2020年8月22日土曜日

#ミー・ファーストと国際協調とパレート最適

 イランに対する非核化圧力を強めようとトランプが言い出した。それに対して英仏独ロ中が、「勝手に(イランの非核化合意から)離脱しておいて、いまさら何を言うか」と同意しない。それはそうだろう。

 トランプのやることを見ていると、まるで国際関係のいろはも知らない素人が、大きな権力を振り回して、駄々をこねているように見える。そして一つ一つ躓くごとに、素人が学ぶように、その世界のことがどのように出てきて来たかを知り、その意味をはじめて体感することになる。つまり、トランプ以前の世界をつくりあげた「関係のネットワーク」の「壁」にぶつかるのだ。

 振り返ってみれば、4年前にトランプが攻撃したのは「戦後国際政治の理念」であった。それがわりと単純に、国際協調の理想に向けて作られていると理解していたのは、ナイーブな日本人であって、じつは、様々な利害とその背景にある力関係が絡み合って、かろうじて日の目を見た到達点であった。日本人がそれに対してナイーブであったのは、第二次大戦の敗戦国であり、ドイツとともに、いまだに国連の「敵国条項」の適用を受けている立場であるからでもある。それ以上に、敗戦後の日本国憲法の「理念」によって、ある種の(欧米民主主義の)モデル的な出立をしたからでもあった。だから私がここで、素人と呼んでいるのは、私を含む日本の庶民であり、トランプを指示する、憤懣を抱えるアメリカの貧相な暮らしを強いられている白人の庶民である。

 トランプは「強いアメリカの再来」を看板に掲げる。その「強いアメリカ」をバックに「#ミー・ファースト」を矛先にして、旧来の知的権威に対して攻撃を仕掛けてきた。ナイーブな私などは、な

 第二次大戦時のアメリカは、民主主義と国際的な協調を看板にして、自国は戦場になることなく漁夫を利を得るようにして経済的にも世界の頂点に立った。反ファシズムや反軍国主義の看板は、アメリカ国民を奮起させるための(日本流にいえば)タテマエだったわけだが、日本占領をしたときの日本国憲法の原案を作製した民政局おの若いリーダーたちは、アメリカにさえない「理想的な憲法」をつくろうと力を注いだと、いつだったかその当事者が語っていたことがあった。私のような戦中生まれ戦後育ちのものには、その「理念」がまっすぐ戦後社会の目標として身に入ってきた。

 そのアメリカのタテマエが、タテマエに過ぎないとわかるのには、そう時間はかからなかった。占領軍の統治が、日本に対する軽蔑的な態度と差別的な意識に満ち、かつ、後に松本清張が描く様な「工作」によって、政治過程の裏表が露出してきたからであった。だが私たちは(ナイーブにも)日本国憲法の理念を理想と受け止めて、思い通りに行かない現実過程を理解してきたのであった。

 トランプの登場は、いわば、アメリカ社会がタテマエを脱ぎ捨て、それまで裏街道で「工作」してきたホンネを剥き出しにしたと受け止めた。だから、トランプの国際協調への攻撃も、視野の狭さを思うことはあっても、この人たちは目前のコトしか関心がないと、理解していた。

 

  そうして、イランの非核合意実施へ向けての制裁を改めて発動しようとなったとき、何を勝手なことをしておいてホザイテいるかと、他の合意諸国から肘鉄をくらわされたというわけだ。面倒なアメリカではあるが、民主主義って、そういうものよと思うから、ほかの国々も、だったらもう一度イランの非核化合意協定に復帰しなさいよと、諭すようにしているのであろう。

 だが、そうしているロシアのプーチン政権は、反政府活動をしている活動家をこっそり始末しようとしている。中国の習近平政権は、香港やウィグル自治区への強圧的な締め付けで、自己保身に懸命だ。ヨーロッパもまた、イギリスの離脱と新型コロナウィルス禍で青息吐息にある。つまりみなさん、イランにかまっている暇がないほど、ミー・ファーストにならざるを得ない状態に置かれている。

 何の力もない日本の、何もできない庶民は、こうして、国際協調が「相身互い」をベースに築かれていて、とりあえず、その点だけはまだ保持されているんだなと、ベンキョウしているってわけ。

 

 ふと思い出したが、田中明彦という国際政治学者が、「相互依存の世界システム」というのを書いて、「パレート最適」という言葉を使っていた(『新しい中世』)。何だったっけ。もう一度本を開いて調べてみたら、こう書いてあった。


《相互依存関係から限界点まで利益を得ようとすれば、片方の利益を増大させたら、もう相手の利益を減少させなければならなくなるような地点に到達するであろう。(それをパレート最適という)》


 相互依存の関係が互いに利益をもたらす最適の地点で、かつて「イランの非核化合意」が締結された。むろんアメリカのバックにはイスラエルもついていたであろう。トランプは、それが弱腰であったとして、限界点を踏み越えて「#ミー・ファースト」を剥き出しにして、合意からの離脱したのだが、それがかえってイランの核開発を許容することになったことに気づいたというわけだ。

 それでもトランプさんが学んでくれればいいが、彼はあまり学習能力は高くなさそうだ。目前のことにしか関心がないと、先々のことは目の前にしてから考えるしかないというのは、私ら庶民の日頃の無様な姿だ。まあ、国際政治までもが、ほとんど私たちの日頃のやりくりと変わらない次元で行われているというのは、岡目八目の庶民が国際政治をベンキョウするいい機会でもある。

 ま、いろいろと教えてくださいな、USAの皆々さま。

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