録画していた《見えた 何が 永遠が 〜立花隆 最後の旅 完全版〜》(NHKBS、2023/1/3)を観た。「知の巨人」と持ち上げられているらしいが、なぜそう呼ばれるのかは知らない。田中角栄の金脈政治を告発したジャーナリストという程度だった。カミサンが見始め、私はパソコンの前に座ってみるともなく目にしていたが、立花隆の「享年80歳」というのを耳にして、何だ(今の)私と同じじゃないかと思い、座をソファに移して最後まで観た次第。彼が二つ年上であった。
彼の探究心はヒトのクセの発露と思う。書籍と歩いて得た取材記録・インタビューで、足の踏み場もないほどの「資料」の山に囲まれた彼の仕事部屋をみると、「巨人」かどうかはわからないが、なるほどこれを「知」と呼ぶのか、好奇心の分量としてはすごいと思った。と同時に(おおよそ比較しようというレベルではないが)、渉猟した本の領域は似ているけれども咀嚼の仕方が違うと感じた。ただ番組は、その取材者や編集者・ディレクターの身体回路を経過しているから、そのまま立花隆のものと言えないかもしれない。
渉猟した本の領域というのは、宇宙や生命の淵源にかかわる自然科学や進化生物学から社会関係論への「かかわり」を含む領野を視野に入れているということ。もう一度繰り返すが、その分量に於いておおよそ比ではないから,比べているのではない。それを生業とした立花隆が自らに課した制約は、むろん門前の小僧ではない。まさしくその専門領域の境内にまで踏み込んで、しかもその領域の「知」が保とうとしている客観性とか中立性とか公平性を、「普遍性」という言葉に寄せて具現しようとしているのである。そこに領域的に分業分断分節した「知」である専門家と、その領域にきわどく線引きされる限界に構うことなく自らの身体性に組み込んでまるごと咀嚼しようとする生活者・庶民が突破する(流言蜚語的)大雑把さの、敢えて言えば、確執をワタシは感じている。
その世界の読み取り方が、なるほど彼はジャーナリストだと思った。自分の身体性経由させた形跡を見事に行間に隠してしまう。そもそもそのモンダイに接触したときの内発的な衝動を伏せて、その探求がどう科学的に,人類史的に意味を持つかを、普遍的に問うている(とディレクターが受け止めている)。その矜持は、(庶民からみると)襟を正すに相応しい厳しさを感じさせる。どれと共に、どうしてそこまで「普遍性」を特異的に屹立させたいのかわからないなあと思わせる。
ただ立花隆が講演をしているときも、取材相手を言葉を交わしているときにも、湧き起こる内心の感情に言葉を詰まらせ、しばし気持ちの平静を取り戻す時間をおいて、話を続ける姿を見ていると、ああ、彼も「我がこととして述べるようにすれば、もっと違った陳述になったであろうに」と思わないではいられなかった。どちらがいいというモンダイを述べているのではない。普遍的であろうとすることがもつ(ジャーナリストや科学者の)クセの制約というか、抑圧性をワタシ(庶民)は気に掛けないようにしていると思ったのだ。ここに、言うまでもないが、庶民の危うさも組み込まれている。
立花隆の辿り着いた地点に「見えた、何が、永遠が」とフレーズを置いたディレクターは、宇宙からすると一人の人間はゴミみたいなものと(立花が受け止めた)とみている。これもワタシの感懐と似たようなものだ。ただワタシは、ゴミどころか、黴菌とかウイルスにも当たらないケチな存在とみている。だがそれを、「永遠」と呼ぶのが,まだしっくりこない。
ニーチェのような「永劫回帰」という意味合いを込めているのか。ケチな存在からすると大宇宙はほぼ永遠に等しいという意味合いなのか。まさかね。だって138億年前のデキゴトと(ケチな存在が)限定しているんだもの、それを「永遠」というのは、自家撞着ってもんだ。
では「永遠」って何だ。(ケチであろうとなかろうと)ヒトの好奇心からすると、「混沌」が「永遠」なのではないか。一直線上に「発展する」とみると、「永遠」というのはとどまるところを知らない先になる。だが、「わかった」先に「わからない世界」が恒に起ち上がるとなる「混沌」は、「永遠」と名付けるに相応しい。立花隆の「知的旅」の果てに、そのディレクターは、その「混沌」を感じたのであろうか。もしそうだとすると、ワタシはうれしくなる。
でも、そうだとすると、科学的専門家とジャーナリストとは違うし、彼らと庶民ともまた違う。好奇心の発露はどの世界の方々も似たようなもの。とすると、その佇まいの仕方の違いの差異から、生み出される違いなのだろうか。
門前の小僧である庶民、境内に座を占めているジャーナリスト、境内の奥に置かれた本堂や講堂、舎利殿や金堂、五重塔などに坐します専門家という想定をして、そのヒトたちの佇まいと関わり具合とが、今、どのように位置しているのか。
そうしたことをケチな存在としてもみておきたいと思った。
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