2023年4月25日火曜日

風景全体が見所という公園(1)身の置き方

 師匠に誘われて「観光地」に日帰りで行ってきた。栃木県足利市の「あしかがフラワーパーク」と茨城県の「国営ひたち海浜公園」。前者は「ふじのはな物語」がウリ。後者はネモフィラが真っ盛り。TVの画面ではよく目にしていたが、行ってみようという気にはなったことがない。師匠は、一度は足を運んで感触をみておくものと思っているのか、ときどき新聞などに載るツアー企画をピックアップして、誘いを掛ける。私は自分から足を運ぶ動機を持たないが、折りあらば何でもみてやろうという前向きの気分はあるから、誘われて断ることをしない。

 朝6時過ぎに家を出て夕方7時頃に帰宅する一日バス・ツアー。日程からお弁当まで全部お任せ。その上、現地では時間を決めて自由散策だから、歩く分には目新しい分だけ面白い。東北道を走るバスからは奥日光の連山が春霞にかすんで見える。でもガイドはこれも見所として紹介に努める。意外だったのは、茨城県の北東部、ひたちなか市の方からみた筑波山。見事に美しい三角錐。いつもは南や西からみているから双耳峰だが、そうか、みる場所でこうも変わるかと思うほどの姿であった。

 あしかがフラワーパーク駅があるのを知った。小山駅から新前橋とを結ぶ両毛線で40分ほどの駅は大勢の乗り降りを想定して回廊が設えられている。だがマイカーで来訪する人が多く、駐車場に入る車列が道路を埋め尽くし、畑や空き地などありとある場所に石灰の白線が引かれて駐車場にしている。駐車は「無料」というので車での来客が多いのだとバスガイドは言う。バスはそれを予測して時間を早め、また予め駐車場所を予約していたこともあってスムーズであった。9時20分ころ入場。

 いや、実に丁寧につくられている。両毛線に沿う北側から南側の小高い山との間に、正面ゲートを先端にした紡錘形の広い敷地にびっしりと花木が植え込まれ、それを見て回る散策道が張り巡らされている。人が多い。「只今TV撮影中。お静かにお願いします」という紙を持ったNHKのスタッフがいて、カメラが回っている。至る所の藤が紫色の花を垂れ下げ、地面を散り落ちた花びらで染めて満開を過ぎていたり、山盛り真っ白のフジの花が3メートルほどの高さから地面まで埋め尽くすように咲き乱れる。その前で背中をはだけたモデルが向きを変えて微笑み、カメラを構えた男性が右や左へと動きながらシャッターを切る。素人のスマホは自撮り棒を取り付けて一人であるいは何人かで撮影に余念がない。色とりどりのシャクナゲもボタンも栽培して名がつけられたツツジも、大盛盆栽の寄せ集めのように敷地を埋める。

 風景全体がフラワー公園だ。その中心がフジの花。5種類ある。一つの株が30メートル四方の藤棚に枝を広げ、高さ4メートルほどからたわわに2メートル近い花の房が無数に垂れ下がり、透き通るような薄紫の見事なおおいをつくる。ほのかな香りが漂っている。大長藤と名がついている。何本かの幹が寄り集まって径3メートルほどの一本の幹をなす。

 あるいはやはり藤棚から垂れ下がる大藤の幹は、痩せ枯れて中心部はボロボロとなり、それでも半径20メートルほどに枝を広げて、もう一本の同じように広がる大藤と藤棚の上で繋がって花をつけ、房を垂れ下げる。ここまで育てるには余程の手入れとご苦労があると思わせる。樹齢が80年から90年というから年数だけは私と同じようだが、いやこれは、かなわない。葉が外のフジとは違うキフジの房はいま咲き始めたばかりの風情。いずれこれがトンネルをつくるようになるには十数年を要するのかもしれない。楚々として控え目な感じがした。

 三脚の上に15センチくらいのフィギュアを載せ、その手先を穂歩に当ててポーズを取らせている男性がいた。三十歳くらいか。背景は向こう何十㍍かの藤棚に垂れ下がる見事な薄紫の大藤。人形の指には青いマニキュアが塗られている。着ている和服の柄にもフジの花がデザインされていてシック.だが目は大きな洋顔の藤娘。被り物はない。少し傾げた首が何かもの言いたげなのに言葉が見つからない気配を湛えている。なるほどこういう写真を撮ってインスタグラムとやらに載せているのか。無理難題を言って憚らないカノジョよりもこういうフィギュアの方がいいって言う男たちが増えているのだろうか。ちょっと分かる気がした。

 2時間くらいでは回りきれない。ましてハンカチの木や何じゃもんじゃの花も咲いていて、野草にまで目を向けると1日、2日でも足りないくらいと思われた。むしろ風景全体を味わうようなフラワーパークであった。そう言えば、照明のセットがあちらこちらに備えられている。若ければ夕方以降に入園というのも面白いかもしれないが、年寄りにはむつかしい。(つづく)

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