週の始まりを歩くことから始めるのは、心地が良い。とことこと歩を進めるごとに踵から頭の先へ軽くずんずんと地面の固さが伝わってくる。頭の夾雑物が背骨に沿ってするするとつま先へ向かい抜けていく感触。リハビリに向かっている。
先週は、日差しを避けて住宅の陰をたどるように歩いたのに、今日は逆。日向をたどって進む。長袖シャツのボタンを一番上まではめ、腕先のボタンもきっちりと止めている。秋も深まっている感じだ。
武蔵野台地の畑と植栽を養生する樹木畑が続いていた土地が切り開かれ、虫食い状に住宅地が広がってきた中を、きっぱりと切り裂くように片側二車線、中央分離帯を設えた広い第二産業道路が北へと延びる。大型店舗が開かれて、目下開発途上の賑わいを見せている。30年前越してきた時には樹林の間を細い田舎道が続いていたのに、いまは幹線道路になって車の通行が絶えない。そこの信号を渡って再び、古い田舎道へ入る。ここの樹林もずいぶん少なくなった。田舎っぽさが広がっていた地域に入る。その古い住宅地の中にもっと古くから夫婦二人で営んでいる小っちゃな八百屋があった。そこが、この9月で店を閉めた。まだ店内の片付けをしている。
浦和駅の南側を抜ける日の出通りへ入る。片側一車線だが、歩道が着いている日の出通りは、車の通行もさほどでなく、いくぶん静かになる。歩く先のバス停の歩道でバス待ちのお客だろう人が二人いる。手前の女学生風は、車道寄りの仕切りブロックに身を寄せて背の後ろが空いているが、その向こうの年配のご婦人は歩道のほぼ真ん中に立っている。
前を通ってもいいが、それじゃあ悪かろう。後ろが狭い。少し手前で「はい、ごめんよ」と声を掛ける。ご婦人は動かないままに「※*◆」と短く音を発する。もう一度「はい、ごめんよ」と声を掛ける。やはり「※*◆」と音を立て、しかし動かない。狭い後ろを身が当たらないように私は通り抜ける。なんだ、コイツはと思う。品のあるご婦人に見えたが、自分の後ろが狭くなっていることに気遣いをしない。私の声には、「どうぞ」と挨拶を返したつもりなのだろうか。近頃耳が悪くなっている私には、音を発したようにしか聞こえない。こういうとき「邪魔だよ、どけ」とでも怒鳴るようにいった方がいいのだろうか。それとも、前をずい~っと通り抜けた方がいいのだろうか。爽やかな気分はどこかへ行ってしまった。
20年ほど前までは、この先、字・富士見のバス停を通る天気のいい日には富士山が見えた。だが今は、駅周辺のビルが高層化してすっかり視界を塞いでいる。そういえば、我が家のそばの樹林に、季節になると毎年カッコウが鳴き、その姿も見ることができたが、住宅開発が進んで、いつの間にか来なくなってしまった。家の庭にも、ジョウビタキやシロハラが来ていたのに、今はとんとご無沙汰している。
主要道を外れ、小学校脇を抜け、住宅街の中を抜ける。駒場運動公園の交差点で産業道路と見沼大橋へ抜ける片側二車線の広い道を渡って、住宅街の中を抜ける遊歩道へ踏み込む。この1・5㌔ほどは木々に囲まれて住宅の裏側を通っている風情がある。ランナーもいるし、犬の散歩をする人もいる。ときどき自転車も通る。市営球場や市立高校や中学校のグラウンドをみながら、閑静な住宅街を抜けると、目的の整形外科クリニックへ着く。
往復、約2時間弱。クリニックの滞在が約30分余。朝の合計1時間半の散歩が、今週の始まりとなる。季節の進行が感じられ、肩の張りもとれて、いい一週間の予感がする。
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