2018年9月13日木曜日
里山を徘徊する
昨日は、山の会の「日和見山歩」。「比企の低山を歩く(2)」と題する軽登山というか、ハイキングの日。ここしばらく、家庭の都合や身体的な事情で山歩きに参加できなかった方々が集まり、さながら半年ぶりの同窓会のよう。チーフリーダーはokdさん。前回の「比企野低山歩き(1)」で道を踏み迷って思わぬところに下山したこともあって、名誉挽回の{2}と称していた。奥武蔵の比企地方。1000mに満たない山が秩父地方の流れを引き継ぐように峰を連ね、「外秩父」と呼称する地域だが、「低山歩き」は、さらに低い、標高300m前後の散歩道とあって、しばらく休んでいた人たちもリハビリ・ハイキングと軽く構えて顔を出した。
これまでの暑さがウソのように収まって気温は低い。雲が張り出して雨になるかと心配されるほどの夜明けであった。でも晴れ間もときどき現れる一日、低山歩きにはありがたい天気であった。8時40分には東武竹沢駅を歩きはじめる。「まだ十分回復していない」と参加を見合わせたmrさんのことをふくめて、半年の無沙汰を埋め合わせる話に余念がない。「あれっ? 入口を通り過ぎちゃったかな」とokdさん。東登山道入口の標識を見落としたようなので、少し引き返す。と、後から来た車が止まり、「入り口はそちらだよ」とあたかも私たちの話を聞いていたかのように教えてくれる。地元の方のようだ。たしかに、しっかりした大きな標識がある。「こんなに大きくちゃあ、じゃあ、目に入らないね」と笑いながら山へ踏み込む。歩きはじめてから、まだ10分。
スギ林の下草が広がっている。手入れが行き届いた林は(光が入るので)こうなると、いつか聞いたことがある。ゆっくりと登る。何しろ出発点の東武竹沢駅の標高は約110mだから、金勝山264mまでの標高差は150mほど。山歩きというほどではない。ヤブランが咲いている。総状と植物学者は言うらしいが、伸びた茎の上から青紫の花のつぼみをつぎつぎと下へ付け、楚々としたたたずまい。ヤエヤマブキというのであろうか、ヤマブキ色の花だが、花びらが何枚も重なって賑やかだ。その脇に、シュウメイギク(秋明菊)らしい白い花が何輪か花をつけ、今日の涼しさと見合って秋の訪れを感じさせる。その間に挟まって紫の、タツナミソウのような形の唇状の花をつけているのは、何と言うのだろう。あとで聞くとハーブの仲間らしい。ネットで見ると一番似ているのは、バイカルスカルカップと名がつけられていたが、そんなものがこんな里山にあるのだろうか。
スギに混じって落葉広葉樹が明るい陽ざしを受けて緑の葉を茂らせている。階段状に板を敷き詰めて道はよく整備されている。「金勝山260M」という標識がある。えっ、あと260mなの? という驚きと、金勝山の標高244mを表示しているのかもしれないと、両方の思いがよぎる。正解は前者、すぐに金勝山244mに着いた。9時20分、出発してから40分しか経っていない。山頂はしかし、杉の木はなく、コナラやツツジ、カエデの木々が占めている。「ナイトウォーク」という看板が掛けられ、「フクロウの鳴きまね3回」と記され、「小川げんきプラザ→」の標識がある。夜の散策をするイベントが行われ、フクロウの鳴きまねをして縄張りを護るフクロウを呼び出そうとしているのであろうか。ほんの5分も歩かないうちに「裏金勝山243m」に着く。凸凹とした小ピークが並ぶ里山なのだ。「小川げんきプラザにいる鳥のなかま」と掲示板があり、30種ほどの鳥がイラストとともに描かれている。そうか、「小川げんきプラザの山」なのかと、改めて思う。つまり、この金勝山一帯を「小川げんきプラザ」が管理し、設計して小学生の林間学校につかったりしているのであろう。
プラネタリュームまで備えたセンターの大きな建物は、まるで廃屋のようにひっそりとしている。でも車が来て何かを運び込んでいるから、職員の方はいるのであろう。広いテラスにはテーブルや椅子が設えられている。子どもたちが弁当を囲むときに使うのだろう。舗装自動車道が通っている。道の脇に、鎖で取っ手がつけられた大小いくつかの石が置かれている。kwrさんが持ちあげる。いちばん大きい、クマと名づけられたのは100kgはあろうか。その次のシカは60kgくらいか。小さいのから持ち上げて、シカまではあがったが、クマは持ちあげられなかった。その先に「冒険の道」があるというので、そちらに踏み込む。岩はあるが、たいした上りでもない。と、その先に、4本ほどの長いロープをつけた滑り易そうな急斜面がある。そこを「冒険の道」と称しているようだ。kwrさんがロープをつかんで下る。みなさんが後に続く。なるほど、子どもたちは大喜びで遊びそうな場所だ。そういえば、上の方で子どもの声が聞こえる。時計を見ると10時になっている。
aihrさんが一輪咲いているヤマジノホトトギスを見つけた。センニンソウがにぎやかに白い花をつけて群れ咲いている。前を歩いていた誰かが「あっ、これっ」と声をあげて草叢を指さす。真っ赤な丸い傘をしたキノコが草の間から顔を出している。「タマゴタケだ」と誰かが言う。近づいて草を払うようにしてみると、茎を取り巻くようにはがれた白いスカートが巻き付いている。これがあるとタマゴタケ、これが無くて、傘の部分に斑点があるとワライタケという毒キノコ。先日の山で教わった。タマゴタケはおいしいというが、でも採ってきて食べようという気はしない。後で白いキノコもみつけた。秋がすぐそこに来ていると、思う。
