皆々さま
新型コロナウィルス禍が、まだ続いています。政府はひと山乗り切ったという感触でコロナウィルスに対応していますが、東京都は感染の広がりが拡大傾向にあるとの認識を崩しておらず、様子を伺っている私たちとしては、困惑しますね。
「36会Seminar 7月開催のご案内」の中で、開催する「条件」を以下のように記しました。
【実施するかどうかの目安】
東京都の三つの指標が以下のようであることを目安として実施の可否を判断する。一週間前(7/18)の指標をみて判断します。その後大きく変動があるときは、再度、見直します。
1、感染者数が20人未満である。
2、感染経路不明が20%未満である。
3、実効再生産数(感染の広がりを示す指数)が「1・0」未満であること。
上記指標については、「東洋経済online 国内感染の状況」https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
における「東京都の状況」による。
東京都の感染者数は9/4で「211」ですので、開催条件「1、」とは桁外れです。また「2、」は、東洋経済onlineでは掲載されていません。「3、」の実効再生産数は、東京都0.88、埼玉県0.94と1.0を下回っていますが、神奈川県は1.05と、まだ「感染拡大」の傾向を示しています。
ただ、夏場の「傾向」を、政府の専門家会議に参加している大阪大学の行動経済学者が総括している記事がありましたので、以下に添付しておきます。要点は以下の通りです。
(1)3月には専門家が危機感を強く持っていたのに対して、国民は軽く受けとめていた。だが、7月以降は、それが逆転している。専門家は「ある程度制御できる」と考えるようになったのに、国民は危機感を強めている。
(2)感染クラスターは、夜の町やカラオケなど特定の業種に絞ることができる。スポーツジムや感染対策をしている業種、あるいは公共交通機関では、それほど感染拡大がみられない。湿度が高いと飛沫感染の拡散が抑えられる。
(3)50歳未満では重症化することはほとんどなく、高齢者や重症化する人への重点的な対応が必要。事態がひっ迫している現場医療機関の負担を軽減するための財政支援が、ピンポイントで必要だ。
さてそういうわけで、後期高齢者である私たちにとっては、あまり状況は変わっていないといえそうです。9月26日(土)の「36会Seminar」の開催は難しいかと思いますが、19日(土)まで様子を見て、「3、」を中心に、濵田守、佐藤和恵、三宅健作さんたちと相談して、開催か延期かを決定したいと思います。
何度も延期になりますが、講師の伊勢木洋昭さん、よろしくご了承ください。
2020年9月5日 36会Seminar事務局 藤田-k-敏明
***東洋経済online 2020/09/05
★「新型コロナは制御可能」が今夏の経験の結論だ――大阪大・大竹氏「的を絞った対策で乗り切れる」
野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト
7月に始まった新型コロナウイルス新規陽性者の再拡大は、約1カ月を経て収束に転じた。懸念された重症者の増加も一定程度に抑えられ、国民の新型コロナへの見方も徐々に変わりつつある。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の構成員である大阪大学大学院経済学研究科の大竹文雄教授は、ウイルス流行当初からの変化をどう見ているのか。心理学の研究成果を用いた行動経済学の視点を交えて話を聴いた(インタビューは8月25日に実施)。
◇ 3月は専門家と国民の危機感に相違があった
――今年3月から政府の専門家会議のメンバー(7月に新型コロナウイルス感染症対策分科会に改組)として活動されていますが、春の第1波から今夏の感染再拡大までにどのような変化を感じていますか。
初めて参加した3月19日の専門家会議は強烈に覚えている。当時は、国民と専門家の間で危機感の強さがまるで違った。一般に多くの人々は、中国・武漢発の新型コロナ流行はもう落ち着いたから、小中高の一斉休校措置を解除すべきだと話していた。
だがこの頃、欧州帰りの感染者が毎日10人くらい入国していた。専門家会議は、欧州発の感染拡大を押さえ込まないと大変なことになると、非常に強い危機感を共有していた。西浦博教授(京都大学大学院医学研究科)は4月に「行動制限なしなら42万人死亡のリスク」と話したが、3月の時点でも人工呼吸器がどれだけ足りなくなるかなどの推計値を公表していた。
――行動経済学者として、そのような状況をどう見ていましたか。
3月19日の専門家会議の発表資料には、主に2つのことが書いてあった。1つは、(先に感染拡大が起きた)北海道は落ち着いたということ。もう1つは、感染源のわからない陽性者が東京などで継続的に増加しており、大規模流行につながりかねないということだった。
人間には、自分の信じたいことの情報だけを見てしまう「確証バイアス」がある。だから、危機感を強調したいのなら、そちらをもっと強く書かないと国民には伝わらないと思った。会議後に尾身茂・副座長(地域医療機能推進機構理事長)にそのことを伝え、記者会見では危機感を前面に出してくださいと話した。ただ、書いたものを通じて国民に伝わる部分が大きい。全面的な修正ができなかったのは残念だった。
――その後、感染は急拡大し、春に第1波を形成しました。次の7月以降の感染拡大については、どう見ていますか。
今回は、専門家と国民の認識ギャップが逆になった。検査態勢が充実したことにより、若者を中心に陽性者が増えたが、春の第1波でももっと検査を実施していれば、より多くの感染者が見つかっていただろう。7月後半からは中高年の陽性者も増え始めたが、いずれにしろ、感染は収束し始め、重症者も春に比べてさほど増えなかった。院内感染や高齢者施設での対策や検査態勢が拡充され、早めに対応できるようになったことが奏功したためだ。今夏の経験により、「新型コロナはある程度制御できるようになった」と、大方の専門家は認識している。
◇ 今後は国民の認識も変わるだろう
これに対して、一般の人々は「感染が増えている」と連日ニュースで聞かされ、「コロナはどこにいても、普通に生活していても感染してしまうのか」と危機感を高めてしまった。これは、春とは逆方向の認識ギャップだ。もっとも、夏の再拡大では重症者の少なさが明確になったため、これからは国民の認識も変わってくると思う。
――予防対策の有効性もわかってきたということですね。
大竹文雄(おおたけ・ふみお)/大阪大学大学院経済学研究科教授。 1961年京都府生まれ。1983年京都大学経済学部卒業、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2018年より現職。博士(経済学)。専門は労働経済学、行動経済学。著書に『日本の不平等』『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』など多数(撮影:今井康一)
「夜の街」やカラオケなど感染リスクの高いところを避けるようにすれば、かなり防げるというのが専門家の認識だ。また、高リスクのところでも、予防のガイドラインを守っている事業者では、クラスター(感染者集団)はほとんど起きていないのも事実だ。
最近の研究では、AI(人工知能)などを活用した気流シミュレーションや感染者数シミュレーションも盛んになっている。アクリル板は何センチメートルまで高くすれば飛沫の拡散防止効果が高いとか、湿度を高くするとあまり飛沫が飛び散らないといった知見が報告されている。2月の流行初期にクラスターを発生させたスポーツジムではその後、感染が起きなくなった。これも対策がしっかりしたことが要因と考えられている。
残念なのは、対策がうまくいき、クラスターを起こしていないところをメディアが積極的に報道しないことだ。スポーツジムの成功例はもっと取り上げていい。分科会の発表資料でも「電車に乗ってもコロナはうつらない」というメッセージを夏から出し始め、大規模イベントでも屋外なら感染リスクは低いこともわかってきている。こうした科学的なファクトが伝わっていけば、人々の新型コロナへの見方もよい方向に収斂されていくだろう。
一方で、新型コロナの流行を制御するため、いつまでも国民の自主的な行動変容に頼っているのにも限界がある。国や地方自治体は、店舗などの対策とその効果について個別事例の情報を収集し、事業者向け予防ガイドラインをより精緻化していくべきだ。そうすれば、国民1人1人は特に気をつけなくても、世の中全体で感染対策が機能するような状況を作っていくことができるだろう。
――春に大打撃を受けた経済の立て直しも急務です。
コストとベネフィットの比較考量が重要だと思う。人の移動を完全に止めれば感染リスクが下がるのは当然だが、経済社会の悪化で健康を害する人もいる。世の中のリスクはコロナだけではないことを認識すべきだろう。確かに春の段階では、ウイルスのリスクがどの程度かわからなかったため、予防的に押さえ込んだのは正しかった。しかし、もうそこまでしなくてもいいのではないかというのが、今夏の経験の結論だろう。
新型コロナは、無症状者が感染源になったりするなど厄介な病原体だが、50歳未満では重症化リスクはほぼなく、それ以上ではあるなど世代によって随分影響が違う。加えて、重症化するとかなり長期間の入院が必要となり、医療資源を占有してしまうのも特徴だ。それによってほかの患者さんの医療を提供できなくなるリスクがある。だが、逆に言えば、これらのことにしっかり対処すれば、さほど新型コロナを恐れる必要はない。つまり、リスクの高いところに集中投資することが重要で、そうすれば経済との両立は可能ということだ。
――国民全体にまんべんなくではなく、的を絞った対策が重要ですね。
1つは、ウイルスの拡散源となる「夜の街」での対策。もう1つは、重症化リスクの高い人に感染が広がらないようにする対策。後者のためには、医療機関や高齢者施設などで予防用の設備や検査機器・体制に集中してお金を投じる必要がある。クラスター対策や検査などの業務でパンクしがちな保健所の体制強化も重要だ。
◇ コロナ重症者用病床の確保にインセンティブを
――重症者用の病床確保策についても提言されていますね。
高リスクのところで対策を行っても、どこかで漏れが生じれば重症者は一気に増えかねない。重症者に対応する病床が不足することが医療崩壊を引き起こす最大の原因であるため、そこへの対応も不可欠だ。医療崩壊まで行ってしまうと、地域経済を止めざるをえなくなる。経済停止のコストを考えれば、コロナに対応できる病床を確保することのベネフィットの大きさがわかるだろう。
残念ながら現在は、コロナ対策用に病床を空けることと、ほかの疾患のために病床を空けることでは、後者のほうが医療機関の収益にとってメリットが大きい制度になっている。そのため、私は医療機関のインセンティブ構造を変える財政支援が必要だと提言している。
――コロナ禍によって受診抑制が起き、経営難に陥る町のクリニックも増えています。破綻が相次げば、地域医療の受け皿が毀損してしまいます。
そうしたクリニックになぜ患者が行かないかと言えば、感染症対策に不安があるからだろう。クリニックや医療機関が感染症対策をしっかり行うことを目的としてお金を使うべきだと分科会で議論している。経営危機だから一律にクリニックへ補助金を出すというのではなく、財政支援のあり方を考えるべきだろう。