2019年10月11日金曜日

奥深い山の入口、熊倉山


 台風が来る前の最後の晴天とあって、昨日(10/10)、秩父の熊倉山に足を延ばした。いや、話しは逆。じつはこの日をふくめて、kwrさんの立案で八ヶ岳を縦走する予定を組んでいた。ところが8月、9月のハードな山行が影響してkwrさんが調子を崩し、もう一度(山歩きの)初めから身体づくりをやり直していた。だから私は、会津駒ケ岳や鹿沼・岩山にも一人で行ったというわけだった。だから今回も、11月末の熊倉山の下見として、1人で行くことを考えていたのに、kwmさん・kwrさん夫妻がつきあってくれたというわけ。

 武州日野駅で待ち合わせた。このところ気温は秋らしくなり、長袖一枚ではどうかなと思わせるほどだったが、歩きはじめると、さして汗もかかず快適であった。舗装林道を45分ほど詰める。途中バイクで上から降りてきた地元作業員風のベストを着たお年寄りが「熊倉山に登るんかね。深いよ。気を付けて頑張ってな」と声をかけてくれた。年寄りが3人歩いているのを気にかけてくれたようだ。


 「日野コース登山口」と標識のあるところから踏み込む。すぐに山腹に取り付き、寺沢沿いにトラバースしながら高度を稼ぐ。沢へ崩れ落ちるかのような登山道の足場は、良くない。はて、こんなところを歩いたろうかと、30年以上前に若い人たちと一緒に登っていたころを思い出そうとするが、集団にくっついて上ったせいか、全然覚えていない。スマホのGPSをみるとマップとずれている。山体の上の方に「ご正道」があるとわかる。「日野コース入口」というのも、舗装林道のもう百メートルほど先にマークされている。なんだ、古い道を歩いているのか。30分足らずでその「ご正道」と合流し、いよいよ沢をわたり、わたり返す。沢の水量はそれほどでもない。大きな岩が行く手を遮り、対岸に移ってまた沢に降りるという行程がつづく。ルートを見失いそうになるが、対岸からみると、最初のところに「一の橋」と標識が立っている。橋はボロボロ。石を踏んで沢を渡る。結局橋を渡ったのは三つ又の手前の大きな橋一つだけだが、それも真ん中の丸太が腐って落ちるような気がするほど傷んでいた。

 三つ又は、沢が分かれて三つ又になっている地点。登山道が合流したりしているわけではなかった。歩き始めて1時間40分。ほぼコースタイムで来ている。ここから沢と別れ、山体の支尾根に取り付く。傾斜は急になり、道はジグザグになったりする。スギ林がいつしかヒノキに変わっていた。突然、巨岩が目の前に現れて驚く。ルートの右側に沢音がする。ヒノキの間に広葉樹の灌木とシダなどが目に付く。「水場」があった。その上が(後で分かるが)三段の三角州のような層に分かれていた。その下から二段目でちょうど正午にもなったので、お昼にした。kwrさんが「予定より早いね」と、事前に作成した「行程表」をとりだす。20分くらい早いと思う。お昼が終わって少し登ると、三段目が現れた。ここは明らかに「笹平」の名にふさわしい広がりをもっていた。標識も立っている。「ああ、ここだ、ここだ」と私も、かつてここでテントを張ったことを景色とともに想い起していた。下山して白久の駅に着いたときに出会ったお年寄りが(私たちが熊倉山へ登ったと知って)「広いところがあったべ。昔、木を伐りだして、そこへ貯めておいたんだよ」と、遠くを見るような目で話してくれたのは印象的であった。

 笹平からのルートは急傾斜であった。ぐるりと山体を回り込むように歩いたりする。ルートが日差しと山体を挟んでいるので暗い。やはりヒノキの林。城山コースと出逢いに来て、稜線沿いに熊倉山への最後の上りがはじまる。大岩が立ちはだかり、それを回ってルートがつづく。10分足らずで山頂に着く。1425m。日野の駅から1100mの標高差を登った。13時03分とkwrさんは記録をしている。3時間50分。(お昼の時間も含めて)何だか測ったようなコースタイムだ。山頂は大きな岩の上にあり、木々に囲まれ見晴らしは良くない。細長い頂には小さな祠も置かれ、地元の信仰の山であることがわかる。そこからさらに南の酉谷山へ向かうルートへつながっている。酉谷山から西へイモの木ドッケを経て雲取山へ、南東へ三ツドッケ(天目山)を経て棒ノ折山へ連なる稜線が東京都と埼玉県を分けている。

 山頂には10分ほどいて、下山を開始する。谷津川林道は崩落していて「通行禁止」とあった。城山コースを下る。標高差800mほどで舗装林道に出るはず。この稜線下りも、熊倉山全体が巨大な岩の山であり、随所に大岩が立ちはだかり、それを巻くルートは急傾斜で、ジグザグに切ってあってもなかなかきつい。途中で2本、白久登山口へ下るルートが地図にはあったが、ついに分岐は見つからなかった。上り下りがあり、大岩を乗っ越すところには、巻道らしき踏み跡もあって、おっかなびっくりで通過している様子がうかがわれる。このルートの上部は落葉広葉樹がたくさんあって、11月の末には紅葉を見ながら歩くのにいいかもしれないが、中腹からはヒノキとスギの林に変わり、全体として、紅葉見物にふさわしい山とは言えないなと、下見の目も働いている。

 15時、城山コースの登山口に着く。1時間45分、コースタイムより15分余計にかかっている。疲れてきたのだろう。でもkwmさんの足も攣ったりしていないから、やはり健脚は保っている。ここまで、しかし、出発してから約6時間。11月の下旬に、この時間に林道に出て、ここからさらに駅までコースタイムが1時間とあっては、とても山の会の山行には使えない。kwrさんたちの脚はすこぶる元気で、白久の駅には45分で下り、電車の時刻に4分間に合わなかった。下見の甲斐があったというものだ。今日の行動時間、約6時間30分。

 電車を待っていると、十人くらいの高齢の人たちがやってくる。皆さん山歩きスタイルだが、軽装。
「何処へ登ったの?」と訊ねる。「秩父札所巡りですよ。今日は、浦山口のお寺さんからはじめて、ここ白久の30番札所まで。あとの4カ寺はまた、今度ね」と賑やかである。ガイドマップが待合所においてあるのをみると、「11km3時間のコース」と紹介している。「いやいや、途中電車に乗ってね」と全部歩いたわけではないと無用の言い訳をした。白久の駅周辺は店もない。だが三峰口へつながる集落は、家屋だけかもしれないが、軒を連ねている。もと大滝村(現在は秩父市)の、秩父という風土が「ふるさと」として人口減少を食い止めているのか、それとも空家だらけの限界集落へ向かっているのか。そんなことを考えながら、次の電車が来るまでの1時間ほどを過ごしたのでした。

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