それまでも2日に一回は清拭があり、温かいウェットおしぼりで体を拭いてくれた。左手の届く所は、もちろん自分で拭く。
入院して2週間目に、風呂が許可になった。
30代の女性二人と60代の、部屋に出入りしていたオバサンがスタッフ。洗い場の一つはすでに痩せこけたお年寄りが上がる態勢に入っている。動かない手を補助してはくれたが、衣服を脱ぐ。スタッフはテキパキと手早く衣類を棚に置き、別のスタッフは「右手が動かなかったんでしたっけ」と言いながら、座った私にシャワーの湯加減を聞き、「頭と背中を洗います。前は自分で洗える?」といいつつすでに、湯をかけている。
手順の決まった機能的な動きが、羞恥心とか性差に関する余計な感情を簡単に洗い流す。そうか、私もお年寄りの患者なのだ。
頭の傷、躰の痣やかさぶたなどの痛みを確認しながら、シャンプーを泡立て頭を洗い、泡立つタオルを手渡して、自分で洗えるところは自分で洗う。左腕はさかさかとやってくれた。
「湯船につかりますか?」
と訊ねられ、はい、出来れば、と応えていたから、湯をいっぱいに張った少し小さめの湯船に入る。座るとちょうど首のところまで浸かる。40度かな。こんなにゆっくり浸かっていていいんですか? と聞こうかと思うほど、つかる。その間スタッフは洗い場の片付けに入り、それも終わって姿を消し、私は私でぼーっとして、湯を堪能していた。
風呂場に入ってからすぐに、おばさんが
「秩父の人じゃないんね」
「えっ、何処の山?」
「そうかい、骨折らなくて良かったいね」
と声をかける。若いスタッフも
「そう言えばこの前、フタゴヤマで滑って骨を折ったひといたでしょう」
と言葉を挟む。ここなら横瀬の二子山かな、それとも吉田町の双子山かなと、私と言葉のキャッチボールをしているうちに、作業は終わった。
気持ちがいい。やっと人心地ついた。部屋に戻り、歩いてみると、歩き方にもテンポが感じられる。夕方、冷え込みを感じ、セーターを着こんだ。こういう寒暖を覚えるというのも、ひょっとすると回復している証なのかもしれない。
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