2020年4月9日木曜日

山が笑っていた、奥多摩・臼杵山


 一昨日(4/7)は山の会の月例登山のひとつ、「戸倉三山」の二山、市道山(いちみちやま)795mと臼杵山842mを歩いた。例のコロナの「感染経路不明」多発で、公共交通機関が使えないから、車でアプローチする。一緒に行くkwmさんkwrさんも車で来るから、下山口に一台置いて、登山口に向かう。
 奥多摩というが、その南辺。「高尾・陣馬」領域の北辺である。
 武蔵五日市駅から数馬の方へ5キロほど入ったところに下山口がある。登山口は檜原村になるが、さらにそこから5キロほど奥へ入る。戸倉という地名は、武蔵五日市駅に近いところにあり、三山のもう一つ仮寄山687mと三つの山が取り囲む渓が、戸倉に流れ下っていることから、そう呼ばれるようになったのであろう。まあいわば、里山である。

 
 下山口の荷田子バス停の脇には公衆トイレもあり、さらに大きな有料駐車場がもうけられている。止めているのは私たちの車だけだったが、普通車は一日千円というから、安いわけではない。土日ともなると、この駐車場が埋まるほど登山者が来るのであろうか。もっとも戸倉三山の向かい、北側には馬頭刈山がある。ここは岩上りのゲレンデでもあるし、その先は大岳山・御嶽山という信仰の山がある。若い人たちがやってくることも考えられる。
 登山口へさらに向かう。檜原村役場の先で数馬方面へ進路を切り、3キロほど行ったところの笹平バス停から左へ入ったところに民家の空き地があり「有料」と表示がある。ここが駐車場らしい。女将さんが出てきて500円ですという。市道山へ登ると聞くと、橋が落ちているから沢を渡らなくてはならないとご亭主に声をかける。「これくらい水があるからね」と両手を広げて20センチくらいを示す。kwrさんは「じゃあ、荷田子から往復しよう」と引き返そうとする。「ま、ま、手ぬぐいももってるし、靴を脱いで渡って足を拭いてまた歩けば、なんてことないよ」と私が引き留める。
 こうして、歩き始めた。枝垂桜や桃の仲間が満開。ツツジも強い印象の色を突き出している。

 林道から小坂志沢へ下るところの木の階段が急傾斜なうえに腐りかけてあぶない。用心して沢へ下る。水はとうとうと流れている。少し上流に大きな石が流れの途中にある。あれを渡ろうとそちらに移動し、ストックをついて身体を支え、難なくわたる。これで手ぬぐいを出す必要がなくなった。
 そこから標高500メートルほどまでの上りが直登に近い急傾斜。ちょうどスギを伐りだしているらしく、文字通り林道がつくられたばかり、標高差200メートルほどの斜面にある伐りだした杉の大木の切り株が、生々しい年輪をさらして、何本も並んでいる。でもこの林道を、積み出しのトラックは上ってきて、何処で回転するんだろうと思った。そういう広い場所はない。しばらく考えながら歩いた。思いついたこと一つ。スイッチバック式に上り下りしているんじゃないか。角に来るごとに少し先まで行って、次はバックで進み、また角に来て少し先まで進んで今度は前進するという具合に。となると、木の積み込みをするときは荷台をどちらに向ければ、降るときにより都合がよくなるかを考えなくちゃならないなと、埒もないことを考えていた。
 
 深いスギ林の向こうに、臼杵山が日差しを浴びて明るく見えている。地図で見ると、ちょうど市道山を鋭角三角形の頂点として、登山口と臼杵山が底辺の二点に位置するような行程だから、上る左側に臼杵山が見える。その山肌には桜が彩を添え、濃い色のミツバツツジがところどころのアクセントをつけている。目には確かにそう見えるが、杉の林が邪魔をしてカメラに収めることができない。
 臼杵山への分岐点のところに「木橋流失 ヨメトリ坂下れません」と大書し、小さく、「2020-2-28 浅瀬を渡れば笹平バス停に行かれます」と手書きの表示が下げられていた。なるほどこれをみると、下山路に選ぶのはちょっとビビるかもしれない。そこを少し過ぎて市道山の山頂に着いた。歩き始めて1時間25分。コースタイム男のkwrさんだけのことはある。5分早く着いた。なんとも立派な山頂の標柱が建てられている。地元が推奨するコースなのだろうか。そう思ってみると、ルートの足元はしっかりしている。
 
