2020年11月19日木曜日

リミット挑戦に最適の毛無山

 このところ雨が降らない。加えて、秋の深まりが一休みしている。昨日(11/18)に、また富士山を観に行った。本栖湖と田貫湖の間、天子山塊の毛無山1948m。2年前の8月に私は上っている。そのとき、毛無山からの下山ルートに地蔵峠から沢に沿って麓登山口へ下る道をとった。これが崩れていたり、沢の徒渉を何度か繰り返すところがあり、加えて当日の高気温にやられてすっかり消耗したことがある。先週、栃木県の氷室山へ向かって登山口にまでたどり着けなかったこともあって、果たして地蔵峠からの下山路がどうなっているか心配ではあった。もし崩れていたら、ザイルを使って上るところも出てくるかと思案していた。もちろんコースタイムも、往路を下るよりは1時間半ほど余計にかかる。同行するkwrさんは往路をとりましょうと簡単に返信が来た。

 予定の登山口に8時半前に合流。駐車料金を支払い箱に入れて、出発する。高速道を河口湖ICへ向かう途中で、富士山が見えた。下の方は雲の中だったが、8合目から上は真っ白な雪をかぶり、その上の青空に映えてみごとであった。だが富士山西側の登山口からは雲が視界を遮り姿は見えない。入口には「※地蔵峠は通れません。※クマ出没」とワラ半紙に手書きして、貼ってある。

 神社を過ぎて登山路に入ると、朝陽を照り返して紅葉の林が明るく輝く。だが沢を渡ると秋は姿をひそめ、冬枯れになる。この後はしかし、景観を気にする暇もないほど岩を乗り越えていく急登になる。ロープを張ったところが何カ所も続く。「1合目」から「9合目」までの表示が、最後の稜線にたどり着くまでつけられていて、それが励みになる。今日の標高差は1100m。急登のはじまる地蔵峠分岐から稜線に出る南アルプス展望台までの直線距離は、およそ2km。その間に1000mを上ると考えると、斜度は30度。きついわけだ。地蔵峠分岐にあった、泥で汚れた古いイラスト付き案内看板には、地蔵峠分岐から山頂まで上り140分、下り100分とあったが、昔の山人は力があったのかもしれない。

 不動の滝見晴らし台に9時7分。コースタイムより10分余計にかかっている。kw夫妻は、先週も大山詣でをして来たそうだ。山行計画をつくるとき、kwrさんは「毎週ではなく、月に一週は休みを設けたい」と骨休み提案をしていた。私もそうだなあと思っていたのだが、実際の休みの週になると、身がうずうずして、どこかへ登りたくなる。先週私は、下見のつもりで栃木県の氷室山へ向かったのだが、昨年の台風19号で登山口への林道が崩れ、その修復中であったために通行止めを食らって、やむなく引き返している。つまりkw夫妻も、骨休みをと思いながらも、どこかへ登りたいという気持ちを抑えきれないほどに、山歩きが習慣化しているとみてよさそうだ。「いや、けっこう足に来ましたよ」と男坂の石段に閉口したようなことを言う。「ロープウェイで降りなかったの?」というと、kwmさんが(何、バカなことを言っていんのよ)という顔をした。大山詣では、今日の為の足慣らしだったというわけだ。

 中間点の少し手前に「レスキュウ・ポイント」と書かれた看板があった。「ヘリコプターで救出できる場所と説明も加えられ、事故があったときには119番に電話をして、この場所を利用して救助を求めなさいというのであろう。でも、ここに着陸できるかしらと、周りの枯れた木立をみながらkwmさんが呟く。ザイルで降りてくるんじゃないのとkwrさんが応じている。ほぼ中間点にあたる標高1600mの「六合目」が、その先にあった。見上げると枯木のあいだに青空が広がり、すっかり雲がとれているようにみえた。

 岩を乗っ越す上りはつづき、大きな岩が立ちはだかるところに「富士山展望台」があった。

「おっ、見えるよ」とkwrさんが声を上げる。振り返ると、木立に邪魔されながらも七合目辺りから上の雲が取れ、山頂部がはっきりと姿を現している。なるほど「展望台」だわいと思った。こちらの富士山には雪がない。南西向きの斜面であるから、高速道からみた北向きの冠雪の山頂とはまったく趣が違う。静岡県の富士山だなと思った。

