2018年3月23日金曜日
香港(7)吉野家の牛丼にホッとする
第七日目(3/12)、いつもの食堂で軽い朝食。今日は最終日なのでYさんが皆さんから預かったお金の清算をして、一人当たり何ドルかの返金があった。今日の支払いは銘々でやってくださいといわれて、45ドルくらいの支払いをしたからよく覚えている。でも、暖かい牛乳とトーストを食べたなとおもったところで、あれっ? それじゃあ四日目の朝と同じものを食べたのかな(そんなはずはない)と考えて、何を食べたかに、自信がなくなってしまった。人の記憶って、こんなにももろいものなのか。
油馬地の駅から地下鉄に乗って二駅のチムサチュイ(尖沙咀)で降りると出口のすぐ脇に公園の入り口があった。緩やかに登る丘陵地帯を利用して、大きな公園がしつらえられている。九竜公園。ゆったりした緑の多い敷地のそちこちに広場が設けられ、何人もの人たちが集まって太極拳をしている。鳥の声がにぎやかに響く。倒木の上にゴイサギがいる。じっと池の中を覗き込んでいるのは、ねらい目の餌があるのか。奥にはたくさんのフラミンゴが屯している。羽を広げているのもいれば、水のなかに首を突っ込んで何かを啄ばんでいるのもいる。回り込んでいると大きな茶色の鳥が頭上の木にとまった。オオバンケンだ。フラミンゴの餌の時間になると、それのおこぼれを頂戴しに来るとYさんは言う。よく知っていると感心する。黒い腹と頭、茶色の羽、長い尾に赤い目、鋭くかぎ型になっている嘴は猛禽のようだ。芝地に飛んできたのはサンジャク。しばらく周りを飛び交い、十分ゆっくりと姿を見せてくれた。オニカッコウの声が響く。二羽が木の枝の上で戯れているようだ。その下の広場では、剣を持った一群が、太極拳をやっている。集団の一番端っこにいる人が指導者のようだ。なにしろ彼の動きは他の人たちと違ってスキがない。観ているだけで見事と声をかけたくなる安定と切れの良さを感じる。年のころは私と同じくらいだろうか。あの緩やかでしなやかな身のこなしに、あれだけの安定感を備えるのは、なかなかのものだ。
腰の高さに灌木を切りそろえて迷路のように通路を備えているのは、いかにもイギリス庭園という感じ。そこでも腰から上だけが見えるが、一人で太極拳とは違ったなにやら体操をしている50歳近い女性がいる。少し離れたところにいる若い女の子が、そちらへ向かって走るように行っては元に戻ってポーズをとる。何をしているんだろう。みていて気づいて笑ってしまった。若い女の子は、灌木の上に乗せたカメラの自動シャッターを押して、駆け戻って自撮りしていたのだ。散歩する人、ベンチに腰かけてぼんやりしている人、ジョギングをする人。今日は月曜日なのに、人は銘々に公園でくつろいでいる。
木立の上を小さい鳥が飛び回る。メジロがいる。シジュウカラもいる。サイホウチョウがいる。シキチョウもいる。コウラウンやシロガシラ、ハッカチョウ、クビワムクドリもいる。カオグロガビチョウが姿を見せる。前日までに見かけた鳥が、周りの超高層ビルに囲まれた大都会の真ん中の公園ににぎやかに居ついているのは、何か不思議な感じがする。ひょっとするとこれは、ダーウィンを生んだイギリスというネイションシップの自然とのかかわりかたがもたらした景観なのだろうか。自然そのものにべったりと寄り添って、そのなかで暮らしてきた日本の私たちとは、自然との向き合い方が違っていたのかもしれない。その結果、日本の鳥は大都会の公園ではあまり見かけなくなったというのは、ちょっとした皮肉と言わねばならない。
こうして11時ころまで過ごし、地下鉄で油馬地駅に戻って、オクトパスの清算をする。駅の一角に窓口があり、オクトパスを提示すると、これまで7日間に使った料金が表示される。それを差し引いて保証金を加えた101ドル何某が返却される。なんと、7日間で使ったのは49ドル足らずであった。75円弱。高齢者割引があるとはいえ、公共交通機関がこれほどに安いというのは、何とありがたいことか。日頃の日本では、探鳥にせよ、山歩きにせよ、もっぱら交通機関と道路公団への支払いばかり。
宿の近くの「吉野家」に入って牛丼を食べた。卵をかけたのが45ドル。675円ほど。日本式の注文即支払い即料理が出てきて、自分でテーブルにもっていって食べる。味が日本と同じかどうかはわからないが、なんとなく、ホッとした気持ちで食べたのは印象深い。
ホテルに戻り荷物をまとめ、予約していたタクシーに乗って空港に向かう。1時半ころについて荷物のチェックイン。でもずいぶん香港ドルが余った。お土産を買うかもと思っていたのだが、土産を買う暇がないほど、鳥を観て飛び回ったから、使わなかった。空港の土産物店をのぞくがこれといった品物がない。とうとうマオタイ酒の上等なのを一本買って、ザックに入れた。そうそう、飛行機は来るときは5時間かかったのに、帰りは3時間半。時差が一時間だから風のお蔭で30分ばかり帰りが早くつく。帰り着いて気付いたのだが、往きは成田であったのに、帰りは羽田に着いた。いやはや羽田がどれほど便利か実感したJALの旅でもあった。(香港-終わり)
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