 ここから戸倉三山の刈寄山を経て武蔵五日市駅から3キロほどの今熊山登山口へ出ることができるが、今日は戸倉三山の最高峰・臼杵山へ向かう。沈丁花のように大小5枚ほどのミドリの葉の中央に集まるように白い小さな花が開いている。花が筒状でなく、すっかり開いていることからミヤマシキミの雄花だろうと、家に帰ってから教えてもらった。平地では3~5月に開花を迎えるそうだ。アセビの花がむせ返るように花をつけて日差しを浴びている。その向こうのヤマザクラが、楚々として散り際の気配を湛える。
 市道山から臼杵山への稜線は、凹凸が大きく、上りルートの斜面は木の根が剥き出しになったり、岩を踏んで歩くところがある。キブシの雄蕊が輝き、足元には何種類かのスミレが彩を添えている。臼杵山の山頂にも、やはり立派な標柱が建てられている。その少し先が日当たりがよく、そこでお昼にする。11時35分。市道山から1時間20分。ほぼコースタイムだ。
 
 20分ほどの時間ののち、出発。ここから荷田子峠まで標高差で400メートル、1時間の行程。渓向こうの刈寄山の斜面の落葉広葉樹が葉芽花芽を色づかせて新緑へ変わろうとする中に幾本ものサクラが花を咲かせ、今まさに山笑う様子を体現してみせている。上りのルートでは見られなかった景観だ。見晴らしのいいところどころで立ち止まって、カメラのシャターを押す。今、いいときに上ったね。山のサクラはいまが見ごろだねと、眼福を愉しむ。
 南東が見晴らせるところからは、手前五日市の町並みにはじまる関東平野が一望でき、ずうっと向こうにドームが見える。「西武球場じゃないか」とkwrさんが話すと、まさにそれが見えているように見える。
 また、刈寄山のサクラのがよく見えるところがあって、また立ち止まる。北側をみると、ヤマザクラが咲いている脇に大木が何本も根こそぎ倒れている。これはいつの台風だろうか。その向こうに、御前山がちらりと見える。大きな松の木が、下半分の皮をはがされてたち枯れている。 その先では大岳山がすっきりとした三角錐のような姿をみせている。手前の、やはり桜が目を奪う。「吸い込まれそうだなあ」とkwrさんが下界をみながらため息をつく。
 ここにも姿のすっきりとした白いスミレが枯葉のあいだから顔をのぞかせている。戸倉山茱萸御前と彫り込んだ石標が立つ。その脇に祠があり、脇の標識柱に手書きで「グミ祠」と書き込んでいる。そうか、この三山を含む全体を「戸倉山」と称し、それを結ぶルートを「ぐみコース」と呼んでいるのは、この「茱萸御前」に由来するものかと思う。
 
 大きな葉の白いスミレが堂々たる姿を見せる。ヤマザクラがミツバツツジの向こうに美しい。荷田子峠に到着。1時間と5分。なるほどこうして、スタートと帰着とで、きっちりコースタイムになるようにつじつまを合わせているのかと思うほど、kwrさんの歩きはコースタイムだ。ここから終着点まで15分。下山の出口にはやはり見事なサクラが姿を見せ、右の山の斜面には色とりどりのサクラやモモやツツジが花をつけている。「村や町がみんなで花を植えようと運動しているところもあるよ」とkwrさんが話す通り、居住者が皆さんそれに勤しんでいるかと思うほど、景観が花の色に満ちていた。この地にとっては、まさに山笑う季節が到来しているのだ。

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