2021年5月29日土曜日

あなただれのおきゃくさま?

 身体不自由の長期入院という事態は、日頃のわが身の在り様を考えさせるに衝撃的でした。

 入院当初2回の食事は、食欲もなく汁物だけを飲んで下げてもらいました。お粥にしてもらい、煮びたし、根菜の煮物、煮魚、デザートなど、全部で4品。1日1400kcal、塩分6g未満。病院食です。

 両手がうまく動きませんでした。いまでも右腕は力が入らず、胸の高さに上がりません。もちろん病院は、食事の時に介助をしようとしてくれます。でも、左手でスプーンをもって口元に運び、自力で食べることができるようになりました。

 一つひとつの動作はゆっくりです。間合いも十分すぎるほど必要でした。

 そのときわが胸中に、バチバチウィルスがいくつも入ってきました。


 なんて、これまで、忙(せわ)しなく食べていたのだろう。

 なんて、たくさんの量を、ふだん食べているのだろう。

 なんて、味わいもせず、胃袋に放り込んできたのだろう。

 たくさんの「なんて」が湧き起り、それがつぎの「なんて」を生み出します。

 そこで、はたと思い当たりました。

 ああ、食べること、食べ物のことに、ちゃんと向き合ってこなかったんだなあ、と。

 

 山歩きをするとき、食糧計画をたて、調理プランも考えてきました。でも、お腹を満たすこと、カロリーばかりに関心が傾き、あとは重さやかさばり具合を考えて準備をしてきたのです。ま、山は非日常ですから、それはそれで一向にかまわないと、今でも思います。

 日頃の食事がそれではダメなんだよ、とバチバチウィルスの浸入した細胞が訴えています。

 何がダメ?

 基本がダメ。食材がなんであるか、どう調理しているか、取り合わせはどうなのか、どうやっていまこの食膳に並んでいるのか。そんなことにに関心を持たないで、ヒトは生きては来られなかったはずです。

 他人(ひと)様にやってもらって、御馳走になるのは、お客様。

 あなた、だれのおきゃくさま? 

 自分のことを自分でやるというのが、生きていく基本。それを忘れていますね、とわが身がつつかれたのでした。

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