2019年9月3日火曜日
意欲を掻き立てるのは、山か人か
昨日(9/2)埼玉県の西部、秩父と境を接する奥武蔵の山に登った。山の会の会員企画「日和見山歩」の月例山行、チーフリーダーは60代前半のSさん。当初、9/4(水)に設定していた。ところが天気予報が悪くなり、9/2(月)に変更した。参加者は5人。70代前半が2人、60代が2人。いずれも女性。後期高齢者は、男の私一人。
Sさんから渡された今日の「地図」2枚。1枚のコースタイムを計算してみると、6時間40分。いつもの「日和見山歩」に比べると長いのではないか。Sさんにそう問うと、「このコースタイムはいくぶん甘めだから」と平然としている。昭文社の地図ではコースタイムは5時間半ほどという。そうかなあと私は思っている。もう6、7年前になるが、このコースを歩いたとき、6時間かかっていた。「日和見山歩」の参加者は、普段、4時間コースほどを選んで歩いている。Sさんはどちらかというと健脚だから、心配したのであった。
予定のバスに乗って名郷に向かう。約21km、1時間、深く山間へ入り込む。案外乗客が多いのに驚く。登校する小学生も、乗って降りてゆく。リュックを背負っていた登山客らしい人たちは、その手前で降りた。違う山へ上るのだろう。終点の名郷には、トイレがあり、蕨山など、いくつかの山の登山口がある。8時45分、歩きはじめる。登り口まで舗装路がつづくが、どこが登り口かわからない。msさんがスマホをみながら、「まだ大丈夫、この先よ」と応じる。YAMAPの地図を読みこんでGPSで現在地をみている。Sさんは「スマホを使いこなしている人がいるから心強い」というが、果たして使いこなしているのかどうか。私自身は、ほんの1%くらいしか使ってないような気がしている。
鉄の階段を上り舗装路をすすんで、いよいよ「天狗岩→」へ踏み込む。スギの樹林におおわれた急斜面だ。Sさんは後ろを振り返りながら、ゆっくり進む。半年ぶりというokdさんがピタリとあとにつづく。「何ヶ月ぶりかしら」と、つい一月前に白山へ登ったmrさんが「日和見山歩」への参加を喜んでいる。「日和見山歩」は、このところ故障や家庭の事情で参加しない方が増え、ご無沙汰している。引き換え、「月例山歩」や「トレーニング山行」が月に何回も設定されて、mrさんは「日和見山歩の影が薄くなった」と、白山登山のときにこぼしていた。
天狗岩の岩場が現れる。Sさんはここを皆さんにご紹介したかったようだ。ごつごつした岩が積み重なっている。岩角は尖り、手を置くところ、足をかけるところは随所にあるから、登るのに難儀はしないが、ちょっとスリリングな上りが何十メートルか続く。面白い。皆さん、戸惑うことなく、Sさんにつづいている。「天狗岩山頂」と記した標柱がある。10時15分。1時間半。「甘い」コースタイムと同じだ。Sさんが抑えて歩いているのであろう。そこから50分ほどで前武川岳の「奥武蔵全山縦走コース」の分岐に着く。「←天狗岩コース」のところに「上級者向け」と付け加えてある。下山路が上級者向けなのか、山の会の面々がそれくらい腕を上げたのか。
15分ほどで武川岳山頂についた。11時23分。歩き始めて2時間38分。ベンチがあり、お弁当を広げる。Sさんがつくって来たゴーヤの佃煮を振る舞う。40分、蓋をしないで熱湯に浸けるとか、女性陣でレシピ談議がはじまる。単独行のアラカン男性が二子山の方からやってきた。山頂標識を写真にとって、伊豆が岳の方へ降りていった。芦ヶ久保駅から歩いて正丸駅へ下るのだろう。私も歩いた記憶があり、帰宅後に調べてみると2015年の冬に同じルートをたどっている。5時間54分と、歩行時間を記していた。
お昼を済ませ出発したのは11時54分。YAMAPの地図を見て二子山へのコースタイムが1時間15分であることに気づいた。Sさんの「甘い」コースタイムは2時間。そうか、ここで、違いが出ているのだ。でも私は、「芦ヶ久保まで4時間ですね」と声を上げる。ここから標高を250mほど下り、200mほど登り返す。その下りが、結構な急傾斜だ。15分ほどで「蔦岩山1004m」の標識が木にかけてある地点を通過する。その文字がすっかり風化して、読めなくなっている。木につかまり、足場を選びつつ、岩に腰を下ろして慎重に下るところが多くある。
どんぐりが葉をつけたままたくさん落ちている。どんぐりに卵を産んで葉を伐り落す虫がいると、mrさんが話す。だとすると、どんぐりの一つにひとつの卵を産んだのではないかというほど、下山路の一面に葉をつけて落ちている。木に登れないネズミは喜びそうだねと言葉を交わす。大きな木の子がいくつもみてとれるが、食べられるか毒キノコかわからないから、ストックの先でつついて通り過ぎる。毬がついたままの栗の実も落ちている。まだ粒が小さいから、何か獣に落とされたのであろうか。「狩猟注意」のプリントした紙片がビニールに包まれて木に取り付けられている。
焼山850mに着く。13時。1時間5分。とすると「甘い」コースタイム通りだ。すぐ西側に大きな武甲山が背を伸ばしている。山頂の北側が削り取られ、石灰石採取の傷跡を生々しく見せている。山頂には雲がかかり、下の方は靄のせいか、秩父の街は遠望できない。二子山が穏やかに丸いかたちを並べて、いかにもその命名のわけを示すような形で向こうに見える。
下るルートも登る道にも、木々の根が剥き出しに張っていて、奥武蔵の山の特徴を示している。14時、雄岳882mに着く。4年半前の冬に芦ヶ久保からここまで雪を踏んで歩いたことを、msさんと話す。彼女は雪が深かったことを憶えているが、足元を気遣うのに懸命で、地点や経路の確かな記憶はない、という。「雌岳10分→」とあり、そんなに近いなら行こ行こと先へすすむ。急な上りがあるはずだったのに、山体をトラバースする道を選んだために急登もなく、やはりわずかを歩いて雌岳870mに着いた。ここからルートは二通りある。沢近くの下りて駅に向かう道と、稜線を辿り、浅間神社の社のあるところから急坂を下るルート。Sさんは迷っている。たぶん、皆さんの疲れ具合を計っていたのだと思う。結局当初彼女の考えていた通りのルートへすすむ。急峻な下りもなく、一カ所尾根を90度曲がるところを除いて、ぽんぽんと調子よく踏み進む。45分で浅間神社に出て、そこからの下り標高差250mが「急峻」どされていたことがわかる。だが道はジグザグに切ってあり、よく踏まれている。西武秩父線のレールをくぐり、舗装路から再びチップの敷き詰められたルートを通ると、駅そばの「道の駅」に出た。15時50分。お昼を済ませ武川岳を出発してから3時間55分。Sさんの「甘い」コースタイムで私たちも歩いていることがわかった。とすると、今日の行程は30分のお昼を含めてほぼ7時間。いつもの「日和見山歩」の時間に較べると、とんでもなく長い時間の行程である。しかも、いいペースで歩いている。
電車の中のやりとりを聞いていると、今日の長いルートを難なく歩いた自信が垣間見える。夏の山のこと、次の山の話、どこへ行きたいということばが取り交わされている。「日和見山歩」も、こうして力強く復活するのだと思えて、うれしかった。その山への意欲を掻き立てるのは、山なのだろうか、ともに歩く人なのだろうか。まあ、いい山の会になっていると思った。
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