2020年6月15日月曜日

三国の境をうろうろと


 「自粛解除」の響きがよほど体にいいのか、カミサンの鳥友たちがひっきりなしに「鳥情報」を送ってくる。自粛慣れしたカミサンは散歩をするように、あちらにこちらにと私を連れていく。何しろ私の車がアッシーくんだからだ。
 今日は雨の予報ががらりと変わって、猛暑日の暑さ。昨日鳥友のOさんからコウノトリのヒナが大きくなっていると報せが入る。もう一人の鳥友Fさんからも、渡良瀬遊水地のMAPCODEの****と8桁の番号が記してある。マップコードってわかる? と聞かれ、でもスマホのgooglemapが使えない。結局、Oさんの「国道4号を行って、野木駅入口を左折、思川を渡って土手を下った最初の信号を左折してまっすぐ行くと土手にぶつかる」とあるのをメモして、場所を調べる。栃木県の小山市になる。渡良瀬遊水地の北側。広大な葦原が広がっている。googleの地図では「コウノトリ人口巣塔」とある。何だ、こんなにはっきりしているのかと拍子抜けをしたくらいだった。ところがスマホのgoogle-mapで調べると小山市のその周辺に「コウノトリ人口巣塔」というのが、ほかに5カ所もある。ずいぶん力を入れてコウノトリの保護と育成をしているようだ。

 
 その人口巣塔のひとつにコウノトリが巣を作った。雄は千葉県で育てて放鳥したヤツ、雌は徳島県鳴門市で育てて放鳥したのが小山市にやってきて、ペアリングし、3月にメデタク受精卵が誕生したということのようだ。自然ペアのヒナが孵ったというので、新聞にも載り、人が押し寄せている。私もその一人というわけ。
 その仔細が、土手に蝟集するカメラマンの前の掲示板に掲出された何枚ものプリントからうかがえる。むろん、放鳥するときに足環をつけるからどこの誰とまでわかる。誕生地で名前が付けられていたり、鳴門市や小山市では「特別住民票」を発行しているというから、ほとんどお遊びのように人間化してもてはやしている。土手の上に何十台かの車が駐車していて、皆さん朝早くから来ているようであった。陽は照りつける。日陰はない。
 
 高い塔の上に雛が2羽、身を乗り出しそうにして、北西を向いている。その後ろに親鳥が一羽、立って日陰を作っていやっている。おおよそ500メートルは離れていようか。巣の塔の下では何台ものダンプが出入りして何やら工事をしているが、コウノトリは動じる様子がない。周りは葦原と池が点在する。葦原からはギョギョシギョギョシケッケッケッと賑やかなオオヨシキリの声が聞こえる。浅い池には、コガモやカルガモ、バンやカワウ、アオサギが何羽も散らばっている。スコープに入れてみると、足輪まで見えるが、オスかメスかまではわからない。ヒナもしばらくすると顔を隠してしまった。タイミングよく見ていないと、見過ごしてしまいそうだ。30分ほどみて、場所を移す。
 じつは、Fさんから、トラフズクの親子が渡良瀬遊水地の××にいる、オオセッカとコヨシキリがさらに別の場所にいたと情報が入っていた。そちらへまわる。
 
 大きな渡良瀬遊水地を回るにはぐるりと周縁を回り込まねばならない。それだけで10キロくらいにはなろうか。栃木県から埼玉県に戻り、また栃木県藤岡町に踏み込む。こちらは教えられた場所の近くに、十台くらいの車が止まっている。樹林のなかに二十人ほどの人が、上を見上げている。木の上に大きな巣があり、トラフズクの3羽のヒナが顔を出している。緑の木の葉に邪魔されてうまくアップ写真を撮るわけにはいかなかったが、一羽はぎょろりと目をむくようにして、黒っぽい、まるで狸のような顔を向けて、睥睨している。親鳥が同じ高さの2メートルほど離れた枝に止まって、ヒナの様子を見ている。これも、木の枝と葉に邪魔されて顔をしかとは見せない。
 
 そういえば、6/10(水)に、やはり鳥友のお知らせもあって、さいたま市内岩槻区の公園にいるフクロウのヒナと親鳥を見て来たばかりだ。こちらの方も、うっそうと茂る木の枝に出てきたヒナが、ふらふらとバランスを鳥ながら、親鳥から餌をもらっていた。尻尾が短いからモグラのようだねと傍で観察していた人は話す。彼は、親鳥がすぐにえさをちぎって食べさせることをしないで、まずモグラの全身を口先にもっていって臭いを嗅がせている。しばらくそうしておいて、今度はちぎって少しずつ加えさせる。最後には全部を与えると、与える経過を話す。餌をとるしつけとみているようだ。じっさいに、(彼の話のように)順を追って、ちぎって与え、ついには全部与えてしまうまでを、見上げてみることができた。おおよそ20分くらいかけたであろうか。一度は途中で、モグラを落としそうになり、バランスを崩してヒナ自身が落ちるかと思うような気配をみせた。面白かった。
 それを観ていた彼の人は、午前中からみていたようで、ヒナが枝から落ち、つるに足が絡まって何とか下まで落ちないで済んだが、そこから身をたて直して元に戻るまでが面白かったと付け加えた。なるほど、そうやって、日長一日、ヒナの保護者のような心持で見守っているのが伝わる。こちらはみている人たちの仲の良さが漂うようであった。トラフズムも、ず~っと見ていると、そのようなドラマを見せてくれるかもしれないと思った。
 
 そこから渡良瀬遊水地の北の方へ向かう。こちらは群馬県板倉町になるから、今日は、埼玉県と栃木県と群馬県の三国の境をうろうろと行ったり来たりしているわけだ。
 北エントランスから葦原の中に入り、オオセッカとコヨシキリの声を聴き、あわよくば姿を見に行く。この時気づいたのだが、渡良瀬遊水地というのは、なんとも広い。もっともかつては谷中村一村がすっぽりと入っていたわけだから、広いのは当然だが、そのほぼすべてが見晴らしの利かない葦原となってみると、ひときわ広さが身に染みる。一部で車を止め、降りて、声を聴く。オオセッカの声が大きく響く。オオヨシキリが割り込んで、けたたましい。双眼鏡を覗いていると、姿を見せる。オオヨシキリより少し小さく見える鳥が葦に止まり、明らかに違った鳴き声で縄張りを謳う。カミサンが、ああ、あれがコヨシキリよと教えてくれる。セッカの声も聞こえ、鳴きながら飛び立っていく姿も見える。オオセッカも片時もじっとしていないのかもしれない。
 
 気温は35度になっていたが、広大な葦原は暑さを忘れさせるほどのさわやかな気分を味わわせてくれた。後になって、県境を越えたことに気づいた。ま、昔は入会地のように住民たちが出入りしていたところだから、難しいことは言うまい。谷中村の名前ともども、私の胸中の「ふるさと」を想わせてくれた半日であった。

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