2022年9月2日金曜日

ハイブリッド・リテラシー

 ロシアのウクライナ侵攻はハイブリッド戦であったとネット情報が流れている。武力による侵攻の前に、ウクライナの市民生活に潜り込んで工作を行うスパイ活動。サイバー攻撃によってインフラを混乱させ、フェイクニュースを流す。まるで本で読み、映画で見るようなフィクションと同じようにみえる。それは市民生活の分断が敵方の弱点となり、侵略を扶ける。「人は城人は石垣人は堀」を事前に崩す、内側からの攻撃である。当の市民からすると、この社会に流れる流言やネット情報そのものがフェイクかもしれないといわれると、どこで真偽を見分けるか。何を根拠に見破るか、と胸に手を当てて考えてみる。とどのつまり、日常に於ける政府の統治方法が何処まで市民の信頼を得ているかよると思ってきた。

 そこに踏み込んだ、まさにその渦中にある記事が、昨日(9/1)の朝日新聞に掲載された。「サイバー情報戦 闘う台湾」と題されたインタビュー。取材を受けているのは、唐鳳(オードリー・タン)「台湾の初代デジタル発展部長(閣僚)」、35歳で台湾の閣僚になった(学歴・中卒の)天才。

 いまも世界最大(数)のサイバー攻撃を受けていて、それに対処してきている。ウクライナ戦争を受けてヨーロッパで「ハイブリッド戦」を話し合った、その攻撃の内容と防御の手法の梗概。逆にネットによって防御を強化してゆくウクライナやそれと連携する周辺国の気配も行間に伝わってくる。それは即ち東アジアに於ける台湾と日本の連携も視野に入れている話しである。

 フェイクニュースの拡散力が強い内容を抽出し対応策を講ずるというところで、コロナウィルスの変異株と対応策へとリンクし、行政に頼るというよりも官民の協業を必要とする、自助・共助・公助の力を付ける社会形成へとオードリー・タンの視界は広がっていく。そうだ、こういう視線こそが、わが政府、わが行政、我が町のコミュニティだと、いまの行政やコミュニティの有り様と対照させるようにしてイメージが前向きになる。

 インタビューの中でオードリー・タンは《人々のメディアリテラシーを記者のレベルに上げるのです》と取材記者に応えている。そうだね。そのようにして学校教育を超えて世の中の「混沌」からわが身を護るに値するコトゴトを見分ける。それを(コミュニティで)共有する。どこかで読んだが、わかりやすい日本語を普及する専門家の尽力に対して聾唖者から異見が出された。口述・記述の日本語と手話の文法・語法が違うために「翻訳」できなかったり、誤解が生まれて、世の中で馬鹿にされることもあった、と。市井の民の視点から情報を読み解いて「底堅い関係への確信」を持つようにしたいと志している私に、一つ警鐘を鳴らす視線が含まれている。市井の民の読み解く力は、自らの立ち位置を固執するのでは敵わない。自らを対象としてその根柢を吟味する組み込んでいなければならない。そういう所に目が届くんではないかと、オードリー・タンのデジタル視線の背景に横たわる社会や人間に対する感触に期待までする。これは私にとっては、無い物ねだりであるし、この先のも目にすることはないかもしれないことに思える。

 だが、期待はある。というか、そういう期待を持って若い世代にバトンを渡すっていうのが、麗しいではないか。子どもより若く、孫よりは上という30歳世代の若い人たちに期待できるってのが、頼もしいではないか。いま日本に、そういう政治家っているのかい?

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