2019年11月14日木曜日

空っ風の源流―赤城山・荒山と鍋割山


 「明日は関東地方に木枯らし1号が吹きます」という予報を聞きながら、その源流部の赤城山へ行ってきた。昨日(11/13)のこと。天気予報は晴れであったのに、朝から曇り空。雲は二千メートル上空を覆い、雲と大地のあいだはかなり遠方まで見渡せる。前橋駅で同行者を拾い、もう一台の車と落ち合う「国立赤城青少年交流の家」へ向かう。前橋市内は、ちょうど通勤ラッシュのせいで渋滞。20分ほど早く着いて待ち合わせるつもりが、時間ぴったりに駅で同行者を乗せ、赤城山の中腹にある交流の家へ向かったのだが、目的地のほんの50メートルのところで脇の林道に入ってしまった。そのため、4キロほど上部にまで行き着いて間違えたことに気づき、引き返すというハプニングがあった。


 一台を合流点に置いて、ほかの一台で登山口の姫百合駐車場へ。標高1100m。これから歩きだそうという人たちがたくさんいる。装備を整えているとき、軽トラックでやってきた地元の60歳代の方が、「クマが出るから気を付けて」と声をかけてくれる。年寄りとみて注意を呼び掛けたようだ。イノシシやクマが出没し、だんだん麓の方へ降りていっているという。ちょうど私たちの歩くコースが、それにあたるらしい。9時35分、歩き始める。入口の紅葉が見事だ。ちょうどいい時期に来たらしい。道はよく踏まれている。赤城山の何面にあるからか、曇り空なのに明るい。すぐにヒノキの林を抜けて紅葉した広葉樹の林になる。私たちは紅葉を愛で、カラマツの落ち葉を踏みしめながら、ksrさんを先頭にゆっくり進む。若い人たちが後ろからやってきて、先行する。前方から下ってくる人たちもいて、結構人気の山のようだ。足元にはかつて噴出した溶岩が積み重なって露出し、その上に樹々が根を張ってしがみついている。

 40分で「荒山高原」に着く。コースタイムより5分も早い。と、一組の若いペアが「初心者には、どのルートが良いか」と訊ねてくる。地図ももっていないようだ。ここから北に見える荒山に登り、別のルートをぐるりと辿ってここに戻る。そこから南に位置する鍋割山へ行くというのが、私たちの今日のルートだ、と説明する。「じゃあ、あとへ着いて行って、ここへ戻ってきて、駐車場へ戻ります」という。まあ、若いんだから先へ行きなさいとすすめるが、着いてくると遠慮深い。

 荒山は灌木とササに覆われた穏やかな山容をみせている。だが広葉樹の灌木の葉は全部枯れ落ちて見晴らしは良い。雲間に下界が見えるが、だんだん雲が低くなってきているのか、霞むようになった。山頂近くになると大きな岩場を踏むようになる。先頭につづくmrさんも何なくついていく。荒山高原から50分で荒山山頂1532mに到着。これもコースタイムピタリだ。山頂標識に温度計がつけてある。みると気温は「7℃」。風にあたると5℃を下回る。鼻水が出るはずだ。写真を撮っていると、件のペアがやってきてシャッターを押してくれるというので、並んでカメラに収まった。ペアは、この先のぐるりとまわる道がわからないので来た道を戻るという。私の持っていた国土地理院の地図をあげて、目印とコースタイムを説明する。kwrさんが「こちらの方がなだらかな下りだね」と加える。では皆さんの後を行きますというのを聞いて、私たちが先行する。

 荒山の東側へ回り込んだ下山ルートの開けた展望台からは、赤城山の地蔵岳や長七郎山、その後ろの黒檜山らしき山並みと赤城山の東麓が一望できる。私たちの目線よりも低く降りている東の雲が前橋の街に覆いかぶさるようであった。ルートのササは刈り払われ、しっかりしている。山渓のガイドブックにあった「避難小屋」は東屋のようであった。それでも迷う心配はない。荒山高原を紹介する看板があった。ツツジの山とある。アカヤシオの別名がアカギツツジということも初めて知った。因みに表示されていたツツジを記しておくと、シロヤシオ(ゴヨウツツジ)、ヤマツツジ、トウゴクミツバツツジ、コメツツジ、アブラツツジ、サラサドウダン。「5月下旬から咲き誇るツツジの群落は、実に壮観」とあった。ぜひこのころに来たいものだねと話しながら歩いた。

