2018年3月27日火曜日

人間とは何か?


 今月の「ささらほうさら」の月例会(3/15)は、4人もの人が欠席。骨を折ったり親族の葬儀があったりと、この年になれば思わぬことが出来する。ま、仕方がないよねと済ませればいいが、今回の欠席者のなかに「講師」が含まれていた。前々日になって急遽、「何かやってよ」と依頼が来た。さて何にしようと、溜めおいた「資料」を浚うが、いまひとつピンとこない。ならば今私自身が考えつつある「もんだい」を皆さんに考えてもらおうと提示したテーマが「人間とは何か?」であった。


 これまでも何度か「人間とは何か?」と考えたことはあった。だがそれは、ほとんど「動物」との対比であった。「ヒトとして生まれ人間に育つ」という教育の目的を語るときとか、「人間中心主義/ヒューマニズム」のエゴセントリックなモンダイをとりだしてきた。これは人間を特権化して考えると同時に、自然観の違いを浮き彫りにしてきた。もっと先へ論題を延ばせば、欧米と日本との大きな違いを考えることにもなった。

 だが今回は違う。AIというデジタル装置の急進展によって2045年には世界の大転換(シンギュラリティ)が起こると予測されている。そのロボット工学の専門家が自分に似せたアンドロイドをつくり(今の段階で)8割方じぶんの(言説的な)代替ができるという状況を背景に「千年後の人間は無機物になるのではないか」と「予言」していることを発端としている。

 この専門家・石黒浩(大阪大学教授)は「人間は動物+技術でしょ。いきなりアンドロイドになるというよりも、苦難からの解放と永遠の生命を図る考えかたが、AIの進展によって身体のさまざまな部品を代替できるようになり、千年も経てば有機物から無機物へと変貌を遂げるのではないか」と「予言」して、「あなたはどう考えますか」と(ロボット工学に関心を持つ)学生さんに問いかけている。学生さんたちは(何か変だ)とは思うものの、石黒教授の「人間は動物+技術でしょ」という前提に違和感を感じつつも、有機物である人間が、千年後とは言え無機物になるというのは「解せない」と思っているようであった。

 石黒教授の前提をどう受け止めたらいいのか。動物と人間の違いを石黒は「+技術」に置く。つまり、「+技術」という点において、人間は動物と別れ、能力の延長としての飛翔を遂げ、アンドロイド化への道をひた走っているという見立てだ。千年後という時間設定の立論は、途中で舵取りの方向が変わるかもしれないという可能性を含むから、なかなか面白い問題提起だと言える。私はすでにこのブログの先月のそちこちでこの問題には答えて、「有機物でいたい」と記している。だが、それは有機物と無機物という対比のモンダイではなく、ある種の自然観を前提にした「人間概念」の洗い直しを求めているように見える。

 「人間概念の洗い直し」とは、どういうことか。

 「ヒトとして生まれ人間になる」というのは、動物として誕生し、教育を受け文化を身につけることによって人間になるという、予後の教育の必要性を説く言説の出発点におかれた概念である。だがこれは、動物=生来的に(生き方が)本能に書き込まれていることを指している。ところが人間も、言葉を用いて集団的に生活圏を築き、大自然の資源を争って取り合いながら暮らしを立てているという意味では、動物と変わらない。その延長上に、思いもよらぬ自然の改変が可能になり、それ(自らのつくりだしたAIという無機物)によって脅かされはじめるところに至った。そういうことではないか。

 石黒教授のいうように、有機物と無機物という対比をすれば、千年後に「永遠の生命を手に入れて」無機物となることは、有機的生命体としての人類の絶滅である。でも、無機物になっても、人智の究極的な創造物としてそれに希望を託すと考えれば、人類史の弁証法的発展ととらえることもできる。思わぬ有機的人類史の最期を迎えるわけだが、未来ヘーゲルはこれを、昇華した絶対精神の実現と言祝ぐかもしれない。

 面白い。そうした次元を変えた「人間論」ができるようになるとは、思いもよらなかった。しかも、眼前の有機物である樹木がまだ生きている間にそうした世界が出来するなんて、神もなかなか味なことをやるものだ。人類は滅び、有機的生命体としての動物たちは生きのびる。新しい無機物人類は、資源を求めて火星や木星にフロンティア開拓を始める。地球はまるごと動物園になり、無機物人類は「何が面白いんかね」と言いながら、博物館としての地球を宇宙歴史遺産として保存するという時代がやってくるかもしれない。その中に一カ所「有機的生命体・旧人類」という区画が設けられているかもしれないが、そこで「人間」になる教育なんて行われているのだろうか。猿の惑星以上に、動物化した人類が生息するように仕向けられているかもしれないね、「新人類」によって。

0 件のコメント:

コメントを投稿