東京ドームへ「巨人-広島戦」を観に行った。雨の中、三々五々というより駅出口から列をなして押し寄せる。まだ試合開始の1時間前。知り合いから観戦チケットをもらった。カミサンは生憎、軽井沢の探鳥会の予定と重なった。探鳥地が雨になれば東京ドーム、と様子を窺っていたようだが曇りと分かって、私が友人と行くことになった。
西武ドームの西武―阪神戦を観にいったのは、いつであったか。交流戦だから6月になっていたと思うが、西武ドームの屋根と壁の広い隙間から吹き込む風が冷たく感じられた。三塁側阪神ベンチの上の辺りにあった席で、ファール玉が飛び込んできやしないかと気をもみながら観戦した覚えがある。その時は明らかに試合を見に行っていた。
ところが東京ドームは、試合の勝敗は二の次、ここに身を置いていることが面白いという雰囲気。まさしくショータイムであった。これは、何が違っていたのだろうか。
試合は延長12回にもつれ込み、試合開始の14時から19時頃まで5時間以上をすごして飽きもせず、面白かったねえと話ながら地下鉄に乗って帰宅したのであった。巨人の逆転サヨナラホームランで終わったから巨人ファンは大喜びであったが、私は面白い試合を観たと思っていた。相棒は広島の出身。チケットの席は巨人ファンサイド。
チケットには「ロイヤルウィング・バルコニー席」とあった。相棒が事前に調べた所ではと話してくれたことだが、年間契約になっているロイヤルの中央部席は300万円、一塁ベース辺りまでと、内外野を分けるポール辺りまでと230万円、170万円とランクがあるらしい。巨人のホーム戦は年間65試合だから2席セットのその料金は46000円ほど。貰ったというが、外野寄りのバルコニー席だって1席13000円ほどだよと驚く。ワンドリンク付きのビールが一杯では終わらなかったのは、貰った席料が無料ってこともあったかもしれない。
バルコニー席からは球場全体が見渡せる。55000人定員のドームの特定箇所の席を除いて概ね埋まっている。声援も鳴り物も制限解除になったから応援はラッパも含めて賑やかである。それ以上に、外野席の上を覆うディスプレイとその音量は、音というよりも響きである。ずんずんと躰に伝わって身の奥底から会館が引き出されてくる。何日か前に観た映画館に感じた快適さが甦る。そうか、映画館も、あの画面、あの音量、あの響きがともなって感じられているのだ。野球も、同じ。全体が見渡せる高見から観ているのはベースボールゲームに違いないが、それにまつわる声援、選手の一投一打、捕球と送球、走塁とアウトセーフの判定など、進行する一挙手一投足に5万近い観衆のあげる溜息や応援、ときに一瞬の静謐。これらの間を埋めるように、ディスプレイ画面が移り変わり、繰り返され、大声のジャイアンツ応援のメッセージが流される。
西武ドームで何年か前に観戦したのは、間違いなく野球の試合であった。派手な解説もなかった。だが東京ドームは、野球ゲームを観ている人たちが参加するショータイムとして構成されたエンタテインメントである。そう思うようなつくりであった。
観ていて、私自身の野球を見る目が変わってきたのかと思うような気もした。どちらが勝つか負けるかはどうでも良い。選手のプレイの動き、身のこなし。優れた体幹の俊敏な動きが球を捕り傾く躰のままに送球してアウトを取る。見事なファインプレイ。かと思うと、駆け込んだ一塁がセーフとなったのに対するビデオ判定の要請。その瞬間の内野手のベースタッチと打者の駆け込みのどちらの足が早くベースに着いたか。繰り返されるビデも画像。ほんの一瞬早く野手の足が着いている。塁審のセーフの判定が覆る主審の手が上がる。途端に湧くわーっという声援。ゲームの進行にかかわるきわどい動きばかりではない。イニングの変わり目毎に位置に着く野手が、キャッチボールを何度か繰り返す。それが攻撃イニングに動かなかった躰を緩やかに動きモードに変えていく、身体技法のようにみえてきた。
これらも、ご贔屓チームかそうでないかと敵味方分類をしてみていた野球ゲームを、明らかに人の身のこなしとしてどれほどの水準に達しているかを観て愉しむというレベルになっていると、後で思った。これは、近頃の大リーグ中継TVの大谷効果とでもいおうか。解説の仕方が、ゲームの勝敗はそっちのけにして大谷の振る舞いや選手としての身のこなし・技法に関心を向けていることに影響されているのかもしれない。
地下鉄で帰る途中、乗り継ぎのホームに広島ファンのシャツを着た5歳くらいの男の子と8歳くらいの姉を連れたお父さんがいた。「残念でしたね」と挨拶をすると「いい試合でした」と返ってくる。男の子が広島の一番バッター菊池の赤シャツを着ている。「菊池のファンなんだ」と声をかける。「打てなかった」とチャンスにヒットが出なかったことを口にする。「でも2安打もしたじゃないか。よく打ったよ」と慰めて別れた。この子たちの目も、変わってくるのだろうか。
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