「げんきプラザ」の正門がある。国道が走り、車がわりと頻繁に通っている。この国道を辿ると、目的の吉田家住宅には行けるが、ま、山の中を越えていきましょうと、ふたたび、里山の道へ踏み込む。標高差50mほどを上り、曲がりくねる道をすすむ。どちらへ向かっているのか、わからなくなる。「冒険の道だよ」と誰かが茶化す。okdさんがスマホのnaviをもつ私に(どちらに行くの?と)訊く。私はこの里山の全体図をまるで分っていない。naviをみると、どこにいるかは表示されているが、どの道がどこに通じているとは書き込まれていない。msさんは「行き先」を「吉田家住宅」にして表示すると、「11時38分に着く」と表示される。でも道が表示されるわけではないから、おおよその見当しかわからない。でも、線路を走る鉄道の音は響いてくるし、国道を走る車の音もすぐそばに聞こえる。okdさんは「申し訳ありません、またまた」と頭を下げる。「高齢者、里山で道に迷い、遭難ってか?」「トップニュースになるわよ」と冷やかす声も出る。おおよそ50分ほど里山の山道を堪能して、さまよい、南下山口に出た。八高線の線路を渡る。
栗がたわわに実をつけて、頭上に垂れ下がる。水路沿いに彼岸花が咲いている。柿が実をつけて赤くなっている。これも秋だと思う。吉田家住宅は、1721年に建てられた茅葺の古民家。国指定の文化財。二階建てになっているので上はお蚕部屋かと思ったが、違った。建築時には、まだお蚕さんを飼うことは行われていなかったという。放っておくと茅が湿気てカビが生えるから、囲炉裏を焚いて、風を通し、使ってやらなければならない、という。屋根も25年で葺き替えるが、全部をやると5000万円かかる。国や県から補助はあるが、足りるものではないと、落ち葉掃除をしていたオバさんの話。これから私たちが上る官の倉山が庭からみえる、ほら、ここへ来てみろと、立って指さす。ということは逆に、向こうからも見えるってことだ。
12時10分、天王池に着く。集落の農業用ため池のようだ。水連が花をつけ、大きな鯉が何尾も泳いでいる。東屋があり、ここでお昼。体力、筋力が衰えるのにどう備え、どう対処するか。いつもそんな話になる。kwrさんがすっかり体力を弱らせてリタイアした数年前から、ここまでに回復したことを教訓にして、力を持続の仕方を話す。低山歩きにもついていくのがやっとであった状態から、利尻岳に登り、甲斐駒が岳、仙丈岳を踏破し、立山連峰を縦走するほどになった。彼に言わせると、「引きこもってどんどん筋力が衰える負のスパイラルにはいるか、少しずつでも動きに動いて筋力をつけていくか。どっちかしかないんだから」と勢いがある。
30分のお昼をとり、12時40分に官の倉山に向けて出発。天王池の標高が160mほどだから、上る高低差は180m。再び、鬱蒼としたスギ林の中を歩く。両側からシダが道を覆い隠すように繁茂している。15分で官の倉峠、上からご夫婦が降りてくる。峠から左の道へ降りるという。kwrさんが「左の道があったかな?」と言っていたので気になって、帰宅してから調べた。(上から降りてきて)左に下ると山中で消えている山道になっている。「東武竹沢駅へ出るのはいやだ」と言っていたが、はて、どうしたろう。それとも地理院地図にはない里へ下るルートが(できた)のだろうか。
官の倉山の山頂には、祠が二つもあり、注連縄を掛けた登山ルートもあった。oktさんはお賽銭をあげている。小川町の街並みも一望でき、木々の間からは寄居町のホンダ工場が山間を占めて鎮座している。okdさんはなぜか「(ホンダ工場は)自然破壊だ」と憤っていたが、そんなことを言ったら、人が生きていること自体がとんでもない自然破壊。自然に溶け込んで暮らすのが一番というのであれば、今私たちが享受しているラクチンな近代生活はあれもこれも投げ捨てなければならないなあ。もし今棄てられないとしたら何だろう。トイレと風呂かな、と埒もないことに気持ちが飛んでいった。
東に見える、ほぼ同じ高さの石尊山に向かう。「あそこまで10分てあるよ、いけるかなあ」とぼやいていたokdさんも、到着して「10分で来てるよ」と、人の脚の達者なことに感心している。そこから下って北向不動に着く。お昼を済ませてから約1時間15分。標高で10メートルほど上に不動尊の祠があるが、誰も行かない。「oktさん言ったら?」と、信仰心のいちばん篤い彼に声をかけるが、彼は遠慮している。
広い車道に出た。トイレもある。あとは東武竹沢駅に向かうだけ。40分ほど里の道を経めぐり、鉄道線路に沿うように歩いて駅に着いた。13時40分。なんと里山歩きに6時間もかけた。いい山だったねえと、kwrさん。リハビリの方々も、「これで来月の日和見山歩には参加できる」と元気が出てきた。里山の徘徊も、なかなか味なところを見せてくれた。
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