seminarの言い出しっぺのマンちゃんから手紙が来た。先月のseminar以来、彼にはメールで送るほかに手紙を郵送している。目が悪くなりパソコンをみることを止めた。だが、バックライトではない本や読書用タブレットはほぼ彼の生活全部を覆っていると聴いたので、手紙を送ることにしたのだ。このひと月で4通。週一通のペースで送った。その返信。A4用紙一枚に、まるで詩を書くように要点を書き記している。BBC東京特派員ヘイズさんの記した30年の落差の感懐、「日本人の不思議」に対する所感だ。それに対して、次のような返事を書いた。
* * *
お手紙ありがとうございました。
何だ、タイプが打てるんじゃないか。返信を頂戴し、まずそう思いました。ならば手紙にすることもない。メールで良いのに、と。でもずいぶん時間をかけ、苦労したのでしょうね。結論的な直感を並べるだけで精一杯、という感じが良く出ています。
でも、これじゃあseminarの話題にできない、というのが私の最初の感想です。
前3分の1は、失われた30年にどう対処するかという、あなたの直感的所感が記されています。seminarのお題にするには、一つひとつについて、どうしてそう考えるかを、異なる考えをもつ人にもわかるように説明しなければなりません。
直感的所感は、誰もがそれなりに抱いています。それを人と語り合うには、なぜ私はそう思うのだろうと、わが身の裡に分け入ってみなくてはなりません。そして探り当てたわが直感的所感の根拠を、筋道立てて説明することによって、言葉を交わすことができるわけです。いいよもう、そんな(異なる考え方をもった)人とは遣り取りしたくないというのでしたら、seminarなどと気取ることはないのです。
経済的施策がイデオロギー的な対立になるのは、それを評価する人の、利害にかかわる立場がどこにあるかによります。だから語り合うときは、互いの立ち位置を意識してイデオロギー的な偏差を互いに承知していなくては。論議になりません。遣り取りは、ただ単に自分の思いを述べ立てるだけで、論議というよりも演説会です。日本の政治家の言葉は、そのほとんどがこのケースです。自分と異なる立場の人に説得的に思いを伝えることはできません。そう思いました。
できるなら、あなたの直感的所感を3月seminarで話して貰うと良いかもしれません。
もう一つ気になったこと。「イギリス人よ! よく覚えておけ!」で始まる最後の3分の1部分です。
BBC東京特派員のヘイズさんは、日本がこの30年間沈んだままでいると心配はしてはいても、それを非難しているわけでも批判しているわけでもありません。にもかかわらず、トキさんもあなたも、どうしてこうも敵愾心を持ってヘイズさんの言葉を受けとるのでしょうか。お二人とも、日本の半世紀以上に亘る経済的盛衰を身を以て体験してきたと自負しているからでしょうか。この30年の停滞を指摘されると、わが身の弱点をつかみ出されたように感じて腹立たしいのでしょうか。
そのお二人の反応から私が感じたことは2点あります。
ひとつは、ガイジンにあれこれ言われたくないという心持ちについてです。それは、どこから出て来ているのかということ。
トキさんは商社に身を置いて海外との交渉に携わってきた。つまり外国人との交流は随分とあったせいで、日本を強く意識するナショナリストになってきたのでしょうか。あなたは新橋に長く居て、その立地からガイジンとの接触も少なからずあったでしょうに。つまりガイジンをよく知るお二人がなぜこうも、敵愾心をもつのか、それが私には不思議です。ことに「未来がある」と思って赴任して来て30年を過ごした日本を、愛おしく思うほど好ましく思っているイギリス人に、なぜこうも対抗心を燃やすのでしょうか。イギリス人にというわけでもなければ、アングロサクソンに大してでしょうか。あるいはガイジンにでしょうが、なぜなんでしょうね。これは、ヘイズさんの問う「日本人の不思議」に正面から応えることになると思うのですが、そこのところをできるだけ詳細に自己分析して、お話し頂けないでしょうか。
ふたつは、ふたりともなぜこうも、日本の行政がやってきたことをわが身のやったことのように感じるのかということです。
私はいつも、国家と社会は違うと感じています。統治的な視線でものを見るステイツマンと違って社会の民草は、ごくごく限られた権限しか発揮できません。むろん、関係の絶対的枠組みがありますから、まったく分離して考えているワケではありません。日本政府のやったことは、良くも悪くも(置かれた立場で)引き受けなければならないと思っています。でも、選挙で選ぶことと、その後に選ばれたステイツマンたちがやることとは別です。彼らは権限を委託されて、好き放題にしていると代表民主制の限度を(私は)見切っているつもりです。だから、ステイツマンの実態を知って、もう知らんわ、と呆れてしまうことも度々です。
そういう視点から日本の経済や行政施策をみていると、何やってんでしょうねと(まるで他人事のように)批判的に見ることもします。ところが、あなたもトキさんも、まったく一体化したように受けとっている。それも不思議です。最初に郵送したプリントで私は、トキさんのことをヘイズさんが指摘する「名家」と同じだといいました。つまり統治者としての視点しかみせていない。自分に対する絶大な自信をお持ちだともいいました。日本のキャリア官僚がもっているエリート意識と言い換えることもできます。
でも、何を根拠にそういう統治的感覚を身につけてしまったのでしょうか。
因みに、ひとつ付け加えておきます。トキさんとあなたの違いが一つ歴然としている所があります。トキさんは、ヘイズさんのことを「この馬鹿特派員は何もわかっちゃいねえ」と罵っています。彼自身が何を根拠に、そのように人のことを蹴飛ばすのか、私にはよくわかりません。ああ、エラいんだなあ彼は、まさしく「名家」だと思うばかりです。その点あなたは、決してそのように人を馬鹿にはしません。でも「覚えておけ」と啖呵を切るくらい敵愾心を燃やしています。この違いは何だろうと考えもします。何となく、人の関係に置いて一番大事な所に触れているようにも感じられることです。そのこともあって、あなたの直感的所感の根拠には、耳を傾けてみたいと思っています。
いやメンドクサイよ、もう、とお思いなら、そろそろseminarは店じまいをしていいんじゃないか。そう私は考えています。以前からお話ししていることですが、あなたが聴いていてくれるから、seminarの事務局を私はやっています。もちろんやっている間に、ミヤケさんやフミノさん、フジワラさん、それと忘れちゃいけないオオガさんという方々が耳を傾けてくれているからつづけることができると付け加えてきました。でも出発点のあなたが、もうメンドクサイというのでしたら、私にはつづけていく理由がありません。
後はseminarではなく、在京同窓会としてミヤケさんにでも音頭を取って貰って、継続していけばいいのではないでしょうか。考えておいて下さい。
3月のseminarは、「BBC東京特派員の綴る日本人の不思議」と福井県池田町の「池田暮らしの七か条」とオオガさんのお便り【返信4】を素材にして、話を進めます。その時に、あなたの直感的所感の根拠をお聞かせ下されば、幸いです。
お仕事ご苦労様ですが、身体に気をつけて、元気でお過ごし下さい。草々不一*
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