2018年6月5日火曜日
目から鱗――日本の雪を見直して
面白い話を聞いた。スキーの制作をしている人の手助けをしている若い人の話。今年の冬も、長野県のスキー場で、新作スキー板の試乗会を催し、スキーヤーたちの声を聞きながら、板制作の手伝いをしてきた。久々にあったので、スキー板の話になった。
もう私のような年寄りになると、スキーはしない。むろん今でもスキーを愉しみにして、毎冬になると、北海道や野沢温泉や志賀高原、白馬などに足を運んでいる達者もいる。昔、スキー取材を生業にしていた弟から長い板をもらったことがあった。2メートル近い、重いやつ。それを使うと、ストックなしでスキーをしているアスリートをカメラに収めることができる、ぜひ使ってみてと彼は熱心であったが、残念ながら私の力量が、とても及ぶ代物ではなかった。ところが私が話を聞いた若い人のボスが作成している板は、そういう長尺物だという。
「カーヴィングした短い板が主流なんじゃないの?」
「ゲレンデではね。新雪のパウダースノーを滑るのは、長尺物なんですよね。今人気なのは」
「というと、ゲレンデじゃない」
「そう、もうゲレンデでは飽き足らないという人が、増えているんです」
「とすると、去年苗場のスキー場で違った稜線に踏み込んで、一晩野宿をして下山した3人くらいのスキーヤーがいたって遭難報道があったけど、あれもそんな人たち?」
「そうそう、そうです」
「とすると彼らは、スノーシューとかで上って、スキーで道なき道を下って来るってコースを愉しむわけ?」
「そう」
「でも、カナダなどの方がパウダースノーとしてはいいんじゃないの」
「でもね、カナダは雪が降るって言っても、12月に一回、1月に二回、2月は降らなくて3月に一回って風に、雪の降る回数が限られている。ただ気温が極端に低いから、一度振った雪がそのままの状態で、少しずつ圧雪されて保たれるってことはあるけどね。パウダースノーと言っても、締まってしまうわけ。それに対して日本のスキー場は、冬となると何回も雪が降る。その都度パウダースノーが更新されるから、近ごろは、カナダやヨーロッパからも日本のスキー場へやってくる人が多くなっている」
「ええっ、オーストラリアからのスキーヤーって北海道でも話題になっていたけど」
「そう、オーストラリアなども、日本ほどは降り積もらない。日本のスキー場はそういう意味で、北半球のスキーヤーにも見直されているんですよ」
「……」
「でもね、そういう外国の人たちは、逆に、雪崩のことを知らないわけ。雪崩れへの用心もしない。雪崩に巻き込まれたときの用意などは、まったく何もしないで、山へ入るわけ。ビーコンを持つとか、スコップを用意するとか。それが怖いよね」
「そうか、日本の雪は世界の中でも特異なんだ」
「ことに北海道や志賀高原など、北斜面のパウダースノーは絶妙ですからね」
そんな話しを聞いて、私がすっかり知らない世界で、しかし、みごとに第一級の技術水準を保ちながら、板を制作している人もいるんだと、感嘆し、かつ感心した。話しって、してみるもんだね。
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