ゆっくりですが、内出血は薄れていき、傷はかさぶたとなり、手指の傷む範囲も指先や関節に凝縮していくように狭まってきました。骨折していませんから、下肢に問題はなく、不自由な右半身を左でかばえば大抵のことは自分でできるようになりました。横になっていると、それだけで病人になってしまいそうな気分になります。
大部屋へ移ったのは入院後5日目。
起きている間ときどき、一人の部屋を歩くようにしました。思い浮かべたのは動物園のマレーグマ。檻の中を右から左、左から右へと行ったり来たりしています。歩数計がスマホについていますから、肩から掛けてカウントしてみました。最初は合計8000歩。次の日は1万歩。といっても野外を歩くのとは速さも消費カロリーも違います。スリッパをはいた小さな歩幅です。今日は1万1千マレーグマだなと呼んで、ま、この程度歩いていれば体にもいいだろうとつづけました。
歩いているうちに、歩数はどうでもよくなり、それよりも踵から脳髄にまでずんずんと響く軽い衝撃が何か身の裡の夾雑物をパラパラと振るい落として行く気配を感じます。それとともに、この簡素な在り様が、これまでのわが身の在り様に突き刺さってきます。良いとか悪いとかではありません。ずいぶん違う世界を歩いているじゃないかと問いかけてくるように思えるのです。
マレーグマ同様、私も動物だという共感に似た感懐も、身の裡に湧き起っています。
何だろう、これ?
回心?
まさか。
基本に還れ、という天の啓示じゃないか。
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