2021年10月12日火曜日

第二期第13回seminarご報告(4)高温ガス炉という新機軸原子炉

 ミヤケさんの話が佳境に入った。「原子力発電」である。フクシマ以来、「原子力発電」はタブーのように扱われてきた。だが、モンダイは、フクシマが発生したワケをしっかりつかまないで、ただ「原発」を排斥すれば済む話ではない。2011年のときも、ミヤケさんは、エネルギー源としての原発は必要という態度を崩さなかった。そしてそのとき彼は、モンダイは原発を適正に維持運営するだけの企業経営や現場管理が為されていないことと見ていた。

 今回の「原発」に関する提起は、しかし、企業経営や現場管理についてではなかった。原子力発電の仕組みそのものが、これまでと違った技術方式によるものであり、それによって水素精製をするメカニズムであった。

 話は、順を追って進められた。

(1)まずこれまでの福島原発などの、原子炉の構造と電力生成方法。原子炉建屋とタービン建屋の模式図を図示して、海水が原子炉の冷却にどのように用いられているかを示す。その海水が、大地震の津波による電源停止によって供給されなくなったために、原子炉に環流する復水器での冷却が行われなくなり、原子炉の暴走がはじまって高温となり、炉心溶融がおこったと、福島原発事故の概略を説明する。

(2)次に加圧水型原子炉の模式図を示す。フランスでもっぱら用いられているもののようだ。(1)との違いは、原子炉の中を流れる高温水は、蒸気発生器を通過して別系統の水に熱を伝え、即ち冷却され、原子炉に戻る。つまり、自己完結して外部に出ることはない。別系統の蒸気発生器で熱せられた蒸気がタービンを回して電気をつくる。そののち、復水器で系統を別として送られてくる海水によって冷却され、再び蒸気発生器の方へ送り込まれる形で、これも自己完結している。冷却に海水を用いる点では(1)と同じであり、もし万一電源停止となって海水が送り込まれなくなれば、フクシマと同じケースに至ることも考えられる。

(3)上記と違うのが,新規に提案される「高温ガス炉」。炉心の主な構成材に黒鉛を中心としたセラミック材料を使い、核分裂で生じた熱を外へ取り出すための冷却剤にヘリウムガスを用いたもの。軽水炉は300度ほどしか取り出せないが、高温ガス炉は1000℃程度を取り出すことができるため、二次系ヘリウムの900℃で水素製造を行うことが可能になる。850℃でガスタービン電気をおこない、200℃に下がったヘリウムを地域暖房や海水の淡水化などにも利用可能である。蒸気タービンの発電効率は30%程度だが、高温ガス炉のそれは45%以上となる。黒鉛構造材が2500℃の熱に耐える。また、セラミックス被覆燃料は1600℃でも放射性物質を閉じ込める。こういう新素材の開発によって、この高温ガス炉は可能となった。

 なにより、炉心溶融、水素爆発、放射性物質を発生する恐れがないと聞くと、いいことずくめ。小型の発電装置を設置することができるから、需要地で発電して供給する,いわゆる地産地消が可能になる。ということは、地域的な電力設計に対応が可能であり、従来のように過疎地を植民地的に利用するのとは異なる原子炉の設置を考えることができる。

 まだ、試験段階のようだ。これが実用化されると、海辺につくる必要もなくなる。ただ原理的には、放射性廃棄物の処理ができないことがモンダイとして残る。また、事業管理面での懸念さえ拭えれば、具体化できるが、それよりなにより、国民の間に広まっている原子力アレルギーが解きほぐされないと、ムツカシイと、ミヤケさんは結論的に慨嘆した。

 タツコさんからひとつ、質問が飛んだ。

「自民党総裁選の高市候補が、核融合方式をとればといっているが、核分裂とどう違うの?」

 ミヤケさんから翌日、次のようなメールが届いた。

《昨日のセミナーで質問があった件、私の回答が中途半端でしたので、ここに補足します。

核融合について:

 ドーナツ形の真空容器の中に、セ氏1億度を超える超高温の重水素と放射性物質であるトリチウム(三重水素)を閉じ込め、原子をくっつけることでエネルギーを生み出す――。ここで起きているのは地球と1・5億kmも離れた太陽の内部で起こっているのと同じ反応だ。酸素がない宇宙空間で生じている反応であり、もちろん二酸化炭素(CO2)を排出しない。そんな太陽と同じ反応を地上で再現するのが核融合炉だ。

 核融合炉は日本では「次世代原発」として語られることが多いが、電力供給が止まれば反応が止まるため、従来の原子力発電に比べれば安全性は非常に高く、廃棄物も出ない。② 核燃料サイクル

 核燃料サイクルとは、原子力発電で使い終えた燃料から核分裂していないウランや新たに生まれたプルトニウムなどをエネルギー資源として回収し、再び原子力発電の燃料に使うしくみです。

 このウラン・プルトニウムを再処理(再処理と使用済燃料の中間貯蔵参照)という工程で回収し、混合酸化物燃料(MOX燃料、Mixed Oxide Fuel)とすれば、再び原子力発電所で使用(プルサーマル)することができます。》

                                      *

 高市候補が,どのような文脈で核融合に触れたのか分からないが、タツコさんの話のトーンでは「未来の方式」というようであった。だが、ミヤケさんの補足は、まったく科学技術的なコメントに終始している。それよりも先に私は、えっ? 今頃高市さんは何言ってんの? と思った。

 日本のプルサーマル計画として鳴り物入りでスタートしたのが「もんじゅ」であった。しかし「もんじゅ」は1994年に臨界に達した後、「ナトリウム漏洩事故」を起こし、その後、設備装置の落下事故など、相次ぐお粗末な作業と管理を露呈して、ついに2016年に政府が「もんじゅ」の廃炉を決定したではないか。

 その失敗に対する原子力関係者や研究者の真摯な総括が行われている(にちがいない)と私は思っていた。だがそもそも、「未来の方式」という夢を売るような技術的事項として話を持ち出すことができることではないと、私は受け止めている。なんか、(この話自体が)変じゃないか。

                                      *

 ミヤケさんの話は、まったく科学技術的な「原子力発電」の解説であった。だが、科学的な基礎理論の展開と技術的な具体的可能性だけでは,すぐに信用できないことを,私たちはフクシマで体験した。つまり基礎理論に技術が伴い、それの現実展開に見通しがついたとしても、それを経営的に、ひとつの事業として起こし、持続するにはいくつも乗り越えなければならない「壁」がある。

 しかも、フクシマの事後処理に当たって、露呈した、事業経営者や政治家や原子力関係者の「情報秘匿」が、人々の原子力発電に対する信用を,大いに損なった。彼らに任せることが私たちの暮らしを脅かす。危険そのものであった。いや、そればかりではない。その後の、フクシマの除染や復興ということについても、何をやってんだろうという見当違いの施策が数多見られる。避難者からすると、モンダイが先送りされ、切羽詰まって、ほかに手の施しようがない事態に至ってから、ではどうすればいいというのかと居直るような態度が行政に見受けられる。除染もそう汚染水の処理もそう。事態が発生した時から見通せたモンダイであるはずなのに、言を左右にして先送りし、動きが着かなくなって時点で、どうしようもないと提案する手口には、もう飽き飽きするくらいである。この状況は、いまもまったく変わっていない。

                                      *

 ミヤケさんはさいごに、次の5点を提示して話をまとめた。

1,走行時にはCO2を排出しなくても、走行に利用する電気を発電する際のCO2排出が問題であり、結局は、発電の問題に尽きる。

2,EVでは直接に、FCVでは間接に(水素製造時に)電気のお世話になる。

3,いかにCO2の排出を少なくして発電するかが最終の問題であり、解は原発しかない。

4,カーボンニュートラルを言うなら、走行時のCO2排出ではなく発電時のCO2排出を議論すべき。

5,即ち、トータルなエネルギー戦略の議論が必要。火力、再生可能、原子力などの比率を実現可能な範囲で策定すべき。


 折に触れて考えていきたい。(「第13回seminarご報告」終わり)

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