 12時5分、荒山高原に戻る。風が出ている。一人昼食をとっている方がいた。冷えないように一枚着こんで、風の和らいだ辺りに陣取ってお昼にする。休んでいた方が電動の芝刈り機をもって、笹原を刈る作業を始めた。ああ、こうした方が面倒見てくれているのだ。前橋市が行っているのだろうか。「彼らどうしたろう」とkwrさんが件のペアのことを気遣う。「あれ、あんなところを下ってくる人がいるよ」と指さす先をみると、ツツジの枯木の山腹を下ってくる白い服が見える。「でも、私たちが来たのはあんなところじゃないよ。起伏のない標高をトラバースしたんだから」とやりとりがある。やがて私たちが来たルートから、15分ほど遅れて件のペアが現れ、会釈をして駐車場の方へ消えた。上ってきた人たちが、やはりてんでに陣取ってお昼にしている。

 12時半、この後のコースタイムを確認してkwrさんを先頭に鍋割山へ向かう。鍋割山から下ってくる人たちが多い。「往復しているのか」と尋ねると、あなた方はどちらへ行くんだという顔をして聞き返す。
「どちらへ?」
「青少年交流の家へ」
「下に車を置いているの?」
「ええ、そうです」
 皆さん駐車場から鍋割山へ往復するのが定番のようだ。

 荒山高原から標高で100メートルほどゆるやかに上る。雲はもっと低くなり、振り返ると荒山の山頂が隠れている。笹原の稜線から東の下方、カラマツの群落が見事な黄色の色合いを緑の山体を背に広げていた。晴れ渡っていれば圧巻の眺望といえよう。途中、火起山、竈山という小ピークを経て鍋割山に到着する。この間にも、何人もの登山者とすれ違う。

 鍋割山1332mに13時5分に着いた。ン? コースタイムは1時間のはずなのに、35分で来ている。ま、早い分には文句を言うこともあるまいと受け流す。80年配と思われる高齢者のペアが山頂で記念写真を撮っている。緩慢な動作がちょっと心配だが、でも、ここまでやってくるのだから、たいしたものだ。はい並んでと声をかけ、私たちも集合写真を撮る。晴れていれば、こんな山が見えますよという写真付きの山名が表示してある。浅間山を右の端において、御嶽山、八ヶ岳、甲斐駒や北岳、小川山や金峰山、甲武信岳などの奥秩父の山、富士山や雲取山、丹沢山や大山と、関東平野を取り囲む山々がずらりと並ぶ。赤城山が北の抑えを承っているぞという気概を示しているようだ。

 山頂に10分ほどいて下山にかかる。霧が巻いてきた。東の下方をみると、雲が風に押し下げられて下の方へ足を延ばしたように、街並みに覆いかぶさっていく。これが「赤城颪(おろし)」、空っ風の源流なのだと思う。鍋割高原を過ぎたあたりだろうか、岩場が現れる。そこからはロープを張ってある急峻な下り。mrさんはいつものように悲鳴を上げながら、でも順調に下る。「5月下旬に来るとツツジがいいそうだ、また来ようね」と言っていたのに、「前言、撤回するわ」と政治家のようなことをいって岩場を呪っている。こんなルートが50分近くつづいた。この辺りの紅葉がちょうど見ごろ。何度も賛嘆の声を上げつつ、しかし、緊張を保ち続ける。

 14時22分、林道に出会う。コースタイムより15分ほど多くかかっているが、荒山高原からのコースタイムとみると、おおむね1時間55分。コースタイムとほぼ同じ。たいしたものだ。ここから車を置いた「青少年交流の家」までは4キロの林道歩き。ここからの下山路の紅葉が見事で、退屈しなかった。重力に身を任せ、とことこと降ること45分、時速6キロにちょっと欠けるくらいの速度で下り着いた。ふたたび車に乗って登山口の駐車場へ赴き、解散。それぞれが無事に帰宅したのでした。

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