真保裕一『アンダーカバー/秘密調査』(小学館、2014年)を読む。
真保裕一のものは、『最愛』新潮社、2007年)を読んで、宮部みゆきと対照させて特徴を拾ったことがある。2013/6/16の「虚構という日常に浸る「おたく」」。今のブログに引っ越す前のものだから、探しても見つからない。次のように書きはじめている。
《雨のせいではなく、この二日間ずうっと小説を読んでばかりいた。宮部みゆきの『楽園』文藝春秋、2007年)、上下2巻、新聞連載小説。それと、真保裕一『最愛』新潮社、2007年)。いずれも、姉妹と姉弟の間の、不在の十数年を挟んで起こった「事故」を契機に、何があったかに踏みこむ組み立ては似ている。/だが、宮部の小説が、なぜ抵抗なく読み手である私の幻想に絡み、真保の作品がなぜ「作り物」めいていると思われてしまうのか。そういうことを考えながら、どっぷりと作品世界に浸っていた。/ミステリーというのは、読み手というたくさんの日常世界の「日常性」をたどりながら、そこに挿入された亀裂から「非日常世界」に分け入って、そこに生まれるスリルを不可欠としている。「非日常世界」というのは、じつは日常性の裏側に張り付いていて気づかれないまま見過ごされていることが多いと宮部はみてとり、そこを解き明かしてゆく。真保は、自分の日常世界とは異質の非日常世界がかかわりのないところにあるという設定だ。》
つまり、真保裕一のミステリー物は、単なる謎解きであったり、活劇ものだとみている。これ以外にも、『アマルフィ』(扶桑社、2009年)とか『天使の報酬』講談社、2010年)を読んでいる。
《つぎつぎと映画化されている外交官黒田康作モノの新しいヤツ。これも、日本の官僚機構の縦割りと連携的な守旧性と既得権益の最高峰という在りようとをベースに、型破りの外交官がミステリーを解き明かして上層の諸悪を明かしていく活劇である。》としるしたこともある。
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だが今回の『アンダーカバー/秘密調査』は一味違った。
才能を発露させて起業し、資金をため、吸収合併をくり返して、ビジネス界の寵児となっていた主人公が、罠に掛けられ異国の地で麻薬所持で逮捕・有罪となり収監されている間に、事業は凋落して、乗っ取られるように破綻してしまう。だが刑期の途中で無罪が判明し釈放される。誰が、なぜ罠を仕掛けたのか。釈放された主人公が「秘密調査」に乗り出すという設定。「外交官黒田康作モノ」同様に、ヨーロッパやトルコ、アメリカを股に掛けた陰謀と犯罪捜査が行われていく、世界情勢を組みこんだミステリーである。
一味違うというのは、この主人公が、「秘密調査」をすすめる間に、自らの行っていたビジネスがいかに偏った見方に取り付かれたものであったかに気づいていく。謎を解き、人のかかわりを知るにつけ、薄皮を一枚一枚はがすように見えてくるのは、ビジネスの寵児として働いた自分が、ゲームをしてるように限定された側面しか見ておらず、人生の全体像を捉えるというには、まったく偏っていたと気付き、変わっていく姿が、描き出されている。
むろん、売り出しは、ミステリー。上記の移ろいは行間に埋め込まれるようにして後背に見え隠れするにすぎないが、ワンステップ奥行きを深くしていくかもしれないと、今後の仕立てに期待をもたせる作品になっている。
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