 そこから10分余で稜線上に出る。「南アルプス展望台」と名づけられた地点は、傍らのごつごつした岩を上らなければならない。kwrさんが先に立ち、狭いよと告げる。彼の背に立つようにして西側をのぞき込む。あれが北岳かとみえる地点は、手前の山並みに大きな山体の大半を隠されて、頭だけを出している。2週間前に、南アルプスの真っ白に雪をかぶった山頂部は、ほぼ黒々と見える。前回王岳に登ったときは、前日に雨が降った。しかしここ十日ほど雨が降らない。少し北西には八ヶ岳であろう。これも黒っぽい。

 11時53分、毛無山の山頂についた。すでに3人の若い人たちが食事をしている。三重から来たのだとは、私たちを追い越すとき最後にやってきた人が話していた。ずいぶん遠方から来たように思ったが、三重からすると、この静岡県は隣の隣。つまり私たちからすると茨城県へ行っているようなものかもしれない。新幹線を使うとすぐだねとkwrさんは口にしていた。途中で私たちを追い越していった単独行の男二人は、姿が見えない。このピークの、もう一つ向こうへ行ったのだろうか。それともさらに向こうの、雨ヶ岳を越えて本栖湖の方へ縦走したのだろうか。お昼にする。食べていると、単独行の方がぽつぽつと二人やって来た。結構御人気の山なのだ。そう言えば、麓の駐車場には、私が着いたときにはすでに4台ほどが止まっていた。その人たちは、何処へどう行ったのだろう。

 kwmさんが胃の調子が悪いという。彼女は力を遣い尽くすタイプ。腹の底から力を振り絞るのが胃に来るのだろうか。昼を食べていた人たちが立ち去った後、「あっ、見えた、見えた」と単独行の男性が声を上げた。富士山の八合目より上の雲が取れ、青空に背を伸ばしている。

「あんなに高いところにあるんだ」とkwrさんが言うから気づいたのだが、ここよりさらに1800m以上高いから、見上げるようだ。そのとき撮った写真をみると水平が狂っているようにみえるが、あれは富士山の南側が剣ヶ峰で少し高いから、山頂部分だけを観ると傾いているように感じる。

 と、北の方から男が一人やってくる。聞くと、向こうの最高点11946mまで行ってきたという。地理院地図には、そちらの方を毛無山と書いているが、実際にはその手前の1946mに、「毛無山」の標識をおいてある。それも二つも。一つは「山梨百名山」とあるが、もう一つは、「毛無山1946m」とある。2年前に上ったとき、「この山を山梨県に上げるから、富士山を静岡県に頂戴」と女の方がしゃべっていて、オモシロイと思った。県境なのだ。でも、置いてある位置が、逆じゃないかと、今回も思った。と、がやがやとにぎやかにしゃべりながら、3人のパーティが現れる。この方たちも、最高点に行ってきたようだ。麓の駐車場に先についたkwmさんは「奥さんが車で送ってきた人が、戻ってこないから、雨ヶ岳に行ったのだろうか」という。そうか、奥さんが車を下山口に廻して待っていれば、縦走もできるねと話す。山頂の掲示板を見ると、毛無山の山頂から割石峠までは5時間の行程。併せて「クマザサが深いためベテランを必ず同行してください」と付け加えている。上級者のルートだというのである。天気が良いから頂上で45分も時間をとった。

 12時半に下山を開始。kwmさんの様子を気遣って、mwrさんは少しペースを落とした。でも、登るときの急傾斜を下るのだから、気を抜くわけにはいかない。私は標高と時間とをチェックしながら、ストックを使って足を運ぶ。kwrさんのペースが私の体力にちょうど良い。持続力に配慮した運びになる。「よくこんなところを上ったねえ」とkwrさんは感嘆しながら下っていく。ペースが崩れず、標高の1/3を45分で降る。2/3を1時間半。見事にコースタイム男だ。このペースで下ると2時間15分で駐車場に着くと思っていたら、駐車場着、14時50分。5分しか狂っていない。車には、「駐車料受領」の印が押してあった。律儀なことだ。

 そこで、kw夫妻とは別れ、私は車を走らせて家路を急いだ。だが、4時半になると自動点灯の車の明かりが点きっぱなしになった。5時を過ぎると真っ暗である。夜の運転には注意してくださいと言われている私にとって、この時間の運転は鬼門である。ずいぶん気を張ってハンドルを握り、渋滞の外環を走り5時45分に帰着した。翌日、kwrさんから電話があった。彼も日が暮れる速さに驚いたようだ。冬場の山は、行動時間を身近くするか、もっと早く登り始めるかしなくちゃねえと、登山計画の変更にまで言い及ぶことになった。

 体力的にも、運転能力的にも、リミットの山であったなあと振り返っている。

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