないかと声が出ていた。
陽ざしは暑いほど。朝方来ていたウィンドブレーカーも脱いで、ほとんど長袖シャツ一枚で汗をかくほどだ。バス停に戻り、ふたたびバスに乗ってさらに東の方へ下っていく。石崗近くのバス停脇の中華料理店でお昼を食べる。「ローストダックを食べる」とYさんの案内にはあった。その肉がつるされている。そして私たちが席についていると、その一つが吊りカギから外され、焼き色のついた切り身になって出されてきた。中央の丸いテーブルに料理を盛りつけた皿が次々と出され、自分の皿に取り分けてたべる。あとで、何皿出たの? と聞かれて、はていくつだったろうかと考えてしまった。
昼食後、石崗の川沿いを探鳥して回る。民家が立ち並び、わりと人々の寄り集まって暮らしている地域のようだ。川沿いには木々が立ち並ぶが、その向こうには田圃か畑らしきものがあり、ただの耕作放棄地のような草の生えた土地があり、そのところどころにモズやシジュカラやクビワムクドリがいて、オニカッコウの声が響く。振り返ると、香港の最高峰・大帽山(タイモーシャン)とそれに連なる山並みが西の方に壁をつくっている。スコープを除いていた一人が「山頂付近に人がいる」というので、のぞかせてもらった。たしかに数名の人が山頂を少し下ったところの肩にいて、何かしている様子がうかがえる。
再びバス停に戻り、今度はバスに乗ってどこか鉄道駅の近くまで行く。30分ほど乗って超高層ビルの林立するところをぬけ、茘枝角(ライチコク)駅でバスを降り、電車に乗り換えて宿のある駅に戻ってきた。鳥合わせをし、軽くシャワーを浴びるとすぐに夕食に繰り出す。電車に乗って東の海岸に行き、海鮮料理を食べようというのだ。昔Yさんが香港で仕事をしていたころ片腕として働いてくれていたIさんという方が、案内をしてくれる。広大な港がヨットハーバーになっている。ガラスのケースに入れられた魚や貝やイカなどを指定すると、それを焼いたり煮たりしてくれる。でもよくわからないから、みんなIさんにお任せにして、私たちはビールを飲み、紹興酒を温めてもらって頂戴して、いい気分で宿へ戻ったのでした。
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