緊急事態宣言が解除となり、今年初めて県境の越境をして奥日光の戦場ヶ原へ行ってきた。昨日(3/23)のこと。
前日の風の強い曇り空と違って、からりと晴れた。東北道はそこそこ混んでいる。トラックと仕事に出かける人たちのようだ。栃木IC辺りを過ぎると、走りやすくなった。日光道へ入ると、車は少なくなる。いろは坂にかかると工事をしていたが、走る車両も多くないから、さかさかと雪もない道を登って行ける。
赤沼に着く。これまで車をおくことのできた赤沼茶屋の広い駐車場には、ロープを張り巡らして、車が入れないようにしてある。その奥の赤沼駐車場は「使用できません」と張り紙をして、ロープを掛けて進入を止めている。仕方がないから、赤沼駐車場から広い道路までのアプローチ部分に止めた。3時間半ほど歩いて戻ってくると、私の車の前後に行儀よく車がずらりと止めてあったから、皆さん見習ったわけだ。8時40分。
戦場ヶ原の入口のところで、3人の男が看板を取り付けている。新しい戦場ヶ原案内図。ルートとコースタイムが書きこんである。今日の予定コースをみると、4時間10分のコースタイム。戦場ヶ原を通り抜ける木道が新しくなっている。これまでのに較べて広い。しかも、二筋に分かれていたのを一つにまとめているから、格段に歩きやすくなった。雪もついていない。乾いて朝日を受けてキラキラと輝いている。環境省が昨年、付け替えたのだそうだ。戦場ヶ原の突き当りで湯川を渡る青木橋を修復するために戦場ヶ原が通行止めになったとばかり思っていた。いや、事実そうなのだが、それだけでなく、木道の張替えまで行っていた。
歩きながら振り返ると、男体山が陽ざしを受けて頼もしそうだ。大真名子、小真名子から太郎山や山王帽子山、三つ岳がくっきりと姿を並べて見せてくれる。揃い踏みってやつだ。戦場ヶ原の雪は草の中に残る程度。湯川の水が勢いよく流れる。マガモやヒドリガモ、オオバンが流れに浮かんでいる。傍らの大きなズミの木がにぎわっている。声ではない。飛び交う姿が多い。双眼鏡でみると、キレンジャク、13羽。何かを啄ばんでいる。白樺の木との間を行き来しているのもいる。望遠スコープにカメラを取り付けた男が一人やってきて、キレンジャクにカメラを向ける。私はその場を抜ける。
青木橋がかかっている。どう変わったのかわからない。コゲラがやってきて、向こうの木に止まる。湯川の中にあったバイカモがまったく見えない。冬だから見えないのか、工事の関係でなくなってしまったのか、わからない。橋の上に立っていると風花が舞う。どこからやって来るんだろう。空は青い。外山や白根山の方は真っ白だから、そちらから風に乗ってくるのだろうか。
その先へ歩を進めると、木道の上に雪が残っている。それがだんだん多くなり、雪の上を歩くようになる。雪は凍っており、下手をするとつるりと滑る。ストックを出して両手に持つ。バランスを取りながら、木道の上に盛り上がった氷雪を踏んで、慎重に進む。雪は、陽の当たり具合と森に囲まれているかどうかで、溶け具合も変わる。凍っているのは、よく踏まれている雪。それがこのところの暖かさで溶けて、ふたたび凍りついている。かつて人の踏んだ後は、凸凹となり、ストックがなければ、歩きにくいことこの上ない。
泉門池に着く。木道もベンチも昔のまんま。佇まいも、静かなまんま。男体山が静かに見下ろしている。湯川沿いの道は、一昨年の台風で道が崩れ、木道の手入れもされず、通行禁止。代わって、森を抜けて湯滝へ向かうルートがつくられている。一昨年の冬、応急につくられたときは、ミヤオザサの茂みを踏みつけるように、あるいは、刈り払った裸地に雨が落ちて泥んこになっているようなところもあった。それが、落ち葉が降り積もり、しっとりとした道になっている。すすむとそこにも雪が残り、木道の残雪同様に慎重に進まねばならなかった。
湯滝に行って、二組、4人の人と出会った。一人はカメラマン。あとの3人は、湯滝脇のルートを登って行った。湯滝の水量は、いかにも春が来たぜと自慢するようにほとばしっている。近辺の雪が解けたのを全部湯ノ湖に集め、その出口から一気に放出する。これが、戦場ヶ原の湿気を保っている。
ふたたび泉門池に戻り、小田代ヶ原に向かう。単独行の十代かと思う青年と、チラリと目を見交わしただけですれ違う。この沈黙が好ましい。
小田代ヶ原への道に踏み込む。森を通るから、残る雪が多い。歩く人が少ないから、雪が荒れていない。快適に歩く。カケスの声が響く。カラの声と姿がチラリとみえる。いつだったかシジュウカラがいると言ったら、同行していた鳥の達者が、ここにはシジュウカラはいいないと決めつけられたことがあった。でもなあと、思っていたが、その後、何度かこの辺りでシジュウカラを目撃したから、私は私なりに得心していたことがあった。そんなことを思い出しながら、バランスに注意して小田代ヶ原の入口にある鹿除けの門をくぐる。冬場は回転翼を取り払っているから、ただの門にみえる。
ここの木道も修理されて広くなっている。小田代ヶ原が遮るもののない陽ざしを受けて、草モミジの色合いのまんまに広がり、その向こうに男体山がどっしりと見守るように構えている。貴婦人がちょうどいい位置に立っている。いい構図だなあ。ぐるりと木道を回ってシカ柵の入り口近くに行く。アラサーの二人連れがガスストーブを焚いてこれから食事にしようとしている。11時20分にならないが、ちょうどベンチやテーブルが4脚もある。私も食事にする。
わずか15分ほどで食事を終えて、挨拶をして赤沼へ向かう。舗装車道からシカ柵の中に入ると雪が俄然多くなる。踏み固められたところが凍って高く残り、その上を歩くのは、やはりストックでバランスを取らなければならない。クイックイッと鳴くのはアカゲラだろうか。でも見つからない。静かなカラマツ林をぼんやりとすすむ。身を置いているだけで、十分春を愉しんでいる感触がする。でも、関東平野の春はすでに桜が咲いてるから、ここの春はまだ浅いか。これもいいなあと思う。
湯川が近づいてから、やってくる人が多くなった。3組、6人の人とすれ違う。一組は中国語を喋っていたけど、観光客ではなさそうだ。日本に在留の方たちかもしれない。赤沼に着いた。12時15分。スタートしてから3時間35分。街を歩いているより、ずうっと心地よい。何も考えない時間が多くなってるって感じだった。
その後湯ノ湖の方へ行き、スキー場を覗いてきた。スキー場は開いていた。音楽がかかっていたし、リフトも一機だけだが動いている。スキーヤーは3人だけ。気の毒だね、スキー場が。白根山の方から降りて来て、装備を解いている60年配の男性がいた。
「白根?」
「いや、そのずうっと手前。斜面の雪ががちがちに凍ってて、歯が立たない」
と傍らの12本詰めアイゼンを指さす。ピッケルも2本持っているから、場合によってはアイスクライミング風に登ろうと考えていたのだろう。
「まあね、冒険するほどでもないから、引き返して来ましたよ」
と、帰着した無事に感謝しているようだ。宇都宮の人っていう。地元民だ。そうそう、何度でも、そうやってチャレンジすればいいさ。
さかさかと、空いた高速道を通って帰ってきた。3時着。ご機嫌である。
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