2021年3月16日火曜日

春の秋ヶ瀬公園

 昨日(3/15)は気温が上がった。午前中は風が強かったが、お昼にはやわらいでいた。荒川河川敷の秋ヶ瀬公園の中央部、テニスコートわきの駐車場に車を止め、まずは北の方へ向かう。

 師匠は地面を覗いて廻る。ノジスミレが、しっかり花を開いている。去年筍を採った林は、まだ竹と枯木ばかり。師匠が指さす樹の幹の中ほどには古木をくりぬいて作った巣箱が掛けられている。

「あの木の幹に、アライグマ除けのプラスティックのシールドが巻いてあるでしょ。あれ憶えといて。あそこにフクロウが巣をつくるんだけど、木の葉が茂ると、何処だったかわからなくなるのよ」

 と、何ヶ月か先のことを考えて、言う。なるほど、そういうふうにウォッチャーは観察眼を蓄えていくのか。

 まだ葉をつけずに並ぶメタセコイアと背丈を競っているように居並ぶ柳たちが浅緑の葉を伸ばしてゆらりゆらりと揺れて、春が来たと寿いでいる。

 師匠がベニマシコを見つけた。そっぽを向いて背中を見せている。メスだ。「その、左っ。オスがいる!」と言われ、双眼鏡を動かす。お腹も顔も紅いベニマシコが陽ざしを受けて際立つ。ベニマシコだけでなく、シジュウカラも、エナガもペアリングははじまっているようだ。

「今日はこれで、来た甲斐があった」

 と師匠は、ご満悦だ。カメラや三脚を下げて散歩をしてる人が、あちらにもこちらにもみえる。人通りの少ない浦和レッズの練習場のフェンス沿いに歩く。鳥影は、ない。だがご近所の高校の制服をまとった生徒たちが、三々五々、すれ違う。その向こうのソフトボール場で、球技大会をやっている。そうか、もう卒業式も終わり、3学期の期末試験も終わって、生徒たちは終業式までの期末期間を過ごしている。たぶん今日は、河川敷の公園を借りてハイキングだろうか。バレーボールをしている大人数のグループもあれば、数人でぶらついている男子生徒や女子生徒グループもある。

 一昨日に降った雨の恵みだろう、一週間前に来たときには干上がっていた池が水を満々と湛えている。脇道に踏み込むと、まだぬかるんでいるところもある。森全体がしっとりしているように感じられるのは、そのせいかもしれない。小鳥が飛び交う。お腹の黄色い小鳥が枝にいる。

「ほらっ、そこっ」

 と指して、師匠に告げる。傍らのウォッチャー・カメラマンも、覗きに来る。

「ああ、アオジよ」

 と師匠が教えてくれる。カメラマンが、シャッターを押す、カシャ・カシャ・カシャという音が、(さあ、撮ったぞ)と誇らし気に響く。

 池の端に身を乗り出して、対岸の何かをカメラに収めようとしている二人連れがいる。何をみているのか。歩道から、お目当ての先を探ってみるが、わからない。

 その先の角を曲がると、カメラや双眼鏡や三脚をもった大勢が前方にも右の方にも屯して、皆さん、同じ方向へ関心を傾けている。近づいて、そのカメラの先を除く。3羽のヒレンジャクがいる。ときどき、下の草叢へ降りて何かを啄ばんでいる。ジャノヒゲの実でしょうと師匠。ヒレンジャクが飛び移るごとに、屯するあちらとこちらの人の群れが、わさりわさりと動くのが、おかしい。

 自転車で来た鳥友と師匠は話している。コロナ自粛のせいもあって、久しぶりの出逢いらしい。彼女とはその後、二度、出会うことになり、その都度、師匠は言葉を交わし、ときにしばらく自転車をおいて、師匠が植物案内をするようなことをしている。こういう振る舞いの自在さが、春を思わせて面白い。

 6月頃のエナガの「目白押し」をみるために、エナガの巣をチェックしようと、森や運動広場から離れた秋ヶ瀬公園の西の端の林を南へ歩く。背の高い木立は枯れているが、灌木は賑わっている。シジュウカラやヤマガラが飛び交う。エナガを探すが、見当たらない。アオジがいる。アトリを観た。カワラヒワが何羽も集まっている。イカルがいると聞いていたので探したが、見つからない。

 気が付くと、公園の半ばまで戻ってきている。「幸福の森ってどこだろう」と師匠が訊く。なんでもそこに、トラフズクがいたと師匠の鳥友からメールがあったらしい。「幸福の森(P)→」という標識はあったが、はてどこが、その森だろう。と、傍らの掲示板に、消えかかりそうな文字で「幸福の森」と記してある。あんだ、以前、ドッグランの催しをやっていた場所と、もう一つ奥まった処の草地を総称しているらしい。窪地に水路のように水が溜まっていたので、回り道をして踏み込む。ちょうどお昼に近い。ベンチに腰掛けて弁当を空ける。奥の草地には3人ほど年寄りが石のベンチに座ってお喋りをしている。

 広い駐車場には3台ほどの車が止まっているが人影はない。テニスに向かったか、向こうの芝地に張ったタープやテントで本でも読んでいるか。静かな、暖かい公園の春の気配に誘われた虫のように、どなたも蠢きだしている。

 お昼を済ませ、トラフズクの姿を求めて、幸福の森の周縁の林を覗いて廻る。奥の草地の向こうに、さらに引っ込んだ芝地がある。そちらへ行こうとすると師匠が、

「あら、ヌーディスト!」

 と声を上げる。ん? と奥を見ると、素っ裸の男が顔に新聞紙を被り、横たわっている。先ほど、別の道から回り込んできた人がいたが、そいつのようだ。

「訴えてやろうかと思ったのよ」

 と師匠は言うから、はじめてではなさそうだ。そうか、寒くなくなって虫も這い出してきたか。向きを変えて、草地から東の方へ向かうと、なんと、こちらにも一人、裸の男がいた。なんとまあ、いつからここはエデンの園になったのか。

「いや、文字通り、幸福の森だね、ここは」

 と、私の口をついて言葉が出た。

 午後は、南の方、子どもの森へ向かう。数多くの鳥影が、木の枝と地面を上がったり下りたりしている。双眼鏡を覗く。シメの群れだ。こんなにたくさんのシメが群れているのを見るのは、はじめて。しばらく、飛び交う姿をみていた。いつもならこちらにいるレンジャクが、北の方へ行っているから、ここのヤドリギの方にはカメラマンもバード・ウォッチャーもいない。

 いつもマヒワが水浴びしている処では、ヒヨドリが水浴びをしていた。

 蓬の葉が、まだ初々しく顔をみせている。サクラはまだまだ小さい蕾だ。これが、後2,3日で花をつけるなんて信じられない。ラグビー広場ではムクドリが屯して地面で何かを啄ばんでいる。向こうにはツグミがぽつりぽつりと周りの様子を伺っている。

 アリスイのいたサクラソウの第二自生地では、3人の作業員が地面に座り込んで何かを一つひとつ取り去っている。

「何を採ってらっしゃるんですか?」

「うん? これだよ。カナムグラ」

「外来植物?」

「いや。だけどね、これがはびこるとツルになって周りを弱らせてしまう。でね、ひとつひとつとってんだけどね。向こう(第一自生地)じゃあ、水をやったらどうなるかって、実験もしてるよ。今年は東京農大の学生さんも教授も来て、いろいろとやってみてるけどね」

「ご苦労様」

「ま、ごゆっくり、みていってやってください」

 この作業は、私たちが帰るときもまだ、つづいていた。

 ノウルシが黄色い花をつけて大きくなっている。アマナが最盛期のように咲き誇っている。第二自生地ではサクラソウが2カ所で5,6輪花開いていた。季節の進行が、早い。第一自生地ではシロバナタンポポが花をつけ、ノウルシやアマナと競っている。ヒロハアマナも、独特の筋の入った葉を延べて花を咲かせている。屈みこんでいた師匠が、バアソブの葉を見つけた。言われてみなければわからないが、見事にバアソブらしい小さい葉が寄り集まって所在を主張している。

 川の中州にはヨシガモが群れて羽を休めている。黒い尾羽、ナポレオンハットと言われる緑の頭が陽光に照り輝いて見事であった。サクラソウ自生地のボランティアも、あと10日ほどで始まる。

 帰りながら水路を覗くと、シジュウカラやメジロが、かわるがわるやってきて水浴びをしていた。冬場にみたキクイタダキは、もう姿を見せていない。エナガのペアが、灌木のあいだを飛び交っている。

 こうしてのんびりと、5時間ほどを過ごして春の到来を満喫してきたのでした。15500歩。11・5kmを歩いた